風を食べる雛
組合の飼育小屋で、灰色の殻が床に散っていた。
その真ん中に、手のひらほどの鳥がいる。
羽毛はまだ濡れている。くちばしは短く、頭には一本だけ細い角。翼を広げるたび、周りの藁が吸い寄せられた。
「風を食べてる」とフェナ。
「知っている鳥ですか」
「知らない。でも風を食べてる」
小鳥が息を吸う。
飼育小屋の窓から風が入り、紙と藁が一斉に浮いた。宗久の申請書も飛び、リリアが床へ跳び込んで押さえた。
「商品追加の紙、食べられるところだった」
「食べているのは風です」
「紙も口に入った」
小鳥は紙の端をくわえていた。
飼育係にも種類が分からない。灰色の卵がフェナの巣へ紛れた理由も不明だった。
クウは餌皿の穀物を食べなかった。水にも口をつけず、窓から入る風へ顔を向ける。飼育係が窓を閉めると、羽を縮めて動かなくなった。
「弱った」とリリア。
「風を止めたからだ」とフェナ。
窓を少し開ける。クウが息を吸い、また藁が転がった。
「店へ置いたら、値札が全部飛びます」と雨宮。
「まだ置くと言っていません」
ポルカは風の流れを確かめるため、細い紙を小屋の柱へ何本も結んだ。クウが息を吸うたび、紙はすべて同じ方向へなびく。
「風を起こすんじゃなく、集めてる」とポルカ。
集めた風をどこへ吐くかは、まだ分からない。かわいらしい雛でも、設備として使えると決めつけてはいけなかった。
「親が卵を置いていった?」と雨宮。
「風尾鳥の巣は屋根の下です」とフェナ。「飛べる鳥なら入れる」
「魔物なら処分する」と飼育係。
リリアが小鳥を抱えた。小鳥は彼女の耳へくちばしを寄せ、息を吸う。
赤茶色の毛が逆立った。
「風を食べただけ」
「リリアから離してください」と雨宮。
危険かどうか分からないものを、かわいいだけで店へ持ち帰れない。卵の仕入れとは切り離し、組合が飼育して調べることになった。
「名前は?」とリリア。
「種類も分からない」と飼育係。
「名前がないと呼べない」
「灰」とロアン。
「そのまま」
「クウ」とリリアが決めた。「空気を食べるから」
飼育係は記録板へ、仮称クウと書いた。
店へ戻ると、白い卵の追加許可が届いていた。
取扱商品は一つ増える。ただし条件がある。
仕入れ当日のみ販売。
全数を明かりで確認。
割れと汚れを分ける。
生では食べない説明をつける。
「卵かけご飯は売れませんね」と久瀬。
「米もありません」と宗久。
「日本の食べ方を何でも持ち込むな」とロアン。
「持ち込んでいません」
ネネが白い卵を焼いた。黄身が二つあるため、平たい鉄板いっぱいに広がる。端が白く固まり、二つの黄身だけが並んで揺れた。
「目みたい」とリリア。
「食べにくくなることを言わないで」
片面だけでは白身の上が固まらない。蓋をかぶせ、火を通す。黄身まで固くすると、パンへ挟みやすかった。
もう一つは鍋で茹でる。殻が大きいため、日本の卵より時間がかかる。調理札には、鐘の長さではなく、黄身を割った絵で火の通りを確認するよう示した。
「売場で焼いて売る?」とリリア。
「今は卵だけです」
「パンと一緒に見せる?」
「それはします」
卵台は冷蔵棚の横。反対側にパン売場への葉の足跡ならぬ、白い羽の印を床へ貼った。
白乳、卵、パン。
朝に使う商品が、入口近くでつながった。
「しょうゆも合います」と宗久。
「増やした」と雨宮。
「場所を案内するだけです」
羽の足跡は途中で二つに分かれた。片方はパン、もう片方は調味料売場。
翌朝の販売数は十二個。一人二個まで。
「卵を一つずつ売るの?」とフェナ。
「初回は選べるようにします」
「大きいのから取られる」
「同じ値段ですか」
「白は全部同じだよ」
籠の中には、大きさの違う白い卵が並んでいた。
殻の色を一つに絞っても、次は大きさがそろっていなかった。




