五個と十二人
惣菜を作る日の朝、白い卵が五個しか届かなかった。
「一個は?」とネネ。
「産まなかった」とフェナ。
「昨日は六個と言いました」
「鳥にも言った。でも産まなかった」
契約違反にする話ではない。自然に増減することは、最初から分かっていた。
「販売を五個にします」と宗久。
「通常売場の卵を一個使えば?」とリリア。
卵台には、白札の卵が並んでいる。まだ客は触っていない。
「札を替えれば同じだ」とロアン。
「仕入れ記録も替える必要があります」と雨宮。
惣菜用と通常販売用を分けた意味がなくなる。だが、開店前で、状態も同じ。変更を記録し、フェナとネネが確認すれば使える。
「一個移します」と宗久。
「昨日、分けるって言った」とリリア。
「分けたあと、理由を残して変更します。黙って混ぜるのとは違う」
決まりは、何があっても動かさないためではない。変えた時に、誰がなぜ変えたか分かるためにある。
赤札へ替えた一個に、宗久とフェナが印をつけた。
「鳥の印もいる?」とリリア。
「産んだ鳥が分かるなら」と雨宮。
「そこまでは分からない」とフェナ。
六個がそろった。
昼まで通常営業を続ける。卵、白乳、パンは朝に売れ、午後の卵は予定どおり一部を残した。
惣菜販売の一時間前、外の調理台を組み立てる。
手洗い用の水桶。排水桶。卵の殻を入れる蓋つき桶。パン用の木ばさみ。完成品を置く台。売らない道具だけで、店の壁一面が埋まった。
「毎回これを出すの?」とトト。
「最初は」と宗久。
「慣れたら減る?」
「必要な物は減りません。置く場所は変えられます」
ネネが炉へ火を入れる。
卵を一個ずつ割り、殻と匂いを確認する。最初の五個に問題はない。
最後の一個は、黄身が崩れていた。
「腐ってはいない」とフェナ。
「運ぶ途中で揺れたのかも」とネネ。
火を通せば食べられる可能性はある。それでも、ほかの五個と同じ状態ではない。
「これは使いません」と宗久。
「また五個」とリリア。
予告は六個。外では、すでに客が待っている。
「一個分、卵を薄くする?」とロアン。
「しません」
五個は、同じ量で作る。
宗久は予告札の六へ線を引き、五と書いた。理由も添える。
『卵一個を調理前に外したため』
「悪い卵を売ってるみたい」とフェナ。
「外したことを書いています」
「うちの卵が悪いって読まれる」
「運搬で崩れた可能性も書きます」
フェナは不満そうだったが、消せとは言わなかった。
一つ目の卵が鉄板へ落ちる。
二つの黄身が並び、白身が大きく広がった。ネネが折り畳み、薄いパンへ挟む。
焼けた卵とパンの匂いが、夕方の通りへ流れた。
待っていた客だけでなく、道の向こうから人が振り返る。
「まだ売りません!」
リリアが縄の前で両腕を広げた。
二つ目。三つ目。
完成品は蓋つきの箱へ入れ、作った順に札をつける。最初の一個から販売時間を数える。
「全部できてから売るの?」
「一個ずつ出すと、調理台の前が混みます」と雨宮。
五個がそろった。
列には十二人いた。
「先着五人です」と雨宮。
六人目の男が声を上げる。
「昨日から待ってた」
「予約は受けていません」
「木片を置いた」
「希望の数を知るための印です」
男は納得しなかった。
五個を誰へ売るか。
商品より先に、列の決まりを作る必要があった。




