籠にかける雨蓋
「丸い籠と四角い籠、両方へつけろと言うのか」
エナは、店に集めた六つの籠を見て顔をしかめた。
大きさも、持ち手の位置も違う。昨日の薄い袋を見本にしても、同じ形へ作れば半分の籠には合わない。
「一種類で全部に合わせなくて構いません」と宗久。
「店の商品なら、誰でも使える方がいいんじゃないの」
リリアの疑問に、エナがうなずいた。
「買って帰ってから合わないと言われるのは、俺だ」
布工房は作る。だが返品を受けるのは一号店。責任の置き場所が別れていた。
ポルカが、布の四隅へ革紐をつけた。籠の縁へ結べば、大きさが違っても使える。
最初の試作品を水に濡らす。
布は水を弾いた。ところが革紐が水を吸い、結び目から籠の中へ雫が落ちた。下に置いた塩包みへ、丸い染みが広がる。
「布は成功だ」と職人。
「中の商品は失敗です」と雨宮。
「俺の布のせいじゃない」
「でも、お客さんは布と紐を別々には買いません」
エナの顔が固くなった。ポルカも、自分のつけた紐を外そうとしない。
「革を選んだのは俺だ」
「誰の失敗かを決める前に、塩を守ってください」と宗久。
二人は黙ったまま、別の留め方を試した。
木の留め具は、厚い籠には挟まらない。布紐は乾きやすいが、風にほどけた。縁へかける重りは、歩くたびに揺れて果物へ当たった。
昼になっても答えが出ない。
「本社の袋を二重にすれば早い」と久瀬。
いつから見ていたのか、入口に立っていた。
「一枚で破れるなら二枚。現場でよくある対処だ」
「二倍使えば、五十人分になります」とシャルナ。
「今日は困らない」
「明日の分が減ります」
久瀬は反論せず、濡れた塩包みを手に取った。
「では、今日の客には何を渡す」
試作品が完成するまで待ってもらう、とは言えなかった。
そこへ昨日袋を破った客が、自分の籠を持ってきた。魚用の籠には、もともと木の蓋がついている。
「布は横へ垂らせばいい。上はこれで押さえる」
布を籠より大きくし、中央に持ち手を通す穴だけ開ける。木蓋で布を挟めば、紐はいらない。
「蓋のない籠は?」とポルカ。
「店で板を貸す」と客。
商品を一つで完成させようとしていた店へ、客が店の道具を組み合わせた。
雨蓋は二種類にした。木蓋のある籠用は布だけ。ない籠用は、軽い押さえ板と一緒に貸し出す。買う前に、自分の籠へ合わせられる見本も置く。
エナは濡れた塩の代金を払うと言った。ポルカも半分持つと言う。
「試験に使った塩です。店が負担します」と宗久。
「それでは、俺たちは失敗しても痛くない」と職人。
結局、代金ではなく、改良品を一枚ずつ無償で納めてもらうことにした。失敗を罰金にせず、次の品へ返してもらう。
夕方、雨は降らなかった。
雨蓋を買いに来た客は三人。誰も今日使えない物を、それでも自分の籠へ合わせて選んだ。
四十二番目の商品は袋ではなかった。
籠の中身を守る、一枚の蓋だった。




