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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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27/110

燃える倉庫から商品を出す

「水をかけるな! 粉が固まって扉が開かなくなる!」


 セドルが燃える倉庫の前で叫んでいた。


 屋根の隙間から煙が上がり、窓の内側が赤く光っている。周囲の人々は井戸から水桶を運んでいたが、穀物袋が積まれた入口へ近づけない。


「人は中に?」


 宗久が聞く。


「夜番が一人いる!」


 ガルドが扉へ向かった。


「一人で入るな!」


「待てば焼ける」


 ポルカが扉の蝶番を確認し、斧を入れる場所を指した。ガルドが二度振り下ろす。扉が外側へ倒れ、煙が噴き出した。


 宗久は店から持ってきた濡れ布をガルドの口元へ巻いた。自分も入ろうとすると、雨宮に腕をつかまれた。


「店長は外で人数を確認してください」


「でも」


「中へ入って、何ができますか」


 荷物は運べる。だが、煙の中で人を探す訓練はない。


「ガルド、無理なら戻れ!」


 返事の代わりに、倉庫の奥で木箱が倒れる音がした。


 ネネとロアンが入口の両側から水をまき、火が扉へ回るのを防ぐ。リリアは見物人を下がらせ、警備隊と消火隊を呼びに走った。


 間もなく、ガルドが夜番の男を担いで出てきた。男は咳をしているが、意識はある。


「ほかには?」


「いない」


「点呼します」


 雨宮がセドルから従業員名簿を受け取り、夜番本人にも確認した。今夜倉庫へ入ったのは一人だけ。取り残された者はいない。


 消火隊が到着し、砂と水を使い分けて火を抑えた。燃えたのは倉庫の奥半分。小麦袋と乾燥豆、帳簿棚が黒く焦げている。


 火が収まっても、商品をすぐ外へ出すことはできなかった。濡れた梁が落ちる危険がある。消火隊が屋根を支え、入れる場所を縄で分ける。


「手前の袋だけでも運ばせろ」とセドル。


「安全確認が先です」と宗久。


「私の商品だ!」


「だから、さらに怪我人を出さないでください」


 セドルは宗久を押しのけようとしたが、警備隊員に止められた。


 運び出せた穀物も、煤と消火水をかぶっている。見た目が無事な袋まで煙の臭いが染みていた。


「表面だけ取り替えれば売れる」とセドル。


 ヴァルドが袋の口を開き、内側の小麦を手に取った。


「売るな。火口の樹脂が混じった可能性がある」


「全部捨てろと言うのか」


「人に食わせるなと言っている。飼料にできるかは治療師と家畜商へ聞け」


 敵対していた二人だが、ヴァルドはセドルの損失を喜ばなかった。商人として、売ってよい物と悪い物を分けている。


 雨宮は被害袋へ番号をつけた。燃えた、濡れた、煙のみ、外見異常なし。勝手に廃棄せず、セドルと組合が確認できるようにする。


 袋の数は百二十七。運び出すたび、セドルの従業員と組合書記が一緒に数えた。無傷、要検査、廃棄候補の三か所を縄で分ける。


「異邦の店が、うちの在庫を持ち去ったと言われたくありません」と雨宮。


「そんなことは言わん」とセドル。


「記録があれば、あとから誰が言っても確認できます」


 作業が終わる頃、夜番の男の家族が来た。宗久へ何度も礼を言ったが、ガルドは治療所にいる。


「助けたのはガルドです。明日、本人へ言ってください」


 人命救助まで店の手柄にするつもりはなかった。


「なぜ、うちの在庫まで記録する」とセドル。


「火災費用を誰が負担するか決めるためです。被害額を数えなければ、請求もできません」


 怒鳴っていたセドルが、そこで初めて黙った。


 夜番の男が治療所へ運ばれる前に、倉庫へ来た者を聞いた。日暮れ前にモルガが帳簿を取りに来た。その後、セドルも一度立ち寄ったという。


「何をしに?」


「奥で二人が話していた。俺は入口にいたから、内容は聞いていない」


「モルガさんが出た時刻は?」


「セドルさんより先だ」


 セドルは家にいたと言っていた。家族の証言だけでは、倉庫へ寄った事実を消せない。


