雨の日の惣菜
雨は朝になっても止まなかった。
通りの石畳を水が流れ、店へ入る客は外套から雫を落とす。
「今日こそ惣菜室を使う日だね」とリリア。
「今日だから、確認が増えます」と雨宮。
屋根から雨漏りがないか。煙が戻らないか。濡れた客が調理窓へ近づかないか。床が滑らないか。
乾いた日に通った動線も、雨の日は同じではない。
入口へ厚手の布巾を敷こうとして、宗久は止めた。
「販売品は使いません」
「あとで洗って売ればいい」とロアン。
「床へ敷いた物は売れません」
倉庫の清掃用布を二枚出した。濡れたら交換し、販売用の布巾とは別の桶へ入れる。
午前中、惣菜室には火を入れなかった。
雨の客は足早だった。葉菜、パン、塩、石けん。必要な物をまとめて籠へ入れ、すぐに帰る。
昼を過ぎると、夕方の焼き卵パンを尋ねる客が来た。
「七個です」と雨宮。
「この雨でも?」
「試験に問題がなければ販売します」
「また試験か」
「食べ物を作るので」
客は笑い、乾燥果実を一袋買って帰った。
販売二時間前、ネネが炉へ火を入れる。
煙突の覆いが風に合わせて回った。煙は入口へ戻らない。風窓も塞がれていない。冷蔵棚の札は青のままだった。
赤線まで水を使い、蓋をする。
受け渡し口からロアンが桶を受け取る。今度は一滴もこぼれない。
「成功」とトト。
「まだ卵を焼いていません」と宗久。
「店長の成功は遠い」
白い卵を七個、フェナと確認した。殻、匂い、黄身。今日はすべて使える。
鉄板へ落とす音が、雨音に混じる。
窓の内側で、ネネが卵を折り畳む。ベラがパンへ挟み、紙で包む。完成品は温かい箱へ入れず、作った順に小さな札を置いた。
「温かく保つ箱は?」とベラ。
「まだありません。作ってから鐘一つ分です」
早く作りすぎれば、売る前に冷める。
最初の三個を作ったところで、列ができた。雨の中に並ばせるわけにはいかない。店内へ黄色い紐を張り、乾物棚を塞がないよう壁沿いに曲げる。
最後尾の札をトトが持った。
「ここより後ろは買えません!」
「まだ七人いない」とリリア。
「練習」
七人目が並んだところで、トトは札を裏返した。
『本日分終了』
八人目に来た女性が、息を切らして立ち止まる。
「もうないの?」
「七個です」と宗久。
「子どもに頼まれたのに」
増やしたい気持ちはある。卵も通常売場に残っている。だが、予告した七個をその場で変えれば、調理時間も販売終了時刻も変わる。
「今日は追加しません。次の数を決めるため、希望だけ聞かせてください」
「前もそれで揉めたでしょう」
女性は、前回六番目に並んでいた男の妻だった。
「予約と誤解されないよう、名前も木片も預かりません。欲しかった人数だけ記録します」
「なら、二個。子どもが二人いるから」
雨宮が二本の線を引いた。
七個は、並んだ順に売れた。
外へ出る客は紙包みを外套の内側へ入れる。温かさは家まで残らない。それでも、雨の日に火を起こさず食べられることを喜ぶ客がいた。
「次は何個?」とネネ。
「希望は九個。すぐ九個にはしません」
「八個?」
「八個です」
閉店前、組合の職人が惣菜室を確認した。
排水桶、床、煙突、冷蔵棚。最後に、売上札を見る。
「七個だけのために、ずいぶん作ったな」
「七個を安全に売るためです」
「明日から正式に使え。ただし、作る品を増やす時は届け出ろ」
仮許可の札へ、二つ目の印が押された。
雨の日でも止まらない、小さな惣菜売場ができた。
その夜、ネネが新しい届け出の紙を持ってきた。
「卵パンだけじゃ、夕飯にならない」
紙には、温かい汁物の絵が描かれていた。




