届いてしまった百枚
本社へ送付保留と伝えた薄い袋が、翌朝、百枚届いた。
「返事より荷物の方が早かったんですね」
雨宮は笑わなかった。
門を開く便は週に一度しかない。本社は返事を待てば次の便になると判断し、先に積んだらしい。箱には『雨天対策・無償配布用』と書かれていた。
「ただで配れば、昨日の客は喜ぶ」とトト。
「百人目からは?」とシャルナ。
百一人目には渡せない。町で作る雨袋の試験も、まだ終わっていない。
宗久が箱を倉庫へ運ばせようとした時、デレスが魚箱を抱えて入ってきた。外では、屋根を打つ音が急に強くなっている。
「川上で降った。昼までこの雨だ」
鮮魚を買った客が、軒下から動けなくなった。紙包みでは家まで持たない。昨日使った木板も、風にあおられて役に立たない。
「袋、使わないの?」とリリア。
「使えば、本社のやり方を認めたことになります」と雨宮。
「使わなければ魚が濡れる」とデレス。
正しい方を選ぶ時間はなかった。
宗久は箱を開けた。ただし、入口には置かない。魚、包み紙、塩のように濡れると困る商品だけを、会計後に一枚へ入れた。
「無料です。ただし今日だけです」
最初の客は礼を言った。二人目の男は、空の袋も三枚よこせと言った。
「一会計に一枚です」
「ただなんだろ」
「商品を濡らさず渡すための一枚です」
男は魚を戻し、袋だけ欲しかったと吐き捨てた。売上を逃したのは店の方だった。
その直後、幼い子を連れた女性が、白乳とパンと石けんを籠へ入れた。袋へ全部入れようとするベラを、女性が止める。
「石けんは別にして」
一枚だけという規則では、食品と生活用品を分けられない。
雨宮が二枚目を出した。
「一会計一枚では?」
「店が分けて売っている物を、帰りに一緒へ入れさせる規則はおかしいです」
自分で決めた言葉を、自分で破った。
宗久は札を書き直した。
『必要な数だけ店員が分けます。袋だけは渡しません』
昼までに二十三枚を使った。ところが戻ってきた客が、濡れた袋を会計台へ置いた。
「魚の骨が刺さった」
薄い袋の底から水が落ちていた。雨ではなく、魚箱の氷水だった。
本社の袋は雨を防げても、この町の売り方には耐えなかった。
デレスは魚を葉で二重に包み、その上から袋へ入れた。今度は破れない。
「袋が弱いんじゃない」とリリア。
「魚に骨があることを、本社が知らないんです」と宗久。
日本ではトレーや厚い包装が先に商品を守っている。袋だけを持ち込んでも、同じ使い方にはならない。
残り七十七枚は、用途を決めるまで配らない。使った二十三枚は試験費として店が負担する。本社には、便利だったことも、破れたことも書いた。
閉店前、エナが破れた袋を指で伸ばした。
「これを袋の内側じゃなく、籠の上へかぶせたらどうだ」
持つ物を薄くするのではなく、持っている籠へ雨蓋を足す。
本社から届いてしまった失敗が、町で作る次の形を見せた。




