冷やせない卵
「冷たい棚がある店は、ここ?」
白い服の女性は、大きな籠を会計台へ置いた。
卵は白、薄青、茶、灰色。大きさもそろっていない。鶏卵ほどの物に混じり、宗久の拳ほどある卵もあった。
「まず、籠を揺らさないでください」
雨宮が両手で押さえる。
「割れてないよ」と女性。
「割れてからでは遅いので」
名はフェナ。南門の先で、風尾鳥という鳥を飼っているという。
「全部、同じ鳥の卵ですか」
「白と青は風尾鳥。茶は土走り。灰色は知らない」
「知らない卵を持ってきたんですか」
「今朝、巣にあった」
ロアンが灰色の卵から離れた。
「魔物の卵じゃないだろうな」
「食べれば分かる」
「食べる前に調べます」
宗久と雨宮の声が重なった。
フェナは冷蔵棚を指した。
「ここへ入れれば、長く売れるんだろ」
「卵によります。今は入れません」
「白乳は入ってる」
「同じ食べ物ではありません」
日本の卵なら、店頭で冷蔵する。ただし異世界の鳥が同じとは限らない。殻の表面、産んだ日、洗っているか、食べ方。確かめることが多かった。
フェナは卵を洗っていなかった。
「泥がついた時だけ布で拭く。水につけると、青いのは汗をかく」
「卵が汗を?」とリリア。
薄青の卵を冷蔵棚の前へ置く。冷気が当たると、殻に細かな水滴が浮いた。
「本当だ」
リリアが触ろうとし、雨宮に手首をつかまれる。
「見ているだけ」
「その言葉の信用はなくなりました」
水滴は殻の外から出たように見える。フェナは、冷えると中の風が逃げるのだと言った。
「風が入ってるの?」
「風尾鳥だからね」
説明になっているようで、なっていない。
治療師を呼び、四種類を別々の板へ置いた。灰色は販売候補から外し、正体が分かるまで蓋つきの箱へ入れる。
「割って確認します」とネネ。
「食べる分が減る」とフェナ。
「検査用は店が買います」
白い卵は、黄身が二つあった。薄青は黄身が濃い橙色。茶色は白身が少なく、黄身が大きい。
「色ごとに中も違う」とリリア。
「値段も違う」とフェナ。
白は安い。青は香りが弱く、菓子屋が買う。茶は腹にたまるため、肉体労働者に売れる。
灰色の卵は割らなかった。箱の中から、ごく小さな音がしたからだ。
こつ。
全員が黙る。
もう一度、内側から殻を叩く音がした。
「食べ物じゃない」とフェナ。
「最初に気づいてください」
「朝は鳴いてなかった」
箱ごと組合の飼育係へ預けることになった。
残る三種類は、常温、冷蔵棚の手前、奥へ分ける。販売禁止の札をつけ、殻の水滴と中身の変化を見る。
翌朝、冷蔵棚の奥に置いた薄青の卵だけ、殻へ細いひびが入っていた。
手前は水滴だけ。常温は変化なし。
「冷やすほど長持ちするんじゃないの?」とリリア。
「少なくとも、この卵は違います」
白い卵と茶色の卵は冷蔵でも割れていない。それでも、同じ棚へ三色を並べる売り方はできなかった。
常温へ戻した薄青の卵には、さらに水滴が増えた。殻を拭いた布が湿り、青い色がわずかに移る。
「汗じゃなく、殻の色が落ちてる?」とリリア。
治療師が布と卵を分けて包んだ。色そのものが危険とは限らない。しかし、冷蔵と常温を行き来させれば殻の状態が変わることは分かった。
「一度冷やした物を、外へ戻して売らない」と雨宮。
「白乳と同じ?」
「白乳は冷蔵したままです。卵は最初から冷やさない」
冷蔵棚の横に常温台を置き、二つの売場を混ぜない。透明な扉へ卵の絵を貼る案もやめた。中にあると勘違いして、扉を開ける客が出るからだ。
代わりに、冷蔵棚の側面へ巣箱の形をした棚を取りつける。ポルカが板を丸く削り、卵が転がらない浅いくぼみを作った。
「まだ売る許可もない」とロアン。
「許可が出てから作ると遅い」とポルカ。
「出なかったら?」
「石けんを置く」
巣箱に入った石けんを想像し、全員が黙った。
宗久は冷蔵棚の横へ、常温の卵台を置く場所を測った。
「冷たい棚を見て来たのに、冷やさないのか」とフェナ。
「冷やさない方がよい商品を、冷蔵棚の隣で売ります」
「変な店だね」
「商品に合わせた結果です」
冷蔵売場を増やしたからといって、何でも冷やすわけではない。
空いている場所は、冷蔵棚の隣に半歩分。
卵より先に、卵を置く台が必要になった。




