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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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20/109

消えた銀貨一枚

「全員、店から出ないでください」


 雨宮の声で、座り込んでいた店員が顔を上げた。


「売上金が、銀貨一枚分足りません」


 ロアンが立ち上がる。


「誰かが取ったってことか」


「まだ決めていません。数え間違い、釣り銭間違い、記録漏れもあります」


 ユノが前掛けのポケットを両手で押さえた。今日、缶詰を盗もうとしたばかりだ。全員の視線が一度だけ少年へ集まった。


「先に身体を調べて」


 ユノが言った。


「調べません」と宗久。


「でも、俺が一番怪しい」


「怪しい順に探すと、間違える。記録の最初から確認する」


 雨宮が会計記録を十件ずつに分けた。宗久が売価を足し、ロアンが現地通貨の換算を確認する。リリアは返品籠と空き缶の数、ネネは試食数、ガルドは入店札を数えた。


 一時間後、計算は同じだった。


 売上記録より、現金が銀貨一枚少ない。


「会計を担当したのは?」


「私と店長です」と雨宮。「途中で釣り銭補充をロアンさんに頼みました」


「俺は箱を運んだだけだ」


「名前は記録されています」


 釣り銭交換を始める時に決めた記録が残っていた。誰が釣り銭箱へ触れたかは分かる。しかし、三人のうち誰かを疑う材料にはならない。


「軽い銅貨十二枚は?」とヴァルド。


 保証人は閉店後も帳簿確認に残っていた。


「売上には入れていません。別袋です」


「客へ多く返した可能性は」


「あります。ただ、一件ずつ会計皿で数えました」


「皿に置いた金を、客が全部取ったとは限らん」


 会計台の下を探す。銅貨が三枚落ちていた。まだ銀貨一枚には遠い。


 ポルカが会計皿を持ち上げた。


「脚が傾いてる」


 石床の継ぎ目に片脚が入り、皿が出口側へわずかに傾いていた。硬貨を置くと、縁へ転がる。


 会計台と壁の隙間を照らす。銅貨が五枚、小銀貨が一枚出てきた。


「残りは銅貨二枚分です」と雨宮。


「これじゃない?」


 リリアが返品籠の下から銅貨を二枚拾った。


 合計は一致した。


 ユノがポケットから手を離した。


「俺じゃなかった」


「最初から、誰とも決めてない」


「みんな、俺を見た」


 誰も否定できなかった。


 宗久は店員を見回した。


「疑われる原因を作ったのはユノだ。でも、記録を調べる前に犯人扱いしたのは俺たちだ。悪かった」


 雨宮も頭を下げた。


「ごめんなさい」


 ロアンは少し迷い、「俺も」と言った。


 ユノは困ったように前掛けを握った。


「謝られたこと、ない」


「慣れなくていい。次は盗むな」


「盗まない」


 会計台の脚へ板を挟み、壁との隙間を塞いだ。落下防止の縁もつける。原因と対策を記録へ残す。


 試験営業の結果は、来店百四十三人。会計百十七件。缶詰、乾麺、植物油は完売。青果は十三点を残し、廃棄はゼロ。売上だけなら黒字だった。


「門の維持費を入れると赤字です」と雨宮。


「試験営業ですから」


「赤字は赤字です」


「次に直せる数字も出た」


 客を十人ずつ入れる。缶詰には缶切りが必要。乾麺は購入制限を先に書く。釣り銭は予測より多く用意する。現地魚の冷蔵販売には可能性がある。


 ヴァルドは帳簿を閉じた。


「合格だと思っている顔だな」


「少なくとも、次をやる理由はあります」


「決めるのは組合だ」


「明日、報告します」


 ヴァルドは帰りかけ、契約書を保管した木箱の前で止まった。


「この封印、誰が替えた」


「触っていません」


 保証契約には緑の紐を通し、結び目へ宗久とヴァルドの印を重ねていた。今も紐は緑だが、結び目の位置が逆になっている。


 魔力灯へ透かす。文字は書き換えられていない。


 代わりに、紙の間から細い伝票が落ちた。


 今日、乾麺を十袋買った男の会計控えだった。


 裏には、赤みのある黒いインクで一文だけ書かれている。


『次は、店の外で失敗してもらう』


 ヴァルドが三つの赤い指輪を握った。


「私のインクを使って、私まで脅す気か」


 契約書を改ざんした者は、今日の客の中にいた。


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