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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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縮む布

『布巾として使った方は、二人です』


 日本から届いた返事に、事務所が静かになった。


「十人に売ったんだろ」とロアン。


「八人は?」


 久瀬が続きの紙をめくる。


 鍋つかみが三人。籠の敷き布が二人。壁飾りが一人。まだ使っていない者が二人。


「壁に飾った?」とリリア。


「端の三色が珍しいそうです」


「三色をつけたのは、これから」とエナ。


 試験販売分には色糸がない。壁に飾られた理由は、曲がった縫い目と手織りの風合いだった。


「日本の客は、真っすぐじゃない方が好きなのか」


「全員ではありません」と宗久。


 布巾として使った二人のうち、一人から「洗ったら小さくなった」と回答があった。鍋つかみにした一人も、厚みが増したと書いている。


「苦情ですか」とエナの妹。


「返品は求めていません。ただ、次に買うなら先に知りたいと」


 宗久たちは、三軒の糸で織った見本を一枚ずつ用意した。


 洗う前に木枠へ重ね、四隅へ印をつける。水だけ、湯、石けんを使った水。三つの桶へ分けた。


「洗い方まで日本と違う」とネネ。


「だから三通りです」


 リリアは湯の桶を担当した。力いっぱい絞ろうとして、雨宮に止められる。


「同じ強さで絞らないと比べられません」


「強さをどうやって同じにするの?」


 答えられる者はいなかった。


 木の棒へ布を巻き、同じ位置まで回すことにした。ポルカが持ち手へ印を刻む。


「布を洗うだけで道具が増える」とトト。


「売る前に増える方がましです」と雨宮。


 乾くまで、店の裏へ三枚を並べた。


 風が吹くと、緑の印をつけた布だけ下端が持ち上がらなかった。目が詰まり、水を多く含んでいる。


「同じ白い布なのに、動きが違う」とリリア。


「畳んで売ったら分かりません」と雨宮。


 乾く速さも用途の一部だった。店頭へ二枚を並べ、客にも触ってもらう。


「薄い方は頼りない」と料理屋。


「厚い方は絞れない」と年配の女性。


「どっちがいいの?」とリリア。


 二人は同時に、自分が選んだ方を指した。


 良い方を一つ決めるのではなく、違いを見せて選んでもらう。売場には薄手と厚手を同じ高さで置いた。


 水だけの布は、ほとんど変わらない。湯で洗った布は縦に縮んだ。石けんを使った物は柔らかくなり、横幅も少し狭くなった。


「三軒目の糸だけ、縮みが大きい」と宗久。


「撚りが甘い」とエナ。


 三軒目の女性は、悪びれなかった。


「柔らかい布にする糸だ。今までもそう売ってる」


「布巾には向かない?」


「鍋つかみなら厚くなる」


 用途によって、欠点が変わった。


 エナは三軒目の糸を外そうとしたが、宗久は止めた。


「全部を同じ布巾として売らない方法はあります」


「また商品を増やす気ですか」と雨宮。


「二種類だけです」


「店長の『だけ』は信用していません」


 雨宮はそう言いながら、記録紙を二つに分けた。


 薄めで乾きやすい布。


 厚く、熱い鍋を持ちやすい布。


 日本側へは、用途を決めつけず、洗うと縮むことと、三回洗ったあとの大きさを伝える。数字だけでなく、洗う前と後の布を重ねた写真も送る。


「小さくなるのを見せて売るのか」と久瀬。


「隠して二度と買われないよりいいです」


 追加注文した担当者から返事が来た。


 『縮みを含めて手仕事の特徴として表示する。三十枚を希望』


 日本側は、洗濯方法の印も求めてきた。桶、湯気、ねじった布へ斜線を引いた記号が届く。


「これは布が苦しそうだから駄目な絵」とリリア。


 記号を知らないリリアにも、強くねじらない絵は伝わった。湯へ入れないことと、絞りすぎないことを、記号と絵の両方で示す。


 日本だけの表示を貼るのではなく、この店の客にも分かる札になった。


「百枚じゃなくなった」とリリア。


「こちらが出せる数と同じです」と雨宮。


「最初から三十枚にすればよかった」


「調べたから、三十枚でよいと分かったんです」


 エナは縮んだ布を一枚、両手で引っ張った。


「日本では、これも売るのか」


「売れるかどうかは、まだ分かりません」


「分からないのに、三十枚」


「今度は、違いを知ったうえでの注文です」


 十枚が偶然売れた時とは違う。


 洗えば変わる布を、変わらないように見せずに売る。


 三十枚の製造が、ようやく本当の意味で始まった。


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