三日間、店を作らない
北門の外へ持っていったのは、商品ではなく空の籠だった。
大、中、小。三つの籠と、四十一品の絵札。それから雨蓋の見本が一枚。
「店を出す調査なのに、何も売らないのか」
隊商宿の主人は、宗久たちの荷車を見てあきれた。
「先に、何が必要か見せてもらいます」
「必要な物なら宿で売っている」
入口脇には乾いたパン、干し肉、塩、馬用の豆が積んである。一号店の商品と重なる物も多い。
「客を取るなら帰れ」
宿の主人は、絵札を置くことさえ断った。
ロアンが声を荒らげる。
「売らないと言ってるだろ」
「店を作る場所を測りに来た連中を、歓迎する商人がいるか」
宗久は籠を荷車へ戻した。調査を強行すれば、店を建てる前から市場の時と同じ対立を作る。
「帰るんですか」と雨宮。
「宿の中では調べません」
北門の検問所へ移り、通る者の荷物だけを数えた。
大きな荷箱を積んだ隊商。腰袋だけの旅人。空の籠を下げた近隣の住民。昼までに五十二人が通ったが、一号店のような買物籠を持つ者は七人しかいない。
「店、いらない?」とリリア。
「籠がないだけかもしれません」と雨宮。
聞き取りを始めると、意外な答えが返った。
「籠は宿で借りる」
「仲間の荷箱へ一緒に入れる」
「買うのは町を出る直前だ」
一人一つの籠ではなかった。十人分を一つの箱へ入れ、途中の宿ごとに分ける。
宗久が四十一品の絵札を見せると、隊商の女が乾麺、塩、石けん、包み紙を選んだ。すべて一号店にある。
「なら、店があれば買いますか」
「町の中にあるんだろ。荷車で寄れる道を教えてくれ」
欲しいのは二号店ではなく、一号店までの道だった。
だが、同じ答えではない者もいた。幼い娘を荷台へ乗せた女性は、石けんの札を見たまま首を振った。
「道が分かっても行けない。荷を見てくれる人がいない」
荷車には売り物の陶器が積まれている。細い橋の手前へ置いていくことも、子どもだけ残すこともできない。
「宿で買えるようにすれば?」とリリア。
「宿は旅人の食べ物を売る所だ」と主人。
「手を洗うのは旅人も同じ」
主人は答えず、石けんの札を裏返した。拒んだのかと思ったが、裏へ仕入れ値を書く場所を空けただけだった。
道を直すより先に、商品が客の通る場所へ動く方法もあった。
北門から一号店へ向かう道には、荷車が曲がれない細い橋がある。人なら近いが、隊商は市場を大回りしなければならない。
「立地が悪いと言われるぞ」と久瀬。
「悪いです。隊商にとっては」
宗久は否定しなかった。
夕方、宿の主人が検問所へ来た。
「客に町の店を聞いて回ったそうだな」
「宿の商品を悪く言ってはいません」
「当たり前だ」
主人は不機嫌なまま、宿で貸している大箱を地面へ置いた。
「その絵札を、この箱に並べてみろ。一号店まで行かせて、戻りが遅れたら夕食の支度が困る」
敵だと思っていた相手から、調査用の一番大きな籠が差し出された。
女性は帰り際、娘の手を一号店の試供用石けんで洗った。買物にはならなかった。それでも娘は泡を見て笑い、母親は宿の主人へ値段を尋ねた。
初日に分かったのは、売れる商品ではない。
客が店まで来られない理由だった。




