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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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売れるほど赤字

「赤字の商品を、完売させたのか」


 久瀬が空の棚を指した。


「商品単体では赤字ではありません」と雨宮。「日本側の仕入れ原価だけなら利益があります」


「門の輸送費を入れれば?」


「一缶ごとに銅貨一枚弱の赤字です」


 売れば売るほど、輸送費が利益を上回る。


「値上げしますか」と宗久。


「すぐにはするな。誰が、何と一緒に買っている」


 会計記録を開く。


 魚缶だけを買った客は八人中二人。残りは乾麺、しょうゆ、葉野菜、パン、金属鍋などを一緒に買っている。


「店全体で見れば利益が出ています」と雨宮。


「魚缶が呼んだ客か、もともと来た客が魚缶も買ったのか」


 記録だけでは分からない。


「次の客に聞きます」と宗久。


「今、完売したばかりだぞ」


「買えなかった人にも聞けます」


 魚缶売場の前には、空棚を見て帰ろうとする客がいた。


「今日は何を買いに来ました?」


「魚の缶だよ」


「ほかの商品は?」


「魚がないなら、いらない」


 最初の客は何も買わずに帰った。


 二人目は、魚缶がないと知って乾麺を戻した。


「一緒に煮るつもりだった」


 三人目は、現地の鮮魚を見に行った。しかし鐘二つを過ぎ、魚は売場から下げられている。


「どっちもないのか」


 魚缶が客を呼んでいるのは確かだった。同時に、欠品すると別の商品まで売れない。


「販売数を増やすべきです」と久瀬。


「増やすほど赤字では?」とリリア。


「一緒に買われる商品まで含めて、客一人で判断する」


 宗久は魚缶を買った客の籠を、会計ごとに分けた。


 魚缶一缶だけなら赤字。


 乾麺と葉野菜が加われば黒字。


 しょうゆまで加われば、輸送費を含めても利益が残る。


「魚缶と一緒に三つ買わせる札を出す?」とロアン。


「買わせる、ではありません」と雨宮。


「同じだろ」


「必要な料理を作れるように案内するんです」


 魚缶と乾麺を煮る絵。魚缶を葉野菜とパンへ挟む絵。開けた缶をその日に食べ切る注意も残す。


 値引きはしない。魚缶を安く見せるためでもない。


「魚缶を入口へ置けば、もっと客が来ます」とトト。


「入口で取られたら、奥まで歩かない」とマノン。


「最後に置けば、魚缶だけの客で通路が詰まる」とベラ。


 三人の意見が分かれた。


 宗久は魚缶を動かさず、入口へ魚の絵札だけを置いた。商品は保存食の棚。途中には鮮魚と乾麺の案内を出す。


「客を遠回りさせるの?」とリリア。


「最短で魚缶へ行ける。ほかにも魚があると見える道にする」


 売場を歩かせるために迷わせてはいけない。行き先を示したうえで、途中に選択肢を置く。


 魚缶だけの客は一直線に進んだ。夕食を迷っていた客は鮮魚台で止まった。


「同じ道でも、籠は違いますね」とマノン。


「日本の商品を餌に、現地商品を売るのか」


 デレスが売場の外から言った。


「そう見えますか」と宗久。


「魚缶の隣に俺の魚の絵まで置いてある」


「保存する魚と、今日食べる魚の違いを出しています」


「缶がなくても、生の魚を買う客はいる」


「分かっています」


「なら、明日は缶を置くな」


 デレスが四尾の魚を指した。


「こっちだけで客を呼べるか、試せ」


 久瀬は止めなかった。


「やってみろ」と言う。


 翌営業日、魚缶の棚は空のまま開店した。欠品ではなく、『次回販売』の札を出す。


 鮮魚は四尾。前回と同じ数だ。


 開店直後、魚缶を求めた客が三人来た。一人は何も買わず帰り、二人は鮮魚を見た。


「丸ごとは料理できない」


「会計後、デレスさんの作業場で腹を出せます」


 案内すると、一人が買った。


 二尾目は宿屋。三尾目は、魚缶を買う予定ではなかった客が香り草と一緒に買う。


 四尾目は残った。


「缶に勝てなかった」とデレス。


「勝ち負けではありません」


「店長はそればかりだな」


 残った一尾を下げ、売れ方を比べる。


 魚缶がある日は来店数が多い。ただし鮮魚も、売場で下処理先を案内すれば三尾売れる。


「両方置きます」と宗久。「魚缶は一日十缶を上限にする。鮮魚は四尾から変えない」


「赤字は?」と久瀬。


「魚缶の価格を銅貨一枚上げます」


 高くして客が離れれば、来店商品としての意味も薄れる。次の十缶だけ試し、併買と客数をもう一度見る。


 値札を変える前に、入口で理由を説明した。


 日本から運ぶ費用がかかる。継続して売るため、一枚上げる。


「遠い魚なら仕方ない」と受け入れる客もいれば、「前と違う」と帰る客もいた。


 十缶は昼過ぎに完売した。


 値上げ後、最初に棚へ手を伸ばしたのは、前にも買った老女だった。


「銅貨が一枚増えてる」


「日本から運ぶ費用を入れると、前の値段では続けられません」


「前は間違えてたのかい」


「見ていた費用が足りませんでした」


「店の間違いを、客が払う?」


 宗久は答えに詰まった。


 原価が上がったわけではない。最初からあった輸送費を、店が正しく入れていなかった。


「最初の値段で買った人へ、あとから請求はしません」と雨宮。「これからも置くための値段です」


「置かなくてもいいんじゃないか」


「そう思う人もいると思います」


「店は、置きたいの?」


「置きたいです」と宗久。「川の魚がない日にも食べられて、遠くへ持って帰れるから」


 老女は銅貨を数え、魚缶を一つ取った。


「今日は買う。でも、また上げたら買わないよ」


「その時は、理由をもう一度説明します」


「買うとは言ってない」


「分かっています」


 値上げを受け入れた客だけを見て、成功とは決められない。魚缶売場の横に、買わなかった理由を聞く係を置いた。


 高いと答えた者が五人。現地の魚で足りるが三人。前の値段を知らない初来店客が四人。


「買わない客まで数えるのか」と久瀬。


「値段を上げて、客が何人消えたか知りたいので」


「報告では販売数しか来ていなかった」


「買わなかった人数まで毎回送ると、本社が読まないと思いました」


「送れ。少なくとも私は読む」


「役員が替わったら?」


「読ませる形式を作る」


 久瀬は買わなかった客の欄へ、自分で印をつけた。


 前より二時間遅い。それでも、購入者の多くが乾麺か青果を一緒に買った。輸送費を含め、初めて魚缶全体で利益が残った。


 値上げ分だけで黒字になったわけではない。一緒に買われた現地商品の利益が支えている。その内訳を分けなければ、魚缶そのものが儲かると本社に誤解される。


「魚缶単体」と「魚缶を買った会計全体」。雨宮は二本の線で報告を分けた。


「数字をよく見せないのか」とロアン。


「よく見せて、次に三十缶送られたら困ります」と宗久。


 久瀬は黙ってうなずいた。


「値上げしても売れた!」とリリア。


「次も同じとは限らない」と宗久。


「喜んでから言って」


 久瀬は売上表より、客の籠を見ていた。


「魚缶を買った十人のうち、鍋を持っていない者が二人いた」


「どうして分かるんです?」


「二人とも、缶を直接火へ掛けると言っていた」


 赤字の次は、食べ方の問題が見つかった。


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