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第9話 迷走する瞑想

https://img1.mitemin.net/6u/40/a3n4clli4zffne5bl2374smfqwq_11ea_14y_ra_1uwb9.png


扉絵です

「ラクできるなら、ラクしたらええと思うで、

ただな、思考が止まるのは、損やわな。」

「ソン・・・ですか。」

ハナちゃんが灰皿に豚足を置く。


「お前、得したいんか、それとも損したいんか?」

「そりゃあ、得したいに決まってるじゃないですか。」

「そやろ、普通、そやわな。」

「そりゃそうですよ、誰だってそうです。」

「でもみんな、ラクを選びよるねんど。」

「・・・」

「ラクは、損やど。」

「損、ですか・・・」

「得したいんやったらな、考えろ。」

「・・・」

「その頭で、よー考えろ。」

「・・・」

「考えることができる頭やったら、不毛地帯でも、ええやんけ。」

「お、おお・・・」

「考えて考えて考えて、ほんだら、お前、勝ち組やんけ。」

「そうなんですかマジですか?」

「知らんがな。」

「知らんのかーい!」

ルネッサーンス、げらげら。


「師匠、なんとなくわかってきましたよ。

やっぱり考えるって、大切ですよね。

やっぱり人間、努力ってことですね!」

「努力、か。ちょっと、違うんや。」

「え、違うんですか?」

「ついでやさかい、もひとつ、話しとこか。」

グッピーのような色彩のハナちゃんが、モノトーンのサトーを見据える。

ニシキヘビににらまれたガマガエルのように、サトーは動けない。


「それでは、ただいまより、イメージングを行いまふ。」

返り血を浴びたようなハナちゃんがサトーに語りかける。

「い、イメージングですか?」

捕食されまいと、サトーが身構える。


「そうでふ。瞑想と言っても、いいでせう。

では、目を閉じてくらはい。」

「え、あの、目を閉じてる間に、食い殺されませんよね、私・・・」

「そんなことはしませんので、安心してくらはい。」


サトーは恐る恐る目を閉じる。

当然ながら視界が真っ暗になる。

こわいー、

二の腕あたりを噛みつかれているような気がするー。


「ではサトーさん、1分計測しますので、

何も考えないで、心を無にしてくだはい。」

「あ、はい、わかりました、やってみます。」

サトーが、何も考えないよう、努力する。


「まだ10秒ですが、サトーさん、あなた今、考えましたよね。」

「・・・」

「エロいこと、考えましたよね。」

「・・・」

「お尻とかおっぱいとか、想像しましたよね。」

「・・・はい。」

ビシッ!

右肩に痛みが走る。

坐禅修行でも、しているのだろうか。


「そうなんでふ、それで普通なんでふ。

人間は、たった10秒でさえ、何も考えない、ということが、できないのでふ。」

「・・・」

「人間は、思考という呪いから、解放されないのでふ。」

「・・・怖い、ですね・・・」

ビシッ!

「無駄口を、たたいてはいけません。」

「・・・」

「考えることをやめられない。

なのに、

思考は停止しているのでふ。」

「・・・」

「この矛盾を、どう生きるか。それが、人生でふ。」

時が流れる。

ほんの少しかもしれないし、

永遠かもしれない。


「ならばいっそ、逆手にとってしまいましょう。」

 サカテ・・・?

「そうでふ、逆手です。

これからは左手でしごけ、

と言っているのでは、ありませんよ。」

「それはわかっています。師匠こそ、余計なこと言わないでください。」

「おお弟子、成長しましたね。

では逆手的イメージングを再開しませう。」

「お願いします。」

「あなたは今、とても静かな森の中にいてまふ。

小鳥がさえずり、柔らかな木漏れ日があなたを照らしていまふ。

まったくもって、あなたには不似合いの場所でふ。」

「・・・」

「なんとなれば、小川のせせらぎが聞こえてきまふ。

ちょっと奥まで、行ってみましょか。

ほーらもう、見えてきたでせう?」


サトーは全力でイメージする。

森の中。爽やかなそよ風。美しい小川。

まるで森の中にいる、ような気がする。

「完全に素敵ですね。

素敵すぎて、あなたは小川に飛び込みました。

周囲には誰もいませんから、ご安心くらはい。」

サトーが、安心する。

「ではサトーさん、川上を見てくらはい。

何かが流れてくるでせう?」

目を凝らしてみる。

確かに何かが近づいてくる。

イメージが徐々に具現化されてくる。

あれは・・・

「そうでふ、100万円の束じゃあ、あーりませんか。」

っきゃー、ヒャクマンエン!

「手を伸ばせば届きそうでふね、どうしまふ?」

あわてて手を伸ばす。

札束をゲットする。

思わずほくそえむ。

「おお、いいですね、

その下品な表情。

あなたの性根が透けて見えまふ。」

サトーがあわてて無表情を、気取る。


「あらあら、またぞろ何かが流れてきましたよ。」

サトーが再び目を凝らす。

「なんということでせう。今度は、うんこちゃんでふね。」

ぷかぷかと浮かんでいる、げ!

「仲間だと思っているのでせうか、

あなためがけて一直線でふ。

あーもう衝突寸前ですね。どうしまふ?」

サトーが必死で、精一杯身をよじってみる。

「おー、よかったですね、間一髪でしたね。」

ほーっと胸をなでおろす。


「以上や、目ぇ開けて、ええど。」

森の中でサトーはゆっくり目を開ける。

そのとたん、純喫茶スワンが飛び込んで来る。

夢から戻ってきたような、そんな気がする。


<次回予告>

森や小川は、幻だったのか。

それとも、現実だったのか。

夢と現実のはざまで、サトーが揺れる。

現実も、揺れる。

揺るがないもの、それは、

ハナちゃんの、Aマイナスだけなのか!?


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