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第三夜-4

 

☆朱兄ぃのお友達


「親父、こっちは終わった。」

「おーう、じゃあ先に帰っててくれ。俺ぁ、今から会合だ。歩いて行くから、トラック乗って行っていいぞ。」

 会合=飲み会、であるという実態を知っている朱将あけまさは、渋い顔で父を見遣り、「飲み過ぎんなよ・・・。」と釘を刺した。

「おうおう、わぁってらぁ!」

 調子良く片手を上げる父だが、何とも頼りにならない返事である。朱将は溜め息を1つ残して、畑を後にした。


 作業用のトラックというものは、乗り心地に関してはまったく配慮をされていない。加えてこの山道だ。もうだいぶ慣れてきた朱将は、上に下にと揺れ動く車体を力任せに抑えつけ、急勾配の坂を下っていく。

「〜〜〜さんっ。朱将さーんっ!」

 遠くから、エンジン音にまみれて自分を呼んでいる声がして、朱将は車を止めた。パークウェイ―――正確に言うと、数年前までパークウェイだったが今は無料化されている街道―――に続く道から、洒落たバイクに乗って出てきた青年が、こちらに向かって手を振りながら猛スピードで近付いてくる。見知った顔だ。

 朱将は彼を認めて、呟いた。

「良平。」

 彼は、『朱雀荒神ゴッドバード』という暴走族予備軍の不良グループに属している青年だ。朱将より4つほど年下で、黄佐や青尉との親交もある。

 彼が属しているグループは、バイクを乗り回すのを至上の楽しみとしていて、朱将とは全力で殴り合った仲である。かつては『蒼迅獅子グレートタイガー』と名乗っていたのだが、朱将と殴り合った結果、その強さに敬服したリーダーが改名した。ネーミングセンスについては言わぬが華、というやつである。そっとしておいてやってほしい。

 朱将は手動式の窓を開けた。冬の冷たい空気が吹き付けてきたが、さっきまでこの中で作業をしていた朱将にとっては大した寒さではない。――アイツと会うのは久しぶりだな。最後にあそこのグループに顔出したのが去年の今頃だったから、丸々1年ぶりか。うん、元気そうだな。

 動きにくそうなほどモコモコに着込んだ青年―――多々見 良平が、スピードをまったく落とさないまま巧みな操作でバイクをトラックに横付けた。ドッドッドッドッドッドッ・・・と、規則正しくも喧しいエンジン音に、負けじと声を張り上げる。

「ちーッス、朱将さん! お久しぶりッス!」

「おう、元気だったか。」

「はいッス! 朱将さんもお元気そうで、何よりッス!」

拓彌たくやはどうしてる?」

「リーダーなら、まッたく変わりないッスよ! 相変わらず、残念なネーミングセンスしてるッス! この間なんて、新しく買ッたバイクに『超破壊轟鎖号』ッて書いて『メガハイパーチェイン』なぁんて名前つけちゃッて! それをドヤ顔で言われた時にゃあもう、噴き出すのを堪えるので精一杯だッたッスよ!」

「・・・そうか。」それ、本人に聞かれたら殴られるぞ―――と、朱将は思ったが、あえて何も言わずに頷いた。

「あ、それでッスね朱将さん。澤城のおッちゃんが呼んでたッスよ。至急、署まで来てほしいッて。」

「澤城さんが?」

 朱将は眉をひそめた。

 澤城、とは、生活安全課にいる初老の警官だ。彼とは、朱将の立場が立場―――高校時代、わけあって地元の不良グループの悉くを、拳一つで屈服させ、今でも最高の敬意を払われている名誉会長的立ち位置―――である故に、お互い世話になったり世話をしたり、利用したり利用されたりと、濃ゆいお付き合いをしているのである。昔堅気の彼は携帯電話が大の苦手で、連絡手段には人を使うことがほとんどだった。

 朱将は溜め息をついて、尋ねた。「何かあったのか?」―――あの人に呼ばれて、面倒事が待っていなかった時はない。

 良平は真ん丸の目をくりくりさせて言った。

「この間、西の連中がやられたッて話、もう聞いたッスか?」

「西の連中が? ・・・やられた?」西側に隣接する市を縄張りとしているグループは、昔から朱将たちと敵対関係にある。決して弱い連中ではなく、朱将も一応その実力は認めているのだが。「誰に。」

