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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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16/110

百人を十人ずつ入れる

「走らないでください!」


 宗久の声は、開いた扉の前で押し合う百人に飲み込まれた。


 先頭の客が入れば、後ろも進む。買い物籠を取る場所で人が止まり、入口は三人分もない幅に六人が並んだ。


「扉を閉めます!」


 雨宮が叫んだ。


「まだ客が挟まってる!」


 ガルドが左右の腕で人を押し戻す。その間に宗久は、店内へ入った客だけを青い線の先へ誘導した。


「籠は一人一つ! 家族は一つで大丈夫です!」


 リリアは入口担当の札を胸へ下げ、客より大きな声を出した。昨日までの練習がなければ、何を言えばよいかも分からなかっただろう。


 どうにか扉を閉める。


 店内には四十人近くいた。用意した買い物籠は三十個。籠を持てなかった客が、商品を両腕へ抱え始めている。


「予定の入店人数は?」と雨宮。


「一度に二十人です」


「倍います」


「見れば分かります」


 平台では、白根を選ぶ客と火蜜の実へ手を伸ばす客がぶつかった。床へ実が一つ落ち、赤い汁が飛ぶ。


「踏まないで!」


 ネネが実を拾い、ポルカが床を拭く。黄色い出口線の上には、会計を待つ客と買い物中の客が混ざっていた。


 会計台から雨宮の声が飛ぶ。


「店長、銀貨一枚。白根二本、葉野菜一束です」


「合計銅貨九枚。釣り銭十一枚」


 二人で読み合わせている間にも、列が伸びる。


「遅いぞ!」


 後ろの男が怒鳴った。


「金を間違えるよりはいい。順番にやります」


 宗久が答えると、別の客が入口の扉をたたいた。外の声まで大きくなる。


「このままじゃ事故になります」


「十人ずつ入れよう」


「外の順番はどうします?」


 整理券を作る時間はない。宗久は日本から届いた値札用の厚紙を百枚つかみ、ポルカへ渡した。


「一から番号を彫れますか」


「百までなら、昼になる」


「十枚でいいです。一から十まで。十人が入ったら回収して、次の十人に渡す」


 木札ができるまで、リリアの髪紐を十本に切った。以前の契約書で使ったものとは別の青い紐だ。


 ガルドが外へ出て、十人へ一本ずつ渡す。


「紐を持ってる人だけ、入ってください!」


「その紐はいくらだ」と客。


「無料です。店を出るときに返してください」


「もらえないのか」


「返してください!」


 最初の十人が入る。出た人数と同じだけ、次を入れる。入口の押し合いは収まった。


 ただし、外の列は納得しない。


「いつ入れる!」


「魚の試食がなくなる!」


 宗久は店の前へ出た。


「魚の試食は百人分あります。並んでいる方の分は残します。順番は変えません」


「証拠は?」


「番号を渡します」


 今度は厚紙へ、十一から順に雨宮が数字を書いた。リリアが客へ配り、ロアンが番号を読み上げる。文字の読めない客には、同じ数の丸も描いた。


「七十六番は、丸を七十六個描くのか?」


 ロアンが聞く。


「途中で紙がなくなるな」


 十の位は太い線、端数は丸に変えた。七十六なら線が七本、丸が六個。現地の数え方にも近く、客はすぐ理解した。


 店内では別の問題が起きていた。


「これ、同じ値段?」


 客が、真っすぐな白根と二股の白根を持ってきた。


「形の悪い方は銅貨二枚。真っすぐな方は三枚です」


「味は?」


「同じです」


「なら、二枚のをくれ」


 規格外の籠へ人が集まる。十本しかない二股の白根は、開店から二十分で売り切れた。


「安い方、もうないの?」


「本日は終わりです」


「隠してるだろ」


 籠の下までのぞく客がいる。ロアンが空の籠を持ち上げた。


「本当にない。明日もない。次にグレンが持ってくるまで待ってくれ」


「次はいつだ」


 宗久は答えられなかった。試験営業は今日一日。次の営業許可は、結果を組合へ報告してから決まる。


「次の営業日が決まったら、入口へ書きます」


「読めない者は?」


「鐘のあと、リリアが市場で知らせます」


「私?」


「入口担当だろ」


 リリアは一瞬驚き、それから胸の札を押さえた。


「知らせる」


 入店を十人ずつに変えて一時間。店内の客は二十人前後で落ち着いた。会計の列も、売場の端を越えなくなった。


 雨宮が来店数の札を裏返す。


「五十人です」


「まだ半分か」


「開店から一時間です。予定では一日百人でした」


 売場を見る。


 白根は半分。葉野菜も三分の一が売れた。日本商品の棚だけは、一本も減っていない。


「魚の缶、触る人は多い」とロアン。「でも値段を見ると戻す」


 缶詰一個は、現地の生魚三尾分。珍しいだけで買える値段ではなかった。


「試食の魚はどうだ?」


「残り五十」とネネ。


「食べた人に、缶詰も見せよう」


 宗久は魚の缶を一つ持ち、試食台へ置いた。


「こちらは日本で調理した魚です。開ければそのまま食べられます」


 試食を食べた老人が缶を振った。


「開けてみろ」


「これは商品なので、買っていただければ」


「中を見ずに、この値段は払えん」


 確かにその通りだった。


 宗久は展示用の一個を開けることにした。缶の蓋へ指をかけて、止まる。


 プルトップがない。


「缶切り、どこです?」


 雨宮が日本商品の箱を調べる。


「入っていません」


 二十四個の缶詰を運びながら、缶切りは一本も持ってきていなかった。


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