↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
107/111

一晩分だけ欲しい

隊商宿の大箱へ、旅人たちが絵札を投げ入れた。


 乾麺。干し肉。塩。白根菜。石けん。火口布。雨蓋。


 肉や魚を選ぶ者は少ない。冷やしたまま運べないからだ。


「やはり乾物を増やすべきだ」と久瀬。


「数だけなら、そう見えます」と雨宮。


 絵札を入れた旅人へ、どれくらい欲しいかを聞いた。


 乾麺は一袋では多い。塩も一包みはいらない。石けんは旅の途中で使い切れず、荷物になる。


「一晩分でいい」


 同じ言葉が何度も出た。


「小さく分けて売ればいい」とトト。


 宿の主人が首を振る。


「塩も乾麺も、開けたら誰が量を保証する。俺が少なく入れたと思われる」


 一号店でも、密封された日本商品を勝手に小分けにはできない。現地の乾物も、量り直すなら新しい契約と包みが要る。


 宗久は、一晩分の見本籠を作った。乾麺、干し肉、塩、火口布を一つずつ。ただし、まとめた価格にはしない。


「これで買うか」と尋ねると、若い旅人は干し肉だけを外した。


「宿の煮込みに肉が入る」


 別の男は火口布を外す。


「同じ隊のやつが持っている」


 一晩分は、全員同じ一組ではなかった。


 試しに塩を小さな紙へ包み、元の一包みと並べた。量は四分の一。ところが価格は四分の一にはならない。紙と量り直す手間が増えるからだ。


「少ないのに高い」と若い旅人。


「一包み買う方が、重さ当たりは安いです」と雨宮。


「使わない塩を背負って歩く方が高くつく」


 旅人は高いと文句を言いながら、小さい方を選んだ。安さだけでは決まらない買物を、値札だけで説明しようとしていた。


 宿の主人は小包みを手に取った。


「これを宿で出したら、俺が上乗せしたと思われる」


 小さくするなら、量だけでなく、一号店で包んだ印と日付も必要になる。新商品を一つ増やすより、仕事は多かった。


 そこへ、十人組の隊商長が来た。


「全部、十人分くれ」


 小さい量を求めるという予想が、今度は逆になった。


「十組ですか」


「違う。一袋を十人で分ける。小さく包まれたら高くなる」


 一人旅には少量が必要で、集団には大袋が安い。同じ旅人売場でも、必要な大きさは反対だった。


 ロアンが笑った。


「本社の表なら、平均を取って真ん中の袋を作るな」


「一番売れない大きさになるかもしれません」と宗久。


 宿の主人は、乾麺を一人分ずつ宿で調理して売る案を出した。商品を小分けするのではなく、食事に変える。


「店が乾麺を卸して、宿が煮る。それなら量の責任は俺が持つ」


「一号店が宿の食事まで取ると思っていたんじゃないんですか」と雨宮。


「今も思ってる。だから鍋は俺が持つ」


 競争相手のまま、取引相手になる。


 若い旅人は、さきほどの小さな塩包みを宗久へ返した。


「今日は買えないのか」


「試験用なので売れません」


「欲しい大きさを見せて、持って帰れないのか」


 調査する側には見本でも、旅人には今夜必要な商品だった。宗久は代わりに宿の主人へ塩を量ってもらい、一号店が代金を払った。客へ無料では渡さない。旅人は宿から正式に買った。


 最初の一包みを売ったのは、一号店ではなかった。


 宗久は一号店の小売価格をそのまま卸値にはしなかった。毎週の数、支払日、売れ残りを宿が負担することを決めてから価格を出す。


「今日、持って帰れないのか」と主人。


「今日は調査です」


「商売が遅い」


「昨日は帰れと言われました」


 主人は初めて笑った。


 二日目に決まったのは、小さな旅人用商品ではなかった。


 一号店の商品を、宿の一皿へつなぐ取引だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。