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異世界スーパーマーケット一号店、本日開店します!  作者: 黒咲かぐら


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106/110

三日間、店を作らない

 北門の外へ持っていったのは、商品ではなく空の籠だった。


 大、中、小。三つの籠と、四十一品の絵札。それから雨蓋の見本が一枚。


「店を出す調査なのに、何も売らないのか」


 隊商宿の主人は、宗久たちの荷車を見てあきれた。


「先に、何が必要か見せてもらいます」


「必要な物なら宿で売っている」


 入口脇には乾いたパン、干し肉、塩、馬用の豆が積んである。一号店の商品と重なる物も多い。


「客を取るなら帰れ」


 宿の主人は、絵札を置くことさえ断った。


 ロアンが声を荒らげる。


「売らないと言ってるだろ」


「店を作る場所を測りに来た連中を、歓迎する商人がいるか」


 宗久は籠を荷車へ戻した。調査を強行すれば、店を建てる前から市場の時と同じ対立を作る。


「帰るんですか」と雨宮。


「宿の中では調べません」


 北門の検問所へ移り、通る者の荷物だけを数えた。


 大きな荷箱を積んだ隊商。腰袋だけの旅人。空の籠を下げた近隣の住民。昼までに五十二人が通ったが、一号店のような買物籠を持つ者は七人しかいない。


「店、いらない?」とリリア。


「籠がないだけかもしれません」と雨宮。


 聞き取りを始めると、意外な答えが返った。


「籠は宿で借りる」


「仲間の荷箱へ一緒に入れる」


「買うのは町を出る直前だ」


 一人一つの籠ではなかった。十人分を一つの箱へ入れ、途中の宿ごとに分ける。


 宗久が四十一品の絵札を見せると、隊商の女が乾麺、塩、石けん、包み紙を選んだ。すべて一号店にある。


「なら、店があれば買いますか」


「町の中にあるんだろ。荷車で寄れる道を教えてくれ」


 欲しいのは二号店ではなく、一号店までの道だった。


 だが、同じ答えではない者もいた。幼い娘を荷台へ乗せた女性は、石けんの札を見たまま首を振った。


「道が分かっても行けない。荷を見てくれる人がいない」


 荷車には売り物の陶器が積まれている。細い橋の手前へ置いていくことも、子どもだけ残すこともできない。


「宿で買えるようにすれば?」とリリア。


「宿は旅人の食べ物を売る所だ」と主人。


「手を洗うのは旅人も同じ」


 主人は答えず、石けんの札を裏返した。拒んだのかと思ったが、裏へ仕入れ値を書く場所を空けただけだった。


 道を直すより先に、商品が客の通る場所へ動く方法もあった。


 北門から一号店へ向かう道には、荷車が曲がれない細い橋がある。人なら近いが、隊商は市場を大回りしなければならない。


「立地が悪いと言われるぞ」と久瀬。


「悪いです。隊商にとっては」


 宗久は否定しなかった。


 夕方、宿の主人が検問所へ来た。


「客に町の店を聞いて回ったそうだな」


「宿の商品を悪く言ってはいません」


「当たり前だ」


 主人は不機嫌なまま、宿で貸している大箱を地面へ置いた。


「その絵札を、この箱に並べてみろ。一号店まで行かせて、戻りが遅れたら夕食の支度が困る」


 敵だと思っていた相手から、調査用の一番大きな籠が差し出された。


 女性は帰り際、娘の手を一号店の試供用石けんで洗った。買物にはならなかった。それでも娘は泡を見て笑い、母親は宿の主人へ値段を尋ねた。


 初日に分かったのは、売れる商品ではない。


 客が店まで来られない理由だった。


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