雨の日の袋
雨の日、店の貸出袋は十枚しかなかった。
最初の十人へ貸せば、十一人目にはない。返却を前提にしても、今日初めて来た旅人は返しに来ないかもしれない。
「袋代を預かる」とロアン。
「器と同じ問題です」と雨宮。
返却、洗浄、穴の確認、保証金の返金。会計台が袋だけで止まる。
宗久は店の袋を貸さず、入口で買い物前に伝えた。
『今日は雨です。持ち帰り袋をお持ちでない方は、紙の商品を雨から守れません』
「売る気がないみたい」とリリア。
「濡れると分かって売るよりは」
客の一人が、外套の内側へ紙束を入れた。別の客は干物を買わず、魚缶を選んだ。雨の日は商品選びまで変わる。
ベラが布工房へ行き、撥水油を染み込ませた繰り返し使える袋を三枚借りてきた。
「試作品なら貸せる?」
「店内で水をかけて試します」
袋の一枚は水を弾いた。二枚目は縫い目から染みた。三枚目は油の匂いがパンへ移った。
合格は一枚だけ。
その一枚へ、白根菜、白乳瓶、魚缶、包み紙を入れた。持ち手は切れなかったが、瓶が底で倒れ、魚缶の角が紙束を折った。
「濡れなければいい袋じゃない」と雨宮。
内側へ一本の布帯を縫い、瓶だけを立てる。缶は底、紙は側面。ベラが実際に肩へかけ、店から橋まで歩いた。
帰ってきた時、袋の外は雨粒を弾いていた。だが肩へ油の匂いが残る。
「食品へ移らなくても、服へ移るなら毎日使えない」
撥水油を外側だけへ薄く塗る方法に変え、乾かす日数も工房へ確認した。急いで翌日売れば、匂いは消えない。
袋には工房の印を残す。一号店の名前だけをつければ、作り手と修理先が分からなくなるからだ。
「これだけ売る?」
「見本にします」
工房へ、縫い目を二重にし、内側へ匂いの移らない布を重ねる条件を返した。
その日の客には、手持ちの籠へかける共用の雨覆いを入口から馬車乗り場まで使ってもらった。店員が回収するため、貸出管理は要らない。
ところが旅人が覆いをかけたまま馬車へ乗りかけた。ポルカが追い、馬が動く前に受け取る。
入口に一枚、馬車乗り場に一枚、覆いと同じ黄色い札を出した。借りる場所と返す場所を、雨の中でも見えるようにする。
「管理はいらない、じゃなかった?」とリリア。
「帳面がいらないだけでした」
無料の仕組みにも、人の目と戻す場所は必要だった。
雨がやむ頃、覆いを使った客が言った。
「家まで使える袋なら買う」
無料の袋ではなく、何度も使える生活用品としてなら需要がある。
布工房の職人は、条件を書いた板を読んで顔をしかめた。
「内側へ別の布を重ねたら、乾くのに二日かかる」
「雨の日に使う袋です」
「雨が二日続いたら、次の日に使えない」
水を弾けば完成だと思っていた宗久たちに、作り手から欠点を突き返された。
外側を交換できる二重袋、底だけ厚くする袋、籠へかける覆い。三案を並べても、価格と乾燥の両方を満たさない。
「本社の薄い袋なら、すぐ乾く」と久瀬。
「一度で捨てます」と雨宮。
「雨の間だけ売るなら、役には立つ」
本社案が間違いとは言い切れなかった。現地品が完成するまでの不足を、客へ背負わせることにもなる。
宗久は使い捨て袋を商品にせず、雨の日だけ預かり金つきで貸す案を書いた。だが回収と洗浄が追いつくか分からない。
この日は答えを決めなかった。四十二番目の札は、空白のまま残した。
四十二番目の商品候補が決まった。
閉店後、本社から百枚の薄い袋を送るという連絡が届いた。
「使い捨てです」と雨宮。
宗久は返事を書いた。
『送付保留。現地で繰り返し使える袋を試験中』
返事の末尾へ、試験結果と完成予定日も書いた。ただ断るだけでは、本社には遅れているようにしか見えない。
本社の早い答えより、町で長く使える一枚を選んだ。




