入れ替わった印
器の印は、蓋と椀で違っていた。
「買った時は合っていました」と雨宮。
「家で開けたら、こうだった」と男。
雨宮が会計記録を確認する。男の後に、女性が同じ器を買っている。売場には試すための見本もあった。
宗久は残った三個の印を並べた。
一組だけ、こちらも合っていない。
「店で入れ替わった可能性があります」
「なら替えてくれ」
「合う蓋を探します」
返品として代金を返すのではなく、正しい組へ戻す。使っていないことを確認し、蓋を交換した。
「最初から紐でつないでおけば?」とリリア。
「洗う時に外せない」とベラ。
「売るまでは紙で留める」とシャルナ。
紙帯で蓋と椀を一周させれば、客が選ぶ時に入れ替わらない。会計後に帯を外し、使い方を説明する。
「文字が読めない客は?」
帯へ同じ色の丸を二つ描く。蓋と椀の印も同じ色へ塗り直した。
その時、二個目を買った女性が来た。
「私の蓋、これじゃないかい?」
女性の器には、男の蓋が乗っていた。
売場で二人が蓋を試した時に入れ替わったらしい。
「もう薬草を入れましたか」と宗久。
「まだだよ」
未使用を確認し、その場で正しい組へ戻す。
問題は、もし一度でも使っていた場合だった。
汁、薬草、乳。何を入れたか分からない器を、新品の売場へ戻すことはできない。洗えば見た目は同じでも、匂いが残ることもある。
「返品を受けないって書く?」とリリア。
「店の間違いでも?」
「それは受ける」
「客が蓋をなくしたら?」
「受けない」
短い札に全部は書けない。
雨宮が会計時の確認を三つに分けた。
蓋と椀の印を客と見る。紙帯を外す。使用後は新品として返品できないと伝える。店側の組み違いは、使用前なら交換する。
「毎回言うの?」とロアン。
「最初のうちは」と雨宮。
説明を省いて会計を早くすれば、後でもっと長く止まる。
「返品札はつける?」と雨宮。
「商品不良ではありません。組み合わせ修正として残します」
器屋へ『蓋が閉まらない品が二個』と伝えれば、作り手の不良に見える。原因を分けて記録した。
午後、紙帯をつけた器を三個並べる。
ポルカを客役にして、説明をせず買ってもらう。
彼女は紙帯を捨て、布輪を予備まで二本とも器へ掛けた。蓋は閉まったが、濡れた輪の交換がなくなる。
「二本とも使った方が丈夫」とポルカ。
「一本は洗い替えです」とベラ。
札の絵を、二本掛けた器から、一本を干している絵へ直した。
客は帯を外せないため、蓋の開き具合を試せない。
「中を見たい」と老女。
見本を渡す。溝、布輪、同じ印を説明した。
「この見本を買う」
「これは何度も水を入れています」
「安くなる?」
見本品を新品と同じ値段では売れない。だが、安く売る基準も決めていなかった。
「今日は売れません」と宗久。
「何でも今日は売れないね、この店は」
老女は笑ったが、棚の新品を一個買った。
夕方、温かい汁を四杯作る。
器を買った男と女性。自宅から条件に合う木椀を持ってきた客が二人。今度は販売前に器を確認し、合格の木札を渡した。
列へ並ぶのは木札を持つ四人だけ。
ネネが白根菜と乾燥肉の汁を注ぐ。ベラが蓋を閉め、布輪を掛ける。雨宮が客と一緒に印を確認する。
四杯すべて売れた。
「やっと四杯」とネネ。
「昨日の三杯も食べた」とトト。
「売れた数は今日が初めて四杯です」
男は焼き卵パンも二個買った。
「二人分?」とリリア。
「子どもが二人だ。汁は妻と分ける」
「椀は一個しかないよ」
「明日、もう一個買う」
汁物が売れれば器が売れる。器が家に増えれば、次の汁物は買いやすくなる。
閉店後、見本の器をどう扱うか決めた。
見本には温かい水を七回入れている。ひびはないが、内側の色が少し変わっていた。新品の半額なら買いたい客が二人いたため、抽選にはせず、翌朝の開店時に一個だけ出すことにした。
「並んだ順?」とリリア。
「通常商品と同じです。見本品だけ予約にはしません」
『試験使用済み。汁物には使用可。値引きして販売』
傷と使用回数を札へ書く。新品と混ぜない。
「何でも売るんですね」と雨宮。
「使える物を、使っていない顔で売らないだけです」
雨宮は紙帯を一本取り、宗久の手首へ巻いた。
「店長も蓋と組にしておかないと、どこかへ行きますから」
「誰と組ですか」
雨宮は答えず、帯を外して器へ戻した。
惣菜窓の向こうで、ネネが二人を見て笑っていた。