 良平は顔をくしゃりと中央に寄せ、苦々しく言った。「相手は、能力者集団ッス。」

「能力者集団・・・。」

「うッス。聞いた話では、突然5・6人でやッて来て、『俺たちの配下になれ。従わないと痛い目に遭うぞ。』ッて言ッてきたから、もちろん突ッ撥ねたら、逆にぼこぼこに伸されちまったそうッスよ。なんでも・・・」と、良平は言いにくそうに口をもごもごさせた。「・・・勝手に窓が割れたとか、車ぶん投げてきたとか、空飛んだとか、凍ッたとか。」

 ほんと、意味不明なことばッかッス―――と、良平は肩を竦めた。

「能力か?」

「まー、そうなんでしょうね。よく分かんねぇッスけど・・・。で、噂じゃあソイツら、今はこッちにいるらしいんッス。西の連中曰く、ソイツら、この県内の不良グループを片ッ端から配下にして、戦力増強がどうのこうの・・・ッて話してたそうで。」

「ふぅん。」朱将は目を細めた―――随分とまぁ物騒な話だ。西の連中は確かに敵だが、他所の連中にやられちまうとは・・・気に食わない。「その相手、何て名乗ったんだ?」

 そう聞かれ、良平は空を仰いだ。

「ええーと、何だッたかな。まッど・・・」生まれてこの方、一度も聞いたことのない単語だった。思い出そうとするが思い出せない。「まッど、こん、こんけ・・・こん・・・」

「コンクェスト?」

「あぁ、はい、そうそう、そんな感じッス!」朱将の助け船に飛び乗って、良平は視線を戻した。「それのー、はいかそしき? のー、まッど・・・マッド、グレネード・・・ん? グルービー? グルタミン? あれ、バルサミコだッたかな? ・・・あー、まぁいいや、なんか、そんな感じの名前ッした。」

「へぇ。」朱将は適当な相槌を1つ打った。組織の正式名称なんかどうでもいいけど、そうか、『マッド=コンクェスト』の配下組織なのか。『マッド=コンクェスト』ってのは、昨日のテロの奴らだろ。その配下ってことは―――「・・・つまり、青尉の敵ってことか。」

「へ? 青尉くん?」良平は首を傾げた。どうしてここで、弟さんの名前が出てくるんだろう? 「青尉くんがどうかしたんスか?」

 朱将はその疑問には答えず、前を見たまま言った。

「良平、もしそいつらが来たら、すぐに俺を呼んでくれ。相手は能力者だ、少人数だからって舐めんなよ。それから、俺の名前使って、他のグループの連中にもその話広めておいてくれ。常に警戒しとくようにってな。拓彌にもよろしくな。いいか?」

「うッス!」

 良平は満面の笑みを浮かべて、調子良く敬礼した。朱将から直に依頼されて動くことは、何よりも優先されるし、誰からも羨ましがられるし、とても名誉あることだ―――少なくとも、良平にとっては。ましてや、その彼から

「頼んだぞ、良平。」

 などと名指しで言われてしまったら、良平はもう舞い上がってしまって、ついさっき抱いた疑問などすっかり忘れ去った。

「はいッ、お任せ下さいッス!」

「あぁ。じゃあな。」

「さよならッス!」

 大袈裟に手を振る良平を、少し呆れ気味に苦笑を浮かべて見ながら、朱将は窓を閉めた。アクセルを踏んで山道を下っていく。良平はサイドミラーの中で、坂の向こうにその姿が消えるまでずっと、手を振り続けていた。

 朱将は時計を見た。時刻は午後4時になろうとしているあたり。―――今から会いに行こうか。至急、というからには、当然早い方がいいだろうし、ましてや能力者関係の話となれば、躊躇う理由も後回しにする意味も無い。ついでに、何か有益な情報が手に入れば儲け物だ。協力体制を敷けたら尚、良い。

「・・・行くか。」

 呟き、朱将はハンドルを切った。


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