週三日営業でも店が回らない
三十日間の営業許可を得た最初の朝、一号店の前には四十人が並んでいた。
「少ないですね」と雨宮。
「前は百人いたぞ」とロアン。
「一日しか開かないと思っていた百人と、週三日開くと知っている四十人は違います」
宗久は入口へ営業日を示す板を出した。
二日開けて一日閉め、また二日開ける。そのあと、次の週まで仕入れと休養にあてる。曜日の呼び方が日本と違うため、文章ではなく、開く日は赤い屋根、閉める日は下ろした扉の絵で示した。
「休みの日に来た客はどうする?」とリリア。
「次に開く日の札を見てもらう」
「怒らない?」
「怒る人はいる」
毎日開ければ、もっと売れる。本社の三倍目標にも近づく。
だが、仕入れ量も勤務人数も、毎日営業には足りない。開けられる日を明確にする方が、無理に開けて商品も店員もなくなるよりよかった。
開店すると、客は青果、パン、肉の順に動いた。
四十人なら整理札はいらないと考えていたが、入口で足が止まった。前回来た客は迷わず籠を取る。初めての客は、棚を見たまま動かない。後ろから入った客が追いつき、入口だけが詰まった。
「人数が少なくても混むんですね」とユノ。
「同じ場所で止まればな」
宗久は床へ置いていた籠を、扉の外と中に半分ずつ分けた。リリアが入口で、青果、肉、生活用品の絵を一枚ずつ見せる。
「今日は何を買いに来ました?」
「見に来ただけ」
「なら、この籠です」
「全部同じ籠だろ」
「はい。でも持って入ると、買いたくなります」
客が笑い、入口から動いた。
四十人を十人ずつ区切る必要はなくても、入った人を売場へ流す役は必要だった。前の営業方法をそのまま縮めればよいわけではない。
缶詰売場には、日本から届いた追加分が並ぶ。缶切りを必要としない二種類だけに絞り、蓋の開け方を絵にした。許可済み二十九品の補充であり、新商品ではない。
「今日は売る物が多い」とネネ。
「多く見えるように並べ直したんです」と雨宮。
棚いっぱいに薄く広げるのをやめ、同じ商品の列を奥へ伸ばした。量が多そうに見せるためではなく、残数を後ろから数えやすくするためだ。
問題は、昼前に始まった。
「白根がありません!」
青果売場からユノが叫ぶ。
「裏の箱は?」
「空です」
肉白根パンに使う分を調理場へ移したあと、補充分を出した記録が二重になっていた。帳面では一箱あるのに、実物はない。
「肉白根パンは、あと十二個作る予定です」とネネ。
「白根なしで作る?」とロアン。
「商品名が変わる」と雨宮。「届け出た配合とも違います」
宗久は肉とパンの残数を見た。
「追加調理は止める。作った十三個だけ売る」
「客が待ってます」とリリア。
「待たせて、違う物を出す方が悪い」
売場へ『本日分終了』の札を出す。読み上げると、列の後ろから不満の声が上がった。
「まだ昼だぞ」
「肉だけ挟めばいい」
「昨日は買えた」
宗久は一人ずつ説明しようとしたが、同じ質問が重なる。レジの列まで止まり始めた。
するとガルドが、空になった白根の木箱を頭上へ持ち上げた。
「ない!」
大きな声が店中へ響いた。
「次は、二つ先の赤い屋根の日!」
営業日を示す板を指す。言葉は乱暴だったが、客には一番早く伝わった。
怒って帰る客もいた。それでも、肉だけのパンを勝手に売るよりはよい。
「本日分終了の絵も必要ですね」と雨宮。
「空箱を毎回持たせるわけにいかないからな」
午後には、しょうゆが売り切れた。現地布巾も残り一枚。乾麺は購入制限を続けているのに、閉店一時間前には棚が空いた。
「売れています」とリリア。
「欠品しています」と雨宮。
「同じじゃないの?」
「違います」
完売は、用意した数量を売り切った結果。欠品は、欲しい客がいるのに商品を用意できなかった状態だ。
「売り切れたら、店は損しない」とロアン。
「今日だけなら」と宗久。「次もないと思われたら、客が来なくなる」
閉店後、売れなかった物より、買えなかった物を数えた。
肉白根パンを求めた客が十七人。しょうゆ八人。乾麺は十一人。実際には、聞かずに帰った客もいる。
「全部増やしますか」とユノ。
「一度に増やさない」と宗久。
「また、それ?」
「増やせる理由が違うからだ」
しょうゆは日本からの搬入量に限界がある。乾麺も同じ。肉白根パンは、肉、白根、パン、調理人数の四つがそろわなければ増やせない。
雨宮が表を四つに分けた。
店にあるのに出せなかった。
仕入れが足りなかった。
調理が間に合わなかった。
予想以上に売れた。
同じ空棚でも、次にすることは違う。
白根は、調理場へ渡した数と売場へ出した数を別々に記録する。しょうゆは次回十五本を申請する。乾麺は追加搬入だけでなく、現地の麺職人を探す。パンは職人長が一度に焼ける数を先に確認する。
パン職人長は指を三本立てた。
「一度に三十個。朝と昼に一度ずつなら六十個。ただし、一号店だけには渡せない」
「町の客が買う分ですね」
「店へ四十個、工房で二十個。今の窯ならそれが限界だ」
「窯を増やせば?」とロアン。
「誰が焼く」
設備だけでは数は増えない。粉をこね、火を見て、工房の客にも売る人が必要になる。
「肉白根パンを四十個作るなら、普通のパンを店で何個売れる?」
「二十個だ」
宗久は発注数を五十から四十へ直した。惣菜を増やして、元の商品が棚から消えては意味がない。
「三倍にしたい店長の数字じゃないね」とパン職人長。
「三倍にするために、次も焼いてもらえる数にします」
パン職人長は粉のついた指で注文書をつまんだ。
「なら、次も四十個だ」
「店が開く日が増えたのに、売る物が減っていく」とネネ。
「だから発注が必要になる」と宗久。
一日だけの店なら、持っている物を並べて終われた。
次も開く店は、今日売った瞬間に、次の分を考えなければならない。
雨宮が各商品の残数を読み上げる。宗久は次回数量を書き込む。
だが、白根の欄で手が止まった。
「ヴァルドから、次は半分しか出せないそうです」
「なぜ?」
「西側の橋が壊れました。畑から荷車を通せないと」
肉白根パンだけではない。白根は青果売場でも、献立提案でも使っている。
「代わりの商品を探す?」とロアン。
宗久は裏口に置かれた、販売禁止の小芋を見た。
「代わりにするかどうかは、まだ決めない」
小さな芋は、朝より温かくなっていた。
冷暗所に置いた十個だけが、触れないほど熱を持っていた。
雨宮が温度札を当てると、青かった印が赤へ変わった。
「肉より先に、野菜で冷蔵設備を使うことになるかもしれません」
「冷やせばいいとは限らない」
宗久は熱い芋と、冷蔵箱に入れた芋を一つずつ別の皿へ置いた。
片方は湯気を出し、片方は皮が黒ずみ始めていた。
どちらも、売場へは出せなかった。
「売り切れた棚を埋めるために、これを急いで出すのはなしです」と雨宮。
「分かってる」
空棚が目立つ日ほど、売ってよい物と売れない物の線を守る必要があった。




