入らない骨つき肉
骨つき肉を横に寝かせても、棚板へ当たった。
「切れば入る」とネネ。
「誰が切りますか」と宗久。
仕入先が切れば部位ごとの重さが変わる。店で切れば、包丁、台、洗浄場所、骨の処理が必要になる。惣菜室で生肉を切れば、卵パンと同じ場所は使えない。
「棚板を一枚抜く」とガルド。
抜けば入る。ただし上の段が広く空き、冷気の流れも変わった。
冷え石を入れて温度札を見る。下段は青。上段は黄色に近い。
「同じ棚の中でも違う」とリリア。
「大きい肉を入れれば、もっと風を止めます」と雨宮。
ガルドが棚板へ細長い穴を開けた。冷気が上下へ抜ける。肉と同じ大きさの水袋を置き、一刻ごとに温度を確認した。
下も上も青で安定する。
翌朝、骨つき肉を一塊だけ仕入れた。
「一塊を誰が買う?」とロアン。
大家族か、食堂でなければ使い切れない。これまでは狩人が市場で切り分けていたため、一号店へ届く部位は日ごとに違っていた。
「店では切らず、注文を聞いて仕入先に切ってもらいます」と宗久。
「予約販売?」
「肉の大きさだけです。代金は受け取る時に」
注文札には、人数と料理の絵を描く。焼く、煮る、干す。部位名が分からない客でも使い方は伝えられる。
最初の女性は「五人で煮る」と答えた。
狩人は脚肉を選び、骨を短く切った。翌日、棚へ収まる大きさで届く。
「昨日の肉と同じか分からない」と女性。
「重さと部位を受取時に確認します。違えば買わなくて構いません」
売る側の都合で切った肉を、予約だからと押しつけない。
閉店前、二件目の注文が入った。今度は「子ども二人で焼く」。同じ肉売場でも、必要な大きさはまるで違う。
宗久は空いた棚板の位置を二段に分けた。
上は小分け肉。下は注文した骨つき肉。魚は隣の区画へ置く。
「二倍の棚にしたら、売り方も二倍増えた」とリリア。
「まだ二つです」
「店長は数え方が細かい」
受取を終えた女性が入口で振り返った。
「次は骨なしでも頼める?」
すると別の客は「骨だけ欲しい」と言った。煮出して三日分の汁にするらしい。赤身だけの注文が増えれば、骨と脂が残る。一頭から欲しい部位だけが同じ数で取れるわけではない。
しかも短く切った骨から、細かな欠片が白い包み紙へ落ちていた。宗久は次の受取を止め、濡れ布で切り口を拭き、白い紙の上で二度転がす手順を決めた。
「そこまで店が言うのか」と狩人。
「棚に入る長さを頼んだのは店です。加工の手間も記録します」
無料の手間を当然にすれば、仕入先は続かない。骨を切る注文には加工代が必要になる。その値段まで客へ見せて、初めて予約販売になる。
リリアは実物大の肉の絵を棚の外へ下げた。客が扉を何度も開けて迷うと、上段だけ温度札が黄色になったためだ。絵で大きさを選び、受取時に実物を見る。
「肉屋なのに肉を見せないのか」とボルツ。
「受け取る時には見せます。違えば断れます」
棚板を外していると、入口で肉を待っていた女性が声を上げた。
「今日は買えないのかい」
「骨つきだけです。薄切り肉はあります」
「煮込みは骨がないと味が出ない」
空間を作るための商品ではなく、今夜必要な肉だった。女性は棚の前で腕を組み、宗久たちの作業を見ていた。
ポルカが木枠を一本外す。金属棚がわずかに傾き、下段の魚箱が滑った。ガルドが受け止めたが、蓋の隙間から水がこぼれる。
「肉を入れるために魚を落とすの?」とリリア。
誰も笑わなかった。
肉だけを見て棚を直せば、隣の商品を危険にする。宗久は作業を止め、魚箱を別の保冷箱へ移した。店内には待っている客がいる。閉店後まで延期する案を出すと、女性が首を振った。
「骨は明日でも煮込める。でも魚は今日だろ」
客の方が商品の都合を分かっていた。
骨つき肉は店の保冷箱で預かり、販売は棚を直した翌朝に変更した。狩人へ事情を説明すると、怒鳴られると思っていた宗久に、男は意外なことを言った。
「売らないなら、今夜は俺が骨を割る。あのままじゃ鍋に入らん」
大きすぎた肉が、一晩の猶予で町の鍋に合う大きさへ変わることになった。
冷たい棚を置くだけでは、冷たい売場にはならなかった。
宗久は注文札の裏へ、売れなかった部位を書く欄を足した。
そこへ、注文していない男が骨つき肉を指した。
「その赤いところだけ欲しい」
部位を選ぶ客が、初めて売場の前で足を止めた。




