二号店より先に直す店
北門の宿から注文を受けた翌日、一号店の乾麺が足りなくなった。
「十二袋は別にしておいたはずです」と雨宮。
「別にしたから、売場が減りました」とトト。
宿へ卸す分を確保すれば、いつもの客が買えない。仕入れを増やせば、宿で売れなかった時に一号店へ余る。
「二号店を作らなくても、同じ問題は来る」とロアン。
宗久は北門の調査報告を閉じた。外を見る前に、店の中で直すことがあった。
宿の注文は週一回、門の便と同じ日に確定する。初回は十二袋ではなく六袋。残り六袋は一号店の棚へ戻した。
「注文を半分にするのか」と宿の主人。
「一号店の客の分をなくせません」
「約束した数を変える店とは取引できん」
主人は受取札を机へ置いた。
宗久は謝った。小さく始めるつもりで、相手の注文だけを小さくすればいいと思っていた。宿にも、その数を前提にした献立がある。
「十二袋渡します。次回から、注文を受ける前に上限を示します」
「今回だけ譲った顔をするな。間違えたから戻したんだろ」
「はい」
乾麺十二袋は約束どおり渡した。一号店の棚には、残り三袋しかない。
昼、一号店へ乾麺を買いに来た女性が、空きの多い棚を見た。
「北門の店へ持っていったの?」
「店ではありません。宿へ卸しました」
「私たちの分を?」
会社が異世界の商品を日本へ持ち帰る時にも、同じ言葉を向けられるかもしれない。
宗久は三袋を一人一袋までにした。女性は二袋必要だったが、一袋だけ買った。
「家族が多い人ほど困る」とリリア。
「今日は、全員に残す方を選びます」と雨宮。
「店が約束を間違えたのに、客が我慢するんだね」
誰も言い返せなかった。
午後、乾麺の代わりに案内したのは、薄切り芋、丸パン、白根菜だった。似た商品としてではない。今夜すぐ食べるのか、保存したいのか、火を使えるのかを一人ずつ聞いた。
二袋欲しかった女性は、乾麺一袋と薄切り芋を買った。
「同じじゃない。でも今夜は足りる」
代替品で解決したとは帳面に書かなかった。買う予定を変えてもらった、と書いた。
閉店後、雨宮が本社向けと町向けの在庫を一枚の紙へ並べた。
日本へ送る品。
北門の宿へ卸す品。
一号店で毎日売る品。
どれかを増やせば、別の誰かの棚が減る。
「一号店が仕入れ拠点になるなら、この表が要ります」と雨宮。
「売れた数だけでは足りません」
「売らずに残す数も決めます」
宗久は、乾麺だけでなく、塩、布巾、白乳、青灯果の欄を作った。日本向けに候補となる品には、町で不足させない最低数を先に書く。
久瀬は完成した表を読み、本社から届いた二号店図面を畳んだ。
「建物の申請は止める」
「中止ですか」とトト。
「順番を変える。宿との取引と、一号店の在庫を三十日見る。その後だ」
二号店が遠のいたことを、宗久は失敗だと思わなかった。
その夜、本社の榊から短い連絡が届いた。
『日本向け仕入れ候補を三品に絞れ。門の維持契約を更新する条件になった』
会社が急いでいた理由は、利益だけではなかった。
一号店を続けるための門に、期限がついていた。




