↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/110

六本の初入荷

透明な冷蔵棚に、白乳が六本並んだ。


 陶器の瓶は形がそろっていない。背の高い物、丸い物、口が少し曲がった物。瓶の首には、角牛の名を書いた小札が結ばれている。


「牛の名前で味が違うの?」


 開店前から、リリアが聞いた。


「ラダさんは違うと言っていました」


「店長は分からなかった」


「言わなくていい」


 売る場所は冷蔵棚の手前にした。門を使う間に温度が上がりやすい場所だが、六本なら午前中に動く可能性がある。奥には薄切り肉。下段には鮮魚を入れた金属箱を置く。


 入口の絵札には、白乳の瓶だけを大きく描いた。


 開店すると、最初の客は冷蔵棚を通り過ぎた。


 二人目は扉を開け、中を見て、閉めた。


 三人目が白乳を一本持ち上げる。


「冷たい」


 それだけ言って棚へ戻した。


「買わない」とリリア。


「まだ決めていないだけです」


 客は売場を一周し、パンを手に取った。そのあと再び冷蔵棚へ戻り、白乳を籠へ入れた。


 会計で、シャルナが瓶の代金を説明する。


「次にこの瓶を持ってくれば、瓶代はいりません」


「店が買い取るのか」


「預かった分を返します」


「割ったら?」


「次は新しい瓶の分を払います」


 客は瓶を裏返し、底まで見た。


「空で持ってくるのは面倒だな」


「ほかの買い物の時で構いません」


 返却期限はつけなかった。急がせれば、白乳を飲み終える前に別の器へ移す客が出る。


「瓶が戻らなければ、次の商品が足りない」とシャルナ。


「その時は新しい瓶を仕入れます。客を急がせて中身を粗末にさせない」


 売るのは白乳だ。瓶を回収するために飲み方を変えさせてはいけない。


「一緒に食べる?」とリリア。


「娘の朝飯だ」


「明日の朝までは売れません」と雨宮。


 客の手が止まった。


「冷やしてるのに?」


「今日の閉店までの商品です」


「じゃあ、今夜飲む」


 期限を短く書けば安心とは限らない。客が使いたい時刻に合わなければ、商品にならない。


「明日の朝まで持たせられないの?」とリリア。


「安全確認は今日までです」


「店は朝、閉まってる」


 白乳を一番欲しがる時間に、一号店は開いていなかった。


 宗久は六本を売り切ることより、次の営業日を考えた。


「開店を早めますか」とマノン。


「白乳だけのために九人全員は呼べません」


「三人なら?」と雨宮。


 本社からは人件費を見直すよう求められている。営業時間を延ばせば逆になる。


「入口の小窓で売る」とポルカ。


 以前、荷物を確認するために作った窓がある。売場を開けず、会計台まで客を入れずに白乳とパンだけ渡せる。


「朝だけの売場?」とリリア。


「試すなら、商品を増やさないことです」と雨宮。「白乳と、前日に取り置いたパンだけ」


「野菜は?」


「始める前から増やさないでください」


 宗久は思わず笑った。


「何ですか」


「俺が言われる前に止められたので」


「店長なら増やすと思いました」


 雨宮には完全に読まれていた。


 昼に門を開く時間が来る。冷蔵設備を止め、扉へ封をした。


「開けちゃ駄目?」と客が聞く。


「日本から荷物が来ている間だけです」


 残っている白乳は二本。あとから来た客は、透明な扉越しに見えているのに買えない。


「目の前にあるのに」


「少し待ってください」


「市場なら、待たずに買える」


 客は帰った。


 冷やせることが便利でも、店の都合で売れない時間があれば不便になる。


 門が閉じ、冷蔵設備を戻す。温度が安定してから封を外した。


 さっきの客は戻らなかった。


 代わりに、白乳の瓶を持った最初の客が戻ってきた。


「もう飲んだんですか」


「娘がここで飲んだ」


 子どもの口には、白い跡が残っている。


「瓶を返す。代金は?」


 シャルナが預かり分の銅貨を返した。客はその銅貨で、小さなパンを一つ買った。


「瓶がパンになった」とリリア。


「もともと客のお金です」


「でも、店に戻った」


 返却の仕組みが、次の買い物につながることもある。ただし、それを当てにして白乳の値段を決めてはいけない。宗久は白乳の売上と、返した瓶代と、そのあと買われた商品を別々に記録した。


 最後の一本は、閉店の鐘まで残った。


「酸乳にします」とネネ。


 売れ残りを厨房へ運ぼうとすると、ラダが来た。


「残ったか」


「一本です」


「全部売ると思った?」


「売れない分もあると思っていました」


「嘘だね。顔が悔しそうだ」


 ラダは瓶を開け、匂いを確かめた。


「まだ白乳だ。火を入れて冷やすと、酸っぱくなるのが遅い」


「明日の朝まで確認できますか」


「飲む気?」


「売れる時間を決め直したいんです」


 一本を検査用として残し、冷蔵棚の奥へ移す。販売禁止の札をつけ、夜間の温度を記録する。


 翌朝、宗久、雨宮、ラダ、治療師が店へ集まった。


 瓶を開ける。


 白乳の甘い匂いが残っていた。治療師が確認し、ラダが先に口をつける。


「昨日より角牛くさくない」


「それは良いんですか、悪いんですか」


「まだ決めてない」


 安全を確認したあと、宗久も飲んだ。酸味はない。冷たさのせいか、昨日より飲みやすかった。


「明日の朝まで売れる可能性があります」と雨宮。


「一回だけでは決めません」


「分かっています」


 ラダが空の瓶を見た。


「明日は十二本持ってくる」


「六本です」


「売れたんだろ」


「五本です」


「残りも飲んだ」


「検査です」


「腹に入れば同じだ」


 仕入れ数は、また六本になった。


 ただし次は、朝の小窓で三本。通常営業で三本。


 冷蔵棚より先に、小さな朝売場が動き始めることになった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。