赤札の卵
「午後まで残した卵を使えばいい」
ロアンが言った。
惣菜用の白い卵は六個必要だった。フェナから仕入れる数を増やせばよいが、通常販売で残る日もある。
「売れ残りを使えば、無駄がない」とトト。
「最初から惣菜用として分けます」と宗久。
「同じ卵だろ」
「いつまで客が触ったか分かりません」
卵台では、客が大きさを比べて何個も持ち上げる。殻にひびがなくても、落としかけた物があるかもしれない。
売れ残りを惣菜へ回せば廃棄は減る。しかし、販売できなかった物を料理に隠したようにも見える。
「閉店後のまかないには使った」とロアン。
「従業員が状態を確認して食べるのと、客へ売るのは違います」
雨宮は卵の札を二色に分けた。
白札は、そのまま売る卵。
赤札は、惣菜用として受け取った卵。
赤札の卵は客の売場へ出さず、蓋つきの箱へ入れる。ネネが調理前にもう一度、殻と中身を確認する。
「惣菜が売れ残ったら?」とフェナ。
「鐘一つ分で販売を止めます」
「卵に戻せない」
「戻せません」
完成品の売れ残りは、原料より扱いが難しい。
六個作って一個しか売れなくても、フェナへの代金は六個分払う。パン職人への代金も同じだ。店が予測を外した負担を、仕入れ先へ戻さない。
「値段はいくらにする」と久瀬。
卵とパンを別々に買うより、少し高くなる。塩、燃料、ネネの調理時間、紙包み。料理にする費用がある。
「高いなら、自分で焼く」とロアン。
「焼く時間がない人に売ります」と宗久。
「時間に金を払うのか」
「日本では、そういう商品です」
「ここでも、夕方なら同じ」とベラ。
仕事帰りの客へ、試作の絵を見せて聞いた。
「家で卵を焼く」と答える者。
「火を起こさず食べられるなら買う」と答える者。
「子どもへ渡しやすい」と言う者。
「温かいなら欲しい」と言う者。
全員が同じ理由ではなかった。
紙包みも試す。
日本の油紙は、門の輸送費がかかる。現地の再利用紙は油を吸い、手へ染みる。
エナの布端を包みに使う案を、雨宮が却下した。
「返却が必要な惣菜になります」
「食べながら布を返しに来る?」とリリア。
「来ません」
パン職人が、硬めに焼いた薄いパンを一枚持ってきた。
「これで挟めば、紙は外側だけでいい」
卵を二枚のパンで挟むのではなく、薄いパンを折る。具が落ちにくく、紙が油に触れる面も減った。
「パンが増えました」と雨宮。
「包みを減らすためです」
「商品登録は?」
惣菜用に形を変えたパンは、単独では売らない。完成した料理の原料として申請へ加える。
パン職人は、六枚だけ焼くと言った。
「失敗分は?」と宗久。
「八枚焼く。形のいい六枚を渡す」
「残り二枚の代金は?」
「店へは請求しない。いつものパンに戻して売る」
作り手にも、無駄を出さない方法があった。店がすべて決める必要はない。
販売日は次の営業日。夕方の鐘一つ前から。
入口へ予告の絵札を出した。
『焼き卵パン。六個だけ』
その日のうちに、絵札の下へ木片が七つ置かれた。
「予約?」とリリア。
「予約は受けていません」
「欲しい人の印」
売る前から、作る数より欲しい人が多かった。
宗久は六を七に書き換えなかった。
足りないまま、最初の惣菜販売を迎えることにした。




