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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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92/110

四倍の魚

 川祭り前の魚は、三倍ではなく四倍届いた。


「多いです」と宗久。


「網に入った」とデレス。


「注文は三倍です」


「残りは市場へ運ぶつもりだった。向こうの荷車が壊れた」


 一号店が引き取らなければ、朝のうちに傷む。だからといって、事情だけで全部仕入れることはできない。


 宗久は注文分だけ店へ入れた。残りは店の前の日陰へ置き、ほかの買い手を探す。


「見捨てるのか」と漁師。


「店で温度を守れる量はここまでです」


 冷蔵棚の下段へ魚箱を入れる。蓋を開けた瞬間、川魚の匂いが白乳の区画まで上がった。


「瓶は閉まってる」とロアン。


「外側へ匂いがつきます」と雨宮。


 客が白乳を持つ手に魚の匂いがつけば、中身に問題がなくても嫌がる。


 魚箱へ蓋をする。だが、ぴったり閉めると中の湿気が逃げない。


 試しに一箱だけ閉め、鐘半分置いた。蓋の裏には水滴がつき、魚の紙包みが濡れていた。


「冷えてる証拠だ」と漁師。


「紙が破れます」とベラ。


 濡れた包みを持ち上げると、底が抜けかけた。客の籠で破れれば、ほかの商品まで濡れる。


 ガルドが蓋へ細い穴を開け、その上へ匂いを吸う炭布を置いた。冷気は通し、魚の水は外へ出さない。


「炭布も商品にする?」とリリア。


「まず備品です」


 魚売場だけ、扉を開ける回数を決めた。客が欲しい魚の絵札を取り、店員がまとめて出す。


「自分で選べない」と客の男。


「大きさは三つから選べます」


 小、中、大の見本絵を出す。実物をすべて触らせず、受け取った時に確認する。


 子どもが絵札を二枚持ってきた。


「大きいのと小さいの」


「二匹ですか」とポルカ。


「大きい魚の中に、小さい魚がいると思った」


 胃の中の魚まで商品にはならない。リリアは大の札へ家族四人、小の札へ一人分の皿を描き足した。


「家族の数で大きさが決まるわけじゃない」と宗久。


「でも目安にはなるよ」


 札の隅へ『重さは天秤で確認』も加えた。絵だけで断定せず、最後は実物と重さを見る。


 一匹目の客は、中を選んだのに小さいと言った。


「絵と違う」


 魚は同じ形ではない。長さだけで分けると、太さが違う。


 宗久は重さ用の石を三つ置いた。魚と石を天秤へかけ、どの区分か客の前で確かめる。


 売る速度は落ちたが、扉を開ける回数は半分になった。


 昼までに注文分の七割が売れた。店外に残した魚も、食堂二軒と干物屋が引き取った。値段は一号店が決めず、デレスと買い手が直接決めた。


「仲介料は?」と久瀬。


「取りません。店の商品ではありません」


「客を見つけたのは店だ」


「今日だけの荷車事故です」


 毎日やるなら契約を作る。困った一日だけで、知らない手数料を増やさない。


 食堂へ運ぶ魚には、一号店の札をつけなかった。店の前で取引したからといって、一号店が品質を保証したように見せないためだ。デレスが自分の札を書き、買い手へ渡した。


 夕方、冷蔵棚の札は青だった。


 祭りの太鼓が通りで鳴り始めると、青い小旗の前へ客が固まった。子どもが魚の絵札を剣のように振り、白乳瓶へ当てかける。


 ポルカは魚札を渡す場所を入口側へ移し、受取だけを冷蔵棚前に残した。列が二つに分かれ、魚の匂いを嫌う白乳の客も通れる。


 店外に残した余分な魚は、ヴァルドが市場の食堂二軒へ声をかけて引き取らせた。


「一号店の仕入れではない。代金へ口を出すな」


「分かっています」


 店が全部買わなくても、町の中で売り先をつなぐことはできる。デレスは不満そうだったが、魚を傷ませずに済んだ。


 夕方、床を洗い、炭布を外す。白乳瓶を持ったリリアが匂いを確かめた。


「魚の店にはなってない」


「魚も選べる店です」


 だが、魚箱の底に一匹だけ残っている。


 腹が膨らみ、鱗の色が朝より薄い。


「まだ食べられる」とデレス。


 宗久は販売札を外した。


「食べられるかではなく、朝と同じ状態か分かりません」


 余分な魚を引き取った干物屋が、夕方に一枚の札を置いていった。


『明日、干物十枚』


「今日の余りが、明日の商品になる」とリリア。


「全部ではありません」と宗久。


 干物に向く魚、塩の量、乾かす天気。売れ残りを加工すれば必ず救えるわけではない。それでも朝に困った魚が、別の売場を作ろうとしていた。


 デレスは札を見て面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「生で売れなかった魚だ」


「鮮魚として失敗しても、食べ方まで失敗とは限りません」


「次から余らせる気か」


「余らせません。余った時に捨てる以外の道を作ります」


 デレスは返事をせず、残った一匹へ包丁を入れた。


 その魚を開くと、腹の中から小さな冷え石が出てきた。


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