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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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75/110

最初の惣菜

「昨日から欲しいと言っていた!」


 六人目の男が、列の前へ出た。


「予約は受けていません」と雨宮。


「なら、昨日の木片は何だった」


「作る数を決める参考です」


「七人欲しいと分かったのに、五個しかないじゃないか」


 男の言うことにも理由があった。


 木片を置かせた時、予約ではないと全員へ説明していなかった。店には数を知る道具でも、客には順番を取る印に見えた。


「説明が足りませんでした」と宗久。


「じゃあ、売れ」


「前の方を飛ばしては売れません」


 宗久は木片を置いた者が何人いるか確認した。列の中に四人。そのうち二人は五番目より後ろだった。


「木片を置いた方だけで抽選する?」とシャルナ。


「今日初めて知った客が買えなくなる」とベラ。


 どの方法も、今から変えれば誰かが不利になる。


「今日は並んだ順です」


 宗久が頭を下げた。


「次回から、希望を聞く木片は使いません。販売時刻と数だけを前日に出します」


「次はいつだ」


「今日の結果を確認してから決めます」


「また待たせるのか」


「約束できない日を言うよりは」


 男は列を離れなかった。買えないと分かっていても、温かい卵パンを見ていた。


 最初の客へ渡す。


 薄いパンから湯気が上がる。客はその場で一口かじり、目を見開いた。


「卵が甘い」


 フェナが胸を張る。


「風尾鳥の白だよ」


 二人目は子どものために買い、紙包みごと布へくるんだ。三人目は仕事仲間と半分に分けた。四人目は、店を出る前に食べ切った。


 五人目の女性は、受け取ってから困った顔をした。


「家まで遠い。冷めるね」


「冷めても食べられます。ただし今日中に」


「温かいから買ったんだけど」


 温かい惣菜を売るだけでは、家まで温かいままとは限らない。


 ポルカが布巾を貸そうとしたが、雨宮が止めた。


「商品を包む備品にはできません」


 女性は自分の外套へ包み、持ち帰った。


 五個はすべて売れた。


 列の後ろにいた七人は、何も買わずには帰らなかった。三人が卵とパンを別々に買い、一人は白乳を選んだ。六人目だった男は、冷蔵棚の前で長く迷い、最後に魚缶を一つ取った。


「惣菜がなくても、ほかを買った」とリリア。


「欲しかった物の代わりになったとは限りません」と宗久。


 会計後、男が言った。


「次は十個作れ」


「今日の倍ですか」


「俺以外にも買えなかった」


「一度で倍にはしません」


「堅いな」


 以前、白乳を買った男と同じ言い方だった。


 閉店後、五個分の記録を確認する。


 卵一個を外した損失。パン六枚。塩。燃料。包み紙。ネネの調理時間。水と洗浄に使った時間。


 材料だけなら利益はある。準備と片づけまで入れると、ほとんど残らなかった。


「売れたのに、また赤字?」とリリア。


「最初の道具代を全部入れれば赤字です」と雨宮。「次回も使える物を分ければ、少し残ります」


 毎回かかる費用と、最初だけかかる費用を分ける。


「十個作れば、準備は一回」とネネ。


「でも、売れ残るかもしれません」と宗久。


 次回は七個。買えなかった人数と、夕方の客数から決めた。


「八個」とネネ。


「七個です」


「卵が二つ黄身なら、一個多く作れそう」


「量をそろえられません」


「店長は細かい」


「売り物なので」


 ネネは不満そうに鍋を洗ったが、口元は笑っていた。


 雨宮が、宗久の前へ半分に切った卵パンを置いた。


「これは?」


「形が崩れた試作品です。販売品ではありません」


「雨宮さんは?」


「もう半分があります」


 二人で立ったまま食べる。冷めていたが、黄身の甘みは残っていた。


「温かい方がうまいですね」と宗久。


「次は、片づける前に食べましょう」


 店内では、リリアが惣菜の札を描き直していた。


 卵、パン、湯気。その横に、仕事帰りの客を描く。


 青果から始まった一号店に、初めて『すぐ食べられる物』が加わった。


 ただし、正式な惣菜売場と呼ぶには、外の調理台一つでは足りない。


 久瀬が本社から届いた図面を広げた。


「門を通せる大きさに分けた、組立式の惣菜室だ」


「もう作ったんですか」


「申請書を送っただろ」


「許可が下りる前です」


「本社も、お前に似て待てなくなった」


 図面には、今使っている売場一つ分の広さが必要と書かれていた。


 惣菜を増やすには、何かを動かさなければならない。


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