煙と冷気
惣菜室の煙突を立てると、冷蔵棚の風窓を半分塞いだ。
「少しくらい平気じゃない?」
リリアが窓の前で手を振る。
風は入っている。だが、昨日より弱い。
クウは組合の籠の中で、風上へ体を向けた。白い産毛が揺れない場所へ移すと、すぐ元の場所へ戻る。
「クウでも分かる」とポルカ。
「分かるから使う、にはしません」と宗久。
冷蔵棚の温度札を確認する。朝は青。昼前には青と黄の間まで上がった。まだ販売を止める温度ではない。それでも、煙突を使えば熱も加わる。
白乳を買いに来た女性が、温度札を見た。
「今日は黄色いの?」
「まだ青の範囲です。ただ、いつもより上がっています」と雨宮。
「飲んで大丈夫?」
「販売できる温度です」
女性は一本だけ取り、いつも買う二本目を棚へ戻した。
基準内でも、客が不安に思えば売場は同じではない。
「惣菜を始める前に、白乳が売れなくなった」とリリア。
「だから窓を塞いだままにはできません」と宗久。
「惣菜室を反対へ向ける」とガルド。
「扉が会計待ちの列へ開きます」と雨宮。
「煙突を長くする」
「倒れませんか」
「支えを二本つける」
屋根へ穴を開けず、壁沿いに煙突を伸ばす案を作る。風窓から腕二本分離し、煙が店の入口へ戻らない高さまで上げる。
火を入れる前に、煙だけで試す。
湿らせた木片を小さな炉でいぶす。灰色の煙が煙突を上り、屋根より上へ抜けた。
「入口へ来てる!」
外にいたリリアが叫ぶ。
風向きが変わり、煙が看板の前へ落ちていた。
通りかかった客が鼻を押さえる。
「肉を焼いてるのか」
「今日は試験です」と宗久。
「焼いてないのか」
客は残念そうに店へ入り、魚缶を買った。
煙の匂いで客を呼べても、入口を煙たくしては意味がない。
煙突の先へ、風向きに合わせて回る覆いをつける。ガルドが薄い鉄板を曲げ、矢羽根のような板を後ろにつけた。
二度目の煙は、風下へまっすぐ流れた。
冷蔵棚の風窓にも戻らない。
「クウを置くより大がかりになった」とロアン。
「あれを置けば、ずっと風が出たかもしれない」
クウが小さく鳴く。
「出したくない日もあるかもしれません」と宗久。
ポルカが籠の戸を開ける。クウは飛ばず、彼女の腕を歩いて肩へ上がった。
煙突の覆いが回るたび、首を同じ方向へ動かす。
「こっちの方が役に立ってない?」とリリア。
「客寄せとしてですか」
「かわいいから」
宗久は答えなかった。生き物を看板にする許可も、まだ取っていない。
午後、組立を始めた。
営業を止めずに壁を運ぶため、作業は一枚ずつ行った。ガルドが入口から声をかけ、雨宮が客の列を止める。壁が通ったら、すぐ買い物を再開する。
二枚目を運ぶ時、幼い子が白い板へ手を伸ばした。
ポルカが抱き止める。
「何ができるの?」
「温かい食べ物を作る部屋」とポルカ。
「お菓子?」
「店長に聞いて」
子どもの視線が宗久へ向く。
「最初は卵パンです」
「甘いの?」
「卵が少し甘いです」
「じゃあお菓子」
宗久が訂正する前に、子どもは母親とパン売場へ走った。
生活用品の棚を短く組み直し、商品を五段へ収める。通路幅を測り、籠を持った客二人がすれ違えることを確かめた。
空いた一枠へ、惣菜室の壁が立つ。
白い壁では汚れが見えやすい。内側の角は丸く、布で拭ける。調理するネネと、包むベラがぶつからないよう、床へ立ち位置を描いた。
受け渡し窓の高さも試す。ネネにはちょうどよい。ベラには少し低い。客側では、大人の胸ほどの高さだった。
「子どもが手を入れない高さ」と雨宮。
「でも、子どもから商品が見えない」とリリア。
透明な板はない。そこで窓の下へ、完成品と同じ大きさの絵を貼る。作っている物は見えなくても、何を売る場所かは分かる。
「私はここから出ちゃだめ?」とネネ。
「調理中は、食材を触る人を分けます」
「塩が足りなくなったら」
「ベラさんへ言ってください」
「自分で取った方が早い」
「その一歩で、客とぶつかります」
ネネは床の線をまたぎ、戻り、またいだ。
「狭い」
「だから動く順番を決めます」
組立が終わったのは、閉店の鐘より後だった。
新しい惣菜室は、店の中から見ると小さな店のようだった。受け渡し窓の向こうに鉄板があり、その上には何もない。
「明日、七個?」とフェナ。
「試験に通れば七個です」
その時、屋根を雨粒が叩いた。
最初は三粒。すぐに音が増える。
外の調理台なら、何も作れない雨だった。
惣菜室の最初の試験は、予定より早く始まった。




