三つの缶切り
ガルドが持ってきた缶切りは三個とも形が違った。
一つは刃が長い。二つ目は握りが太い。三つ目には、切った蓋を持ち上げる小さな鉤がついている。
「どれを売る?」とリリア。
「まだ売りません」と宗久。
魚缶を三つ用意し、ロアン、ポルカ、年配の客に試してもらう。長い刃は力を入れやすいが、缶の中まで入りすぎた。太い握りは安定するが、手の小さいポルカには回せない。
鉤つきは蓋へ触れずに開けられた。ただし、鉤の向きを間違えると指の方へ刃が向く。
「絵をつければ分かる」とリリア。
使い方を四枚の絵にする。刃を縁へ当てる。押す。少し進める。鉤で蓋を上げる。
トトは二枚目と三枚目を逆に見た。
「絵だけでは足りません」と雨宮。
缶切り本体へ、刃側は赤、握る側は青の布を巻いた。札にも同じ色を使う。
再試験では三人とも開けられた。しかし年配の客は、開けた缶を持ち上げた時に汁をこぼした。
「道具は合格でも、売り方はまだです」と宗久。
缶切り売場の横へ、開封後は傾けない絵と、切った縁へ触れない絵を出す。初回販売は三個ではなく、試験に使っていない新品五個をガルドへ頼んだ。
「三個とも売れそうなのに」とガルド。
「刃が缶へ触れています」
試作品は備品にする。一号店の会計済み商品を開ける時だけ、店員が使う。
試験を見ていたヴァルドが、長い刃の試作品を取った。
「刃物を五個売るなら、組合への届けが要る」
「台所道具でもですか」
「腰に差して歩ける長さなら武器だ」
長い刃は使いやすかったが、売場へ置けない。ガルドはその場で先端を折り、缶の縁より深く入らない留め金を打った。
今度はロアンが力任せに押しても、刃は中身へ届かなかった。
ポルカが太い握りを両手で持つ。開けられたが、勢い余って缶が台の上を滑った。底へ革の輪を置くと止まる。
「革の輪も売る?」とリリア。
「使い方を見せる台の備品にします」
道具一つを売るために、刃の長さ、手の大きさ、缶を置く場所まで決める。日本の缶切りをそのまま送っても、説明なしでは安全にならない。
雨宮は試験した者の横へ、成功だけでなく失敗を書いた。
ロアン――力が強すぎる。ポルカ――握りが大きい。年配客――汁をこぼす。トト――絵の順を逆に見る。
「失敗した人の名まで残すの?」とトト。
「人を責める記録ではありません。道具のどこを直すか忘れないためです」
名前は報告書へ載せず、体格と動作だけへ書き換えた。
夕方、缶切りを待っていた男が来た。
「今日も売らないのか」
「明日、五個です」
「また五個だけ?」
「五個を安全に売れたら増やします」
男は魚缶を一つ買い、店の備品で自分で開けた。
今度は一滴もこぼさなかった。
男が開けた魚缶の匂いに、近くの客が足を止めた。
「その道具があれば、油の缶も開くか」
「同じ縁なら開きます。ただし今日は魚缶でしか試していません」
何にでも使えるとは言わない。翌朝、食用油の空き缶を借りて追加試験することにした。
試験を見ていた年配客が、曲がった試作品を指した。
「そっちを安く売れ」
「安全を確認できない物は売れません」
「俺なら使える」
腕力の問題ではなかった。刃が深く入れば、手ではなく中身へ金属片が落ちる。宗久が説明しても、男は納得せず帰った。
ガルドは曲がった一本を工具箱へ投げる。
「作った物を目の前でごみにされたと思ったんだ」
「捨てません。失敗見本にします」
「売れない物を飾るのか」
「次に同じ形を作らないために」
翌朝、失敗した三本も見本台の下へ並べた。長すぎる刃、細すぎる握り、滑る底。完成品だけを見せるより、客は注意書きを読んだ。
昨日の男も戻り、曲がった一本を見てから完成品を予約した。
「安いから欲しかったんじゃない。自分なら使えると思った」
「その自信が一番危ないです」
「店長は客に売る気があるのか」
「長く使ってもらう気はあります」
男は笑い、代金を机へ置いた。
売る前から、最初の客は使い方を覚えていた。




