門を残す三品
『日本向け仕入れ候補を三品に絞れ』
榊から届いた紙を、雨宮が売場の机へ置いた。
「期限が書かれていません」
「書かなければ、こちらが急ぐと思っている」と久瀬。
通信機で問い返すと、返事はすぐに来た。
『次の契約審査まで六十日。三品の試験取引を一度以上行うこと』
候補を決めるだけでは足りない。日本へ送り、売買の記録を残す必要がある。
「門を使わないと、門がなくなるの?」とリリア。
「会社が維持費を払わなくなれば、定期便は止まります」
乾麺も、しょうゆも、缶詰も届かない。日本商品だけではない。帰り便へ載せている報告書や試作品も送れなくなる。
話を聞いていた客が、乾麺を三袋抱えた。
「門が閉じるなら、今のうちに買う」
まだ閉じると決まっていない。ベラが説明しても、後ろの客まで乾麺棚へ向かった。
「期限の話を店でしない方がよかった」とシャルナ。
「隠して、あとで届かなくなる方が怒られます」と雨宮。
宗久は一人一袋の札を出しかけ、手を止めた。在庫は今日の通常販売分を確保してある。恐れて買う客と、普段から三袋買う客を札だけでは分けられない。
入口で門の状況を説明し、次の便までは在庫があると伝えた。三袋を持った客は二袋を棚へ戻した。
「閉じるかもしれない、って言われたら怖いよ」
その一言は、候補を急げという本社の紙より重かった。
宗久は従業員へ紙を見せた。
「日本へ売れそうな物を挙げてください。ただし、一号店で足りなくなる物は除きます」
最初に手が挙がったのは布巾だった。
丈夫で、色糸によって作り手を記録できる。以前、日本へ三十枚送った実績もある。
「三十枚売れたなら、次は百枚だ」と久瀬。
「町向けを減らさず作れるか、エナに聞いてからです」と宗久。
次に青灯果。暗い場所で淡く光る果実は、日本で見栄えがする。
「食べて三人倒れた果物だぞ」とロアン。
「原因は果実だと決まっていない」とオルナ。
「日本へ送った先で倒れたら、誰が説明する」
オルナの手が机をたたいた。
「いつまで、あの一日で売り物じゃないと言われる」
宗久は候補札を外さなかった。安全を確認できないから除くのと、過去の噂だけで除くのは違う。
三つ目には火蜜の実が挙がった。焼けば蜜のような香りが出る。だが、畑で戻った実は一個だけ。店でもまだ売っていない。
「一個を日本へ送れば、姉妹の畑には何も残りません」と雨宮。
「珍しい物ほど価値がある」と久瀬。
「珍しいのではなく、足りないんです」
候補札は三枚そろった。
布巾。青灯果。火蜜の実。
だが、すぐ送れる物は一つもなかった。
「ほかにないの?」とトト。
缶切り、雨蓋、木椀は現地で作れる。けれど日本にも似た物がある。冷え石は便利だが、川へ捨てられた時の影響をまだ調べている。
クウが候補札の上へ乗り、火蜜の実の絵をくちばしでつついた。
「食べるなよ」とポルカ。
クウは実ではなく、絵札から漏れていた温かい風を吸った。札の火の絵が一瞬だけ青く光る。
久瀬が身を乗り出した。
「その鳥は候補にならないのか」
ポルカがクウを抱き上げた。
「商品じゃない」
普段は久瀬に言い返さないポルカの声が、店内に残った。
宗久は三枚の候補札の下へ、最初の条件を書いた。
『生き物そのものを売らない』
門を残すためでも、売ってはいけない物があった。




