殻の中の音
明かりへ透かした卵の中で、黒い点が揺れた。
「黄身じゃないの?」とトト。
「黄身は、こんな動き方をしません」
フェナは卵を受け取り、耳へ当てた。
「温めれば孵るね」
「食用の籠に入っていました」
「雄が柵を越えたんだろ」
風尾鳥は、雌だけを食用卵の囲いで飼っている。だが、夜の強風で仕切りが倒れ、雄が入った可能性があるという。
「全部孵るの?」とリリア。
「全部じゃない。明かりで見れば分かる」
「昨日まで見ていませんでしたよね」と雨宮。
「家で食べるなら気にしない」
一号店で売るなら、客が知らずに割ることになる。
販売前に全数を明かりへ透かす。白い卵は中が見える。薄青は見えにくい。茶色はほとんど光を通さなかった。
「殻を薄くして」とリリア。
「鳥に言いな」とフェナ。
前日と同じ答えだった。
ポルカが、油灯の光を細い筒へ集める箱を作った。卵を穴へ置くと、横から光が漏れず、中の影が見やすくなる。
白い卵から、もう一個黒い点が見つかった。
薄青は判別できない。冷やせば殻が汗をかき、ひびが入る。強い光を長く当てると、中が温まる。
「音を聞く」とフェナ。
「まだ小さいと鳴かないのでは?」
「風は動く」
フェナは薄青の卵を平らな水へ浮かべた。卵がわずかに揺れる。
「水につけると汗をかくと言いましたよね」
「すぐ拭けば平気」
「店では使えません」
宗久は断った。
食用として確実に分けられないなら、薄青の卵は扱えない。
「青い方が菓子屋に売れる」とフェナ。
「同じに見えるから、分け方が必要です」
その時、ネネが殻を軽く叩いた。食用の薄青は澄んだ音。影のある白い卵は、少し鈍い。
「音なら?」
十個を並べ、フェナが食用と判断した物を混ぜる。ネネは目を閉じ、一個ずつ木の棒で軽く叩いた。
八個は当てた。二個は外れた。
「全部じゃない」と雨宮。
「二人で聞く」とリリア。
ネネとフェナが別々に確認し、両方が食用と判断した物だけを売る。一人でも迷えば外す。
翌朝、店員全員で音を聞いた。
最初は十個を机へ並べ、番号を伏せる。ネネとフェナが分けたあとで、結果を見せる。
ガルドは音より重さで当てようとした。シャルナは一回ごとに木の棒を置く位置をそろえた。マノンは殻へ耳を近づけすぎ、フェナに「温めるな」と離された。
正しく分けられたのはネネだけだった。
「私が休んだ日は?」とネネ。
店が一人の耳だけに頼れば、その人がいない日に卵を売れない。
宗久は薄青の販売を急がないと決めた。白い卵は明かりで確認できるため、シャルナと雨宮も同じ結果を出せる。まず、誰が作業しても分けられる一色から始める。
「私の耳が悪いみたい」とリリア。
「卵売場以外では一番よく聞こえます」と雨宮。
「ほめられた?」
「配置の話です」
「毎朝、私が店へ来るのか」とフェナ。
「畜舎で確認して、受け取りに行った二人がもう一度見ます」
「トトに音が分かる?」
試すと、トトは半分しか当てられなかった。ロアンは七割。リリアは全部同じ音だと言った。
「ネネさんが受け取り担当ですね」と宗久。
「朝の仕込みがある」とネネ。
白乳の朝売場、厨房の準備、卵の受け取り。冷蔵商品が増えるほど、朝の仕事が重なる。
「毎日、三色を売るのはやめます」と宗久。
最初は中を確認しやすい白い卵だけ。薄青は、見分け方が安定するまで菓子屋への従来販売を続けてもらう。茶色も今回は見送る。
「三色持ってきたのに、一色だけか」
「一色をきちんと売ってから増やします」
食用と分けた卵は、フェナが持ち帰る。孵化用の籠へ置き、育てるという。
「捨てないの?」とリリア。
「鳥になる物を、なぜ捨てる」
販売から外すことと、価値がないことは違う。
白い卵十二個で、組合へ商品追加を申請した。
その日の夕方、許可書より先に、フェナの使いが店へ駆け込んできた。
「灰色の卵が、孵りました!」
何の卵か分からないまま、殻だけが先に割れた。




