一号店をそのまま作るな
本社から届いた二号店の図面には、雨蓋の棚が描き足されていた。
丸パンと白乳の札もある。昨日送った報告が、もう売場へ組み込まれている。
「反映が早いですね」と雨宮。
「早すぎる」と宗久。
図面の惣菜窓は一号店と同じ幅。冷蔵棚も同じ台数。入口には王冠の野菜まで描かれていた。
「看板も同じなの?」とリリア。
「本社は、一号店の形に意味があると思っている」
久瀬は図面を隠さなかった。
「百回分の記録がある。同じ物を作れば、最初の失敗を減らせる」
「同じ町なら」とロアン。
「候補地は北門の外だ。商人も客も違う」
北門の外には隊商宿がある。朝より夜に人が集まり、魚は少なく、乾物と馬具が売れる。今の一号店とは暮らしの時間が違う。
「なら、この図面は使えません」と宗久。
「使えない、で終わらせるな」
久瀬の声が低くなった。
「会社は善意で門を開けているわけじゃない。次を作れる形にするため、一号店へ金を出した」
店内にいた従業員が、一斉に図面を見た。
分かっていた話だった。だが、暮らしを支える店という言葉の後で聞くと、別の意味になる。
「一号店は見本ですか」と雨宮。
「見本にならなければ、会社では続けられない」
「町の人も、試験材料ですか」
久瀬はすぐには答えなかった。
宗久は二人の間へ図面を置いた。
「この店で使えた物と、どこでも使える仕組みを分けます」
王冠野菜の看板は、この町で誤解を解くために作った。どの町にも必要な物ではない。
冷蔵棚の色札は、文字を読めない客にも温度を伝えられる。町が変わっても使える可能性がある。
白乳とパンの組み合わせは、商品ではなく食べ方の提案だ。現地の商品が違えば、絵も変えなければならない。
シャルナが帳面を二つの欄に分けた。
『一号店だけの物』
『別の町でも試せる物』
ところが、従業員の意見は割れた。
「返品札はどこでも要る」とベラ。
「返品できる店ばかりじゃない」とヴァルド。
「二人で調理する決まりは残す」とネネ。
「二人雇えない店なら惣菜をやめるのか」とロアン。
「一人で鍋を見ながら売場へ出るよりはいい」
一号店で正しくなったことが、別の町でも正しいとは限らない。
宗久は図面へ線を引かなかった。代わりに、北門の外で三日間、客の籠だけを見ると書いた。何を買ったかではない。何軒回り、何を持ち帰れなかったかを見る。
「出店調査に三日?」と久瀬。
「店を作る調査ではありません。店が必要か確かめる調査です」
「必要ないという結果も出すのか」
「出します」
久瀬はしばらく宗久を見ていた。
「それを本社へ出せ。二号店の図面より先に」
許可でも、不許可でもなかった。
閉店後、雨宮が二つに分けた帳面を宗久へ渡した。
「一号店だけの物に、私たちは入りますか」
「人は写せません」
「答えになっていません」
雨宮はそう言いながら、宗久の隣へ椅子を置いた。
二号店を作るための最初の仕事は、図面を完成させることではなかった。
一号店の何を、持っていかないか決めることだった。




