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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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割れる荷車

 フェナの畜舎から店までに、卵が三個割れた。


「昨日は一個も割れなかった」とフェナ。


「昨日は籠を抱えて歩いてきました。今日は荷車です」


 試験仕入れの卵は、白、青、茶を合わせて三十個。藁を敷いた籠へ入れ、フェナの荷車で運んだ。


 店へ着いた時、底の白い卵が二個、茶色が一個割れていた。


「食べられる」とフェナ。


「売場には出しません」と宗久。


「今、割れたばかりだ」


「いつ割れたか、客には見えません」


 殻の割れ目から、中身が藁へ染みている。隣の卵にも付いていた。


 割れた三個だけでなく、汚れた五個も分ける。店へ並べられるのは二十二個になった。


「八個も減るなら、荷車を使わない」とフェナ。


「毎朝、抱えて来られますか」


「三十個なら」


「増えたら?」


 フェナは答えなかった。


 商品を増やしたあとも同じ運び方ができる必要がある。


 ポルカが籠を持ち上げた。底は平らだが、車輪の振動がそのまま卵へ伝わる。


「穴を一つずつ作る」


 薄い板へ丸い穴を開け、卵の半分が沈むようにする。その下へ藁を敷いた。


 白い卵を置くと穴が大きすぎ、横へ倒れた。茶色には小さい。


「全部同じ大きさに産ませて」とポルカ。


「鳥に言いな」とフェナ。


 穴を三種類に分ける案は、すぐ却下された。毎朝、色と大きさが同じ数だけ採れるとは限らない。


 リリアが布巾を細く巻き、卵の周りへ輪を作った。


「これなら大きさが変わる」


 輸出用に外れた布の端切れを使い、輪を作る。洗える。藁のように中身へ付かない。破れたら縫い直せる。


「布巾が卵の服になった」とトト。


「商品用の布巾は使いません」と雨宮。


 エナから端切れを買い、運搬用の備品として記録する。


 試験は卵の代わりに、水を入れた薄い陶器玉で行った。割れれば中の色水が漏れる。荷車を同じ道で三往復させる。


 一度目は、籠の端に置いた玉が割れた。


 二度目は、段差で上の板が跳ねた。


 三度目は、一つも割れなかった。


 だが、陶器玉を取り出すと、底の布が湿っていた。前日に洗った端切れが乾ききっていなかったらしい。


「卵は割れてない」とリリア。


「湿った布へ一晩置けません」と雨宮。


 洗った輪には、乾燥済みの札をつける。使った物と未使用を別の籠へ入れる。便利な端切れも、管理しなければ汚れを運ぶ。


 ガルドが籠を持ち、店の階段を上り下りした。大きく傾けても卵は動かない。ただし、輪へ深く沈めると取り出しにくい。


「客が自分で取る時に落とす」とベラ。


 運搬用の輪と、売場用のくぼみは別にした。荷受けで一度移す手間は増えるが、汚れた運搬具をそのまま売場へ出さずに済む。


「籠ごと置いた方が早い」とフェナ。


「早さより、割れた時にどこまで汚れたか分かる方を選びます」


 一つの商品を置くために、裏口と売場で二つの容器が必要になった。


「これで卵も大丈夫」とリリア。


「陶器と殻は違います」と雨宮。


「また試すの?」


「今度は売らない卵で」


 ひびが入って販売できない薄青の卵と、フェナの家で形が悪いとして残していた卵を使う。店まで運び、すべて無事だった。


 それでも宗久は「一つも割れない」とは書かなかった。


 荷受け時に一個ずつ確認する。割れた場合は店が買い取り、販売品と分ける。フェナへ返品しない。運搬用の籠は店が用意し、洗って乾かす。


「店が運ぶのか」とフェナ。


「最初はトトが受け取りに行きます」


「一人で?」


「道を覚えるまではロアンも」


「俺もか」


「農家との受け取りは仕入れ担当でしょう」


 ロアンは卵より割れやすそうな顔をした。


 翌朝、二人が運んだ三十個は、一つも割れずに届いた。


 トトが胸を張る。


「全部売れる」


 雨宮が一個を明かりへ透かした。


 殻の中に、小さな黒い影が見えた。


「これは売れません」


 割れなくても、売れない卵がある。


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