 宗久はその場で責めず、警備隊長に時刻を記録してもらった。


「帳簿が……」


 セドルが膝をついた。


 明朝、警備隊が調べる予定だった帳簿だ。


「証拠を消すための火か」とロアン。


「まだ決めるな」


 宗久は火元へ近づいた。油の匂いはない。焦げた木と穀物の臭いに混じり、甘い香辛料の香りがした。


「またヴァルドの店か」とセドル。


「私の店では、この香りの油は扱わん」


 ヴァルドが燃え残りを拾った。小さな布片へ、蜜のような樹脂が染みている。


「火口に使う安い樹脂だ。どの雑貨屋にもある」


 犯人はまた、疑わせる匂いだけを残していた。


 警備隊長が倉庫を封鎖する。宗久たちは、消火の手伝い以外で中へ入らないよう命じられた。


「店へ戻ります」と雨宮。「ガルドさんと夜番の方は治療師へ。煙を吸っています」


「平気だ」とガルド。


「咳をしてから言ってください」


 ガルドは咳を一つして、治療所へ連れていかれた。


 翌朝、火元が確認された。


 倉庫奥の帳簿棚。その下に火口が置かれていた。外から投げ入れた形跡はなく、鍵も壊れていない。


「内側から火をつけた者がいる」と警備隊長。


 鍵を持っていたのは、セドル、番頭、夜番の三人。夜番は入口近くで倒れており、火口から離れていた。


「私ではない!」


 セドルが叫ぶ。


「火事の前、どこにいた」


「家だ。家族が証明する」


「番頭は?」


 姿を消していた。


 背の低い女で、名はモルガ。ユノの叔父が見た組合書記と同じ特徴だった。


「組合の書記ではないのか」と宗久。


「審査の日だけ、臨時の記録係として雇った」とバルガス。「セドルの推薦だった」


 セドルは唇をかんだ。


「三年前から、うちの帳簿を任せている」


「印と引換札を使えたのも?」


「番頭なら可能だ」


 セドルの店の勤務表では、モルガは帳簿と支払いの両方を任されていた。引換札の残数確認も彼女の担当で、盗難を隠すことはできる。


「任せすぎた」とセドル。


「信頼していたんですか」と宗久。


「三年、数字を一度も違えなかった」


「数字が合っていても、紙の使い道までは分からない」


 雨宮は勤務表の確認欄を見た。


「一人が記入し、同じ人が残数まで確認する仕組みでした。店でも分けます」


 一号店の帳簿と印章も、扱える人間を一人へ集中させないことにした。


「偽倉庫の古い名義を知ることも?」


「できる」


 モルガがすべて行ったように見える。しかし、番頭が主人に隠れて偽商品を売る理由が分からない。


 焼け残った袋を運び出すと、奥の壁際から日本の乾麺袋が四枚見つかった。糸で縫う前の、底を切った空袋だ。


 さらに、紫色の根を粉にした袋。偽麺へ混ぜた染料と同じだった。


「これでも私を疑うのか」とセドル。


「あなたの倉庫から出た以上、疑いは消えません」と雨宮。「でも、番頭が持ち込める場所でもあります」


 セドルは雨宮をにらんだ。


「昨日、私の倉庫を調べると言った。その夜に火が出た。お前たちが騒がなければ、火もつけられなかった」


「証拠を消そうとした人が悪い」


 リリアが言い返した。


「お前たちが来なければ、偽物もなかった!」


 同じ言葉が、また出た。


 宗久はセドルの前へ立った。


「うちの店が来たことで、起きた問題はあります。だから偽物を回収し、被害を補償する方法も考えます。でも、人が食べれば腹を壊す物を作った理由にはなりません」


「正しい店のつもりか」


「失敗はしています。失敗したら記録して、直します」


「そんな店に、市場を変えられてたまるか」


 セドルは言ってから、口を閉じた。


「市場を変えられたくないのは、モルガさんですか。それとも、あなたですか」


 警備隊長が二人の間へ入った。


「続きは組合の聞き取りで話せ」


 そのとき、燃えた帳簿棚の裏から、小さな金属箱が見つかった。


 中には、モルガ宛てに書かれた指示書が三枚。


 最後の一枚には、セドルの署名があった。


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