過去、から、前編
私はまたあの観光案内所に来ていた。
「ん、何か音しませんか?」
案内所内、関係者専用扉の方から、ガシャガシャと音がする。
「あぁ、うち兎が居るんです。ご飯の時間が近いな…見てみます?」
「可愛いぃぃ!」
「めちゃくちゃ触り心地の良い兎の一種、オスで去勢手術済み!」
「最後の絶対要りませんでした。」
ここでは、白色に黒のまだら模様が特徴の兎を飼っているらしい。初めて会った気がしないのは気のせいか。
「へぇぇ、良いなぁ兎、ここら辺って動物販売所ってありましたっけ?」
「いや買ったわけではなく、名前は『モー』で、昔から居るみたいなんですよね。数十年、下手したら何数百年ほど。」
え、うん?
「まぁ、今更じゃないですか。魔法があるなら長寿の兎もいます。」
お、え、そうか…。
「ちなみに数十年以上前から去勢済み!」
どうでも良い情報で私の思考を埋めるな。
「また来ますから!モーちゃんもまた見せくださいね!」
はい、また。そう言って自分は手を振る。本当に良く来る。友達いないのか?
自分はあの人と交流を重ねている。初対面の人とは話しやすい自分の性格からしたら、上手く会話出来ている方だろうか。どこかであの人を友達のように見ていたのかもしれない。少し安心出来るような、不安に感じるような。
友達はちゃんといるっちゅーに。まぁ今日はモーちゃんに会えたし、良い1日になった。
帰り道、微かな風が流れていった。初めて観光案内所へ行った時からあまり経ってないけど、大分前の事のように感じる。すれ違う人、過ぎ去る日々、掠める玄能よりも強い記憶。その日から私の常識は変わっていくのだと。…玄能?何で玄能?というか、何で従業員さんの考えが分かるんだ?
「それは、可笑しい過去を見ているからです。そろそろ目を覚ます時間ですよ。」
「はっ、あれ、ついて来てたんですか?」
ストーカーか?
「不安だったんで、来て正解でした。あなたの過去垂れ流しでしたよ。」
え、垂れ流し…今までのフルオープンだったのか。
「それって、今日…の昼からのですか?」
「そうですね。多分来るの遅かったら、より過去の出来事から始まる事になって、目覚めが数年遅れるところでした。」
本当に危なかったのか。垂れ流しにするのは過去の出来事?眠らせる必要もある…。
「そこのヤツ、すれ違ったと思ったヤツは、人の過去の出来事を多少改変し、引き出して鑑賞する事でヤツの糧にする…いわゆる『過去吸』ってヤツですね。」
「邪魔ガ入ッタガ、アナタノ人生劇場モ巡ッテミヨウカ。」




