第3話 そこに、愛は、あるんか?
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扉絵です
「待たせたなサトー、うちがハナちゃんや。ハナちゃんまでが名前やさかい、うちをちゃん付けで呼びたいんやったら、ハナちゃんちゃんになるわけや、アグヌス・チャンちゃんみたいなもんやな。」
言うなりハナちゃんはサトーの正面席に座り込む。
「で?」
たすき掛けのポシェットから、ハナちゃんが豚足を引っ張り出す。
「で、どうするねん、これから。」
細長いギャルが目の前で豚足を吸っている、それがサトーには理解できない。
帰りたい、しかしここまでの電車賃および繰り返しシミュレートして来たハッスルハッスル生活を考えると、それも惜しい。
どうしよう・・・
考えろ、考えろ私・・・
ぴきーん
そうだ、ピンチの時は「初心に帰れ」、これか!
「な」震える声でサトーがうめく。
「な?」
「な・・・」サトーの両手に汗がにじむ。
「なんやねん、はっきり言えや。」
言われてサトーは腹をくくる。
「なんて素敵な、セニョリタ・・・」
床に転がる差し歯に視線を向けたまま、サトーが絞り出す。
「どうしてん、お前、逝かれてんのか。」
げらげら
サトーの中で何かがはじける。やっぱり帰ろう、今すぐ帰ろう。
果たしてサトーは立ち上がる。
「帰るんか。」
ハナちゃんが豚足を灰皿に置く。
「お前、いったい何しにここまで来てん?ユーはなにしに、ニシナリへ?」
「・・・」
「人生変えに来たんとちゃうんか。」
人生?
変える・・・?
予想外の言葉にサトーは戸惑う、しかし反論できない。
「そんな、そんな大げさなもんじゃないよ・・・」
絞り出す声が裏返る。
「なんでやねん、お前、セフレほしいんやろ?」
「え?」
「そのためにわざわざニシナリ界隈まで来たんやろ。」
「・・・」
「ごまかさんでええがな、出会い系やっとるやつらなんて、どいつもこいつも程度の低い連中ばっかりや。お前だけちゃうから、安心せえ。」
「・・・そう、なのかな。」
「でもお前にセフレができるなんて、完全に異次元ストーリーやんけ。」
ハナちゃんが真正面からサトーを見つめる。
「な・・・」
「非現実や、ファンタジーやん。」
「君ね・・・」
「金銭のやりとりなしで女を抱けるなんて、今のお前には完全に不可能姉妹やど。」
「・・・」
「人生変えへんと、無理やど。」
人生を、変える・・・
「それか、ヤリたいだけか?」
「それは・・・」
「ヤリたいだけやったら、相手したってもええど。ホテル代別で2枚や。どや、こんなギャルと2枚やったら安いもんやろ。あ、ゴムはせえよ。」
「・・・違う。」
サトーの心が叫ぶ。
人生を変える
その言葉が頭から離れない。
「違う?ああ、生がええんか。ゴムなしやったら3枚や、そのかわり2発まで許したるわ。チックトック無限スクロールしとくさかい、2回イったら知らせてくれや。どや、条件的には悪ないやろ?でも中で出すなよ、中出ししたら、茹でて冷やして皮剥いてツーテンカクから突き落とすど。」
「だから、違うんだよ!」
心の叫びが、ついに言語化する。
人生が、変わる
「毎日」を日々繰り返すサトーは、そんな可能性についてなど、今まで考えたことがなかった。
しかし、とサトーは思う。
私は、セフレが欲しかったのではないのかも知れない。
人生を、変えたかったのかも知れない。
ハナちゃんが豚足をポシェットにしまう。
「愛されたいんやな。」
「え?」
「愛されたいわけやろ、お前。」
「・・・」
「それやったら、愛さなあかんど。」
「え?」
「愛してほしほし、愛してくれくれ、それは、勝手や。完全に自己チューや。」
「・・・」
「愛してほしかったら、愛さなあかんねん。枯れたくないんやったら、まずお前が、枯れ木に花を咲かせたれや。」
おぢいさん、
おぢ悲惨、
でも、はなさかじいさん、
枯れ木に花を咲かせる人生・・・
サトーは考える。
自分は今まで、損得勘定なしに、誰かのために、何かをしたことが、あるのだろうか・・・
「よっしゃ、ほな、練習しよか。」
「え?」
「練習やんけ。」
「練習?」
「お前、今ここで、うちのこと、愛してるて、言え。」
「はああ?」
「はあ、ちゃうやろ、お前、うちの書き込み見て、ここまで来たんやろ。」
「あ、ああ。」
「会うてる間は、ずっと愛してるって言えって、書いたあったよな。」
「あー、あ、ああー!」
「ほんでお前はおっさんやさかい、うちの隠れた魅力がわかるんやろ、若い衆とは違うんやろ?」
「それは・・・」
「言え、ハナちゃんちゅきちゅきて、言え!」
「やだよ!」
「早よ言えや。」
「そんな、無茶苦茶だろ。だいたい今あったばっかりで、君のことだって何にも知らないんだぞ私は。それをいきなり愛してるだの好きだの、言えるわけないじゃないか!」
もう我慢ならない、サトーはついに爆発する。
爆発しながらも、こんなに感情的になっている自分に、少し引いている。
「おー、ええどええど、サトーええど。もっと言え、お前の本音、もっと言え。」
「こ、こんなことになるなんて、完全に想定外だよ、不愉快だ!」
「ソーテーガイ?」
「そうだ、想定外だ、完全に!」
しばし二人はにらみ合う。
一体私は何をしているのだろう、サトーはふと思う。
<第4話予告!>
サトーをしばき回すハナちゃん。
ハナちゃんにしばき回されるサトー。
やがてそれは、美しい子弟愛へと、昇華する。
二人をとりもつのは、プリンアラモードなのであった!




