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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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腹の中の冷え石

 魚の腹から出た冷え石は、まだ冷たかった。


「自分で冷えてた」とトト。


「だから傷んでいない?」とリリア。


「決められません」と宗久。


 以前にも、魚用の冷え石が問題になった。今回は魚が飲み込んでいる。いつ飲んだのか、川に落ちていた物か、運搬中に混ざった物か分からない。


 デレスは石を見て眉を寄せた。


「漁師の印がない」


 一号店の冷え石には番号がある。魚用にも持ち主の印がある。出てきた石は、表面が削られ、何も読めなかった。


「誰かが捨てた?」


「川へ捨てれば魚が飲む」とデレス。


 魚一匹の返品では済まない。川の魚が冷え石を飲んでいるなら、ほかにもある。


 宗久は同じ漁場から来た魚の販売を止めた。残りは二箱。別の川の魚は、箱と札を分けて販売を続ける。


 止めた札を見た客が、値下げを求めた。


「問題があるなら安いだろ」


「検査前なので売れません」


「火を通せばいい」


「火を通せばよいかも、まだ確認できていません」


 安くすれば危険がなくなるわけではない。売れ残りを恐れて、判断前の商品へ値段をつけない。


「祭り前に止めるのか」と漁師。


「腹の中を確認できないまま、新鮮とは書けません」


「冷えてるなら新鮮だ」


「冷たい理由が分からない魚です」


 組合の検査役を呼び、冷え石と魚を渡した。結果が出るまで一日。二箱は販売せず、店の冷蔵棚を使わない保冷箱へ封をした。


 空いた下段へ白乳を移すと、客から質問が出た。


「魚を置いてた場所だろ」


 棚は洗ってある。温度も問題ない。それでも匂いを気にする客はいる。


 雨宮が洗浄札を見せた。


「魚箱は蓋つきです。棚板も交換しています」


「本当に匂わない?」


 客自身に瓶の外側を確かめてもらう。二人は買い、一人は買わなかった。


 安全だけでなく、納得できる説明も要る。


 午後、冷え石を削る工房が見つかった。割れた石を小さくして、夏場の水桶へ入れる店だった。


 工房の裏には、青白い粉が筋になって残っていた。水へ触れた部分だけ、石畳が冷たい。


 クウを連れてきたポルカが籠を遠ざけた。クウは粉のある方へ首を伸ばしたが、近づけない。


「食べるかな」とポルカ。


「試しません」


 風を食べる鳥だからといって、冷え石の粉まで安全とは限らない。魚と同じことを、クウで繰り返すわけにはいかなかった。


「川へは捨てていない」と工房主。


「削りくずは?」


「裏の溝へ流す」


 その溝は川へ続いていた。


 大きな石ではなくても、魚が餌と一緒に飲む可能性がある。組合は削りくずを布袋へ集め、冷え石の業者へ返す決まりを作った。


 翌朝、検査結果が届いた。


 魚は食用にできる。ただし、冷え石を飲んだ個体を通常品と同じ表示では売らない。同じ漁場の二箱は腹を確認し、問題のない物だけを加熱用として販売する。


「生で食べる客はいない」とデレス。


「それでも、用途を絵で出します」


 鍋と火の札をつけ、通常より安くした。昼までに食堂が全部買った。


 売上は立ったが、通常販売の成功には数えなかった。検査、腹の確認、値下げにかかった時間を入れれば利益はほとんどない。


「捨てずに済んだ」とリリア。


「それは成果です。ただ、また起きてよい成果ではありません」


 宗久は売上札とは別に、冷え石回収の札を作った。


 冷蔵設備を増やすほど、使い終わった冷え石の行き先まで店の責任になる。


 回収箱を店先へ置くと、子どもが青い石を三個持ってきた。二個は一号店の印があり、一個にはなかった。


「これは市場の冷え石です」


「同じ青だよ」


 誰の物でも店が引き取れば、処理できない数が集まる。だが子どもに川へ戻せとも言えない。


 ヴァルドは市場組合へ共通の回収場所を作る案を持ち帰った。一号店は自店の印がある石を引き取り、印のない物は組合箱へ案内する。


「魚を売る前より、石の仕事が増えた」とデレス。


「石が魚の腹へ入る前に集めれば、魚の仕事を減らせます」


 夕暮れの川辺では、ポルカとトトが浅瀬の冷え石を拾った。水中で淡く光る石の間を、小魚が避けるように泳いでいる。異世界の便利な道具も、捨てればただの異物だった。


 回収箱を置いた日の夜、ポルカが黙って一号店の冷え石を数え直していた。


「二個、番号が薄い」


 削れたのではない。設備の隙間へ入れるため、ポルカ自身が角を落とした石だった。悪意がなくても、印を削れば市場の石と見分けられなくなる。


「俺も川へ流したのと同じ?」


「同じではありません。でも、このまま捨てたら同じ行き先になります」と雨宮。


 ポルカは自分の工具箱を閉じた。便利にするための加工が、回収の記録を壊していた。


 二個は赤札をつけて使用停止。以後は石を削らず、設備側の受け口を直す。


「道具を直す人が、道具を壊した」とトト。


「忘れないから、書いとけ」


 ポルカは自分の失敗を隠さず、回収札の一番上へ名前を書いた。


 その日の夕方、干物屋が薄い魚を十枚持ってきた。


「冷やさなくていい魚なら、棚を使わないだろ」


 魚売場を増やす方法が、生魚以外から現れた。


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