クウの居場所
「この鳥を、冷蔵棚の裏へ置けないか」
組合の飼育係が籠を持ち上げた。
灰色の雛、クウは、網の隙間から宗久を見ている。息を吸うたび、床の紙屑が籠へ寄った。
「置きません」
宗久が答えると、飼育係より先にリリアがうなずいた。
「冷蔵棚、暗い」
「風穴を作ればいい」とポルカ。
「作りません」
雨宮も続けた。
冷蔵設備と門を同時に動かせない。クウが本当に熱を吸い、冷たい風を吐くなら、電力を補える可能性はある。
だが、まだ孵ったばかりだ。
「役に立つか試すだけだ」と久瀬。
「生き物を試作部品のように言わないでください」
「では、飼育環境の確認だ」
「言い方を変えても同じです」
久瀬は眼鏡を直した。
「牛島、お前は冷蔵設備を使いたくないのか」
「使いたいです。だから、クウがいなくても続く方法と分けます」
鳥が病気になった日、冷蔵棚まで止まる店にはできない。
まず、クウが何を必要としているか調べる。
飼育係は、組合会館の一室へ三つの箱を用意した。風の入る木箱、穴の少ない箱、店の冷蔵棚の裏と同じ広さの箱。
「入れるの?」とリリア。
「扉は閉めません。自分で選べるようにします」
三つを通路でつなぐ。クウを中央へ放すと、迷わず風の入る箱へ歩いた。
窓から入る風を吸い、翼を膨らませる。
吐いた息は冷たかった。
水を入れた椀を前へ置く。表面が白く曇るほどではないが、手を当てると明らかに温度が下がっている。
「冷蔵棚に使える」と久瀬。
「まだです」
次に、温めた石を少し離して置く。クウは石へ近づいた。くちばしを開き、周りの熱を吸う。
石は冷えた。
その直後、クウは丸くなり、動かなくなった。
「弱った!」
リリアが抱き上げようとする。
飼育係が止め、窓を大きく開けた。風が入ると、クウは頭を上げた。吸い込んだ熱を冷たい風へ変えるには、外から風を取り込む必要があるらしい。
「熱だけでは駄目」とポルカ。
「店の裏へ置けば、風は少ない」と雨宮。
冷蔵棚の裏は壁に近く、設備の熱がこもる。クウには熱があっても、風がない。
「壁へ穴を開ける」とポルカ。
「建物の許可が必要です」と雨宮。
「また紙か」とロアン。
「勝手に穴を開けるより早いです」
店へ戻り、クウを置かずに風の通り道だけを試した。
ポルカが細い筒を窓から冷蔵棚の裏まで通す。設備の熱が筒を上り、外へ抜けた。
「鳥がいなくても、少し冷えやすくなった」とトト。
今まで熱がこもっていた分、冷蔵設備そのものの負担が減った。クウを連れてくる前に、一つ改善できた。
「これで門と一緒に動く?」とリリア。
門を短時間だけ起動する。
照明は消えない。だが冷蔵棚の音が低くなり、温度計の針が上がり始めた。
「同時運転は、まだ無理です」と雨宮。
「それでも、止められる時間は短くなる」と宗久。
クウは組合の飼育小屋へ戻した。店へ来るのは、もっと成長し、本人が風の通る箱を選べると確認してからにする。
「本人って、鳥だぞ」とロアン。
「嫌がる場所へ縛らないという意味です」
リリアが籠越しに指を出す。クウは指先の風を吸い、リリアの耳の毛だけを逆立てた。
「遊んでる」
「吸われてるんだろ」
「遊んでる」
クウの利用は保留になった。
その日の閉店後、宗久は別の申請書を机へ置いた。
『店内調理品販売許可申請』
雨宮が一行目を読み、宗久を見る。
「クウより、こちらを先に動かすんですね」
「夕方の客を待たせていますから」
冷たい売場の次は、温かい売場だった。




