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第5話 KANO⑤ ジジイと留年生

 ロリスとアナスタシアが引き起こした決闘騒ぎはその日のうちに何とか収束し、その時は燦々と照っていた太陽も今となってはその身を傾け地平線の彼方へと沈もうとしている。


 あたりが暗くなる中、その顔に夕暮れなど眩しいと思えるほどの闇を携えたロリスは職員室の奥にある尋問室にいた。


「よう、ロリス。久しぶりだな」


 立て付けが悪い入り口の扉をきぃと開けて入って来たのはデータス教授だった。


「久しぶりだな、ジジイ。で? 何だよ、お説教でもしに来たのか? 」


 この由緒正しき学び舎の中でも相当古株であるデータス教授に向かってジジイ呼ばわりなんて他の教師が聞いたら殴りかかってくるレベルの失礼だが、当の本人は全く気にしてない様子で続ける。


「いきなり不躾な質問だな。わしとお前の仲だろ。説教なんてしに来たんじゃない。ただ、お前の真意を探りに来たんだよ」


 そう言ってよわい七十歳とは思えない射殺すような鋭い眼差しでロリスの目の奥を覗き込む。


「わしがお前に問いたいのは一つ。ロリス、なんでお前は第8研究室に入りたいと言う者を拒むんだ? 」


「はあ? 何言ってんだジジイ。もういい加減長い付き合いなんだから分かってんだろ? ただただ単純にめんどくさいからだよ。それ以上でも以下でもねえよ」


 とロリスは溜息混じりに返す。


「ほう、めんどくさいか。今年でお前が第8研究室の室長を務めるのは六年目だが、なんだかんだで今までの仲間達とは上手くやっていたじゃないか。二年前から新しい研究員の募集をぱったりと辞めたり、お前が学園に姿を見せなくなったりと今のお前は姿形のない何かから必死になって逃げている様にしか見えんのだが? 」


 データス教授の言葉のところどころに仕込まれた棘がロリスの心を逆撫でる。


 バンッと鉄製の冷たい机を叩き、感情の奔流にその心を任せ、さっきまでの生気が喪失したような様子はどこへやら。殺気立った剣幕でまくし立てる。


「ジジイ、あんまり知ったような口を聞いてんじゃねえぞ? 逃げてる? 一体何からだよ? だいたい二年前から新しい研究員を募集してなかったのはシグルドやスキル二ルが俺とは違って無事に卒業してなんか急にやる気が失せただけだし。それに俺が学園に顔見せなかったのはもう七周目の授業とか聞く気が起きなかっただけだ」


 ロリスの饒舌は留まるところを知らない。


「そんな俺の勝手な都合も知らないで何が『逃げてる』だよ? いい加減ボケて来たのかクソジジイ? 俺はただのぼうっとした学園生活にあいつらが踏み入ってくるのが嫌でこの決闘を吹っかけたんだ。逃げるっつうよりも寧ろ戦いに出てんだよこっちは」


 そんなロリスの熱弁を、まるで近所のおばさんの話を聞き流すかのごとく呆けた顔で一応聞いていたデータス教授は見透かした目でロリスを見つめ、こう切り出す。


「そ れ が ほ ん し ん か ? 」


 その一言にさっきまでの饒舌は霧散し、場に静寂が訪れる。


 この尋問室の空気を掌握したデータス教授がまるで決められた公式を解くかのように淡々と話し出す。


「いいかロリスよく聞けよ。これは年長者として、わしの経験則で話すが『一人になろうとする奴は嫌われる』ぞ。これが何を意味しているのかは今のお前には分かるはずだが? 」


 チッ、とロリスはバツの悪そうにデータス教授の方から顔を逸らす。


 たたみかけるように、そして清流の如く静かにデータス教授は尚も続ける。


「お前さんに二年前、何があったのかは実のところわしは噂にしか聞いとらん。故にこれは断言ではない。ただの老人の戯言だと思って聞いて欲しいんだが」


「何だよ。あんたの掴んだ噂なんだったら十中八九それが真実なのは分かってんだから、勿体ぶらずにさっさと言えよ」


「二年前のお前の仲間の為に今のお前の在り方があると考えているならそれは大違いだぞ。恐らく殆どの者が今の堕ちたお前なんぞには見向きもしたくないだろうな……まぁ、聞き流してくれや」


 そう言ってデータス教授は今だに若者のようにぴんとした腰を上げて、徐ろにロリスに手招きする。


「さてロリス。わしは説教なんかをしに来たんじゃないと言ったろ? さっきの決闘事件の被害者の少女に君を呼んで来て欲しいと頼まれてな。それが本当の要件だったんだよ。なに、他の教師にはもう話を付けてあるから堂々と会いに行ってこい」


 データス教授がそう言い残し、尋問室を去ってからも暫くロリスはまるで人形のように座っていたが


「ああああああああっクソっ……しゃあねえな」


 と、職員室にまで響き渡る声で雄叫びを上げた後、すぐに廊下に飛び出して事件の被害者ーーソフィーナの待つ医務室へと疾走して行くのだった。

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