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第12話 走れ、サトー!

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扉絵です

ここはニシナリ。

純喫茶スワンでは、

ハナちゃんがサトーに、

時速100kmで走れと、

相変わらずの無茶振りである。


「せやから、今ここで、時速100kmで走れ。」

ハナちゃんが真顔でサトーに、命令する。

「・・・わかりましたよ、

走ればいいんですね・・・」

サトーが立ち上がる。

アキレス腱を伸ばし、屈伸をする。

腕立て伏せを試みる。

あきらめる。


「だいいちのコース、サトー。」

ハナちゃんが、宣言する。

緊張感が、いや増しに、増す。

「だいにのコース、ニホンニンギョウ。」

「なんですと!」

突如、ライバルが、出現する。

負けるわけには、いかなくなる。

サトーの社畜魂に、哀しいほど、火が付く。

「位置に付いて」

サトーがクラウチングスタートの態勢に入り、腰を、下ろす。

「ヨーイ」

腰を、上げる。

バン!

サトーが、結構本気で、走る。

そんな姿を、イメージする。


「あばばばばば!」

ネクタイが、なびく、

頬肉が、ぶるぶるする、

風圧でメガネが、飛ぶ、

という無駄なディテールまで、想像する。

やがてスピードがあがる。

もう少しで、時速100km。

カバン置いて走ればよかったと、後悔する。

ニホンニンギョウが、追い上げてくる、そんな、気がする。

抜かれないように、がんばる。

ニッポンの、サラリーマン。

社畜の本領を、発揮する。

果たして時速100kmに到達する。


「ええどサトー、

そしたら今度は走ったまま、

後ろに向かって、時速100kmのボール投げろ。」

ハナちゃんの注文がどんどん、複雑になる。

しかしサトーは、善処する。

それが、社畜の、サガである。


「合点承知、ふんっ!。」

時速98km

このままでは、評価がBである。

サトーはA評価が、欲しい。

しかして再度、挑戦する。

時速100km

スピードメーターに、表示される。

ミッション、コンプリートである。


「よっしゃサトー、戻ってこい。」

「はあはあ・・・た、ただいま。」

「で、ボール、どうなったと思う?」

「は?」

「ボールや、どうなるねん。」

「・・・どうなるんでしょうね、

そう言われると、気になりますね。」

サトーが首を、ひねる。


「実に簡単な数学やど、

いや、なんなら算数やな。」

「そうなんですか!」

「時速とか、そんな単位はどうでもええわ。

数字だけで考えてみい。」

「はい、えーっと、

私もボールも、どっちも100ですねえ。」

「せやな、ほんなら、進行方向的に考えて、

足し算か、引き算か、どっちや。」

「私とボールの進行方向は反対ですから、

きっと、引き算ですね。」

「その通りや、ということは、どうなるねん。」

「100引く100は、ゼロですね。」

「そうやな、ゼロやな、つまり、どうなるねん。」

「時速ゼロkmってことですから、

止まってるって、ことですか。」

「そやそや、その通りや、

でも地球には重力があるやろ。」

「ああ、だから、ボールは真下に落ちるんですね。」

「ペルフェクト!」

「やったー!ああなんだか、賢くなった気がします。」


「よっしゃ次や、お前、もう一回走れ。」

「承知しました。なんなら、もう走ってますよ。」

「次はボールを前に向かって、投げえ。」

「ふんっ!」

「今度はボール、どうなった?」

「ええ、これは足し算ですよ、だから時速200kmです!」

「おー、やるやんけ、そのとおりやど。」


「次はどうします?なんでもばっちこーい!」

サトーが調子に、乗る。

「よっしゃ、ほいだら次は、コーソクや。」

「コーソク?ああ、もっと高速ですね、合点承知!

なんなら、高速道路、走っちゃいます?」

「ちゃうちゃう、光の速さや、光速や。」

「あー、そっちの光速ですか、って、おい!」

「サトー、光速で、飛べ。」

「しかも飛ぶんかい!」

「お前なら、できるて。」

言われてサトーは、飛べそうな、気がする。

そういえば昔、そんな映画が、あったような気がする。

胸に「S」のマーク。

サトーの「S」のような、気がする。

当然、気のせいである。


「とうっ!」

「おお、ほんまに飛びよった。」

「あんたが飛べって言ったんでしょうよ!」

「よっしゃ、ほいだらお前、懐中電灯、持ってるやろ。」

サトーが手を、見つめる。

懐中電灯が、ある。

「はいはい、ライトですね。しっかり握ってますよ!」

「それ、後ろに照らせ。」

「了解!スイッチ・オン!」

サトーが進行方向とは逆方向に、ライトを、照らす。

「ええどサトー、ほんなら、懐中電灯、どうなると思う?」

「そんなの、今の私なら、一発でわかりますよ!

これは引き算ですからね、

プラスマイナス、ゼロなんでしょ。

だから、光りませんよ。

引き算ですからね!」

「そやけど、お前、光っとるど。」

「え?」

「お前の後ろ、完全に光ってるやんけ。

ホタルみたいやど。」

「ええーなんで!?」

づがーん。

サトーが、墜落する。


「お前、きれいに光っとったわ。」

ハナちゃんが残りのプリンを丸のみする。

「ど、どういう、ことですか、それ・・・」

鞭打ちの痛みをこらえてサトーが起き上がる。


「どういうこともないねん、

光速不変の法則っちゅうのは、そういう設定なんや。」

「光速・・・不変?」

「そうやど、AIに聞いてみい、ググール先生でもええわ。

とにかく検索してみいや。光速不変の法則やど。」

「いや、聞いたことありますよ、それ。

とにかく光の速さっていうのは、

どんな環境でも常に一定なんですよね。」

「せやねん、今みたいな環境でも、常に一定なんや。」


サトーが一生懸命、考えてみる。

「でも、でもやっぱりおかしくないですか、

おかしいでしょ、

私が光速で飛んでる以上、後ろ向きには光らないはずでは?」

「ほんだら、前に向けたらどうなるねん。」

「そりゃあ、今度は足し算だから、光の2倍の速さで、って、

あれ・・・」

「光より早いスピードになるって、言いたいんか。」

「・・・ですね、そうなりますね・・・」

「光より早いもんは、ないよな。」

「・・・」

「ショーガクセーでも知ってるような、常識やど。」

「いや、でも・・・」

「光の速さの倍やったら、それはもう光とちゃうやん。」

「・・・」

「ひかりひかりやん。」

「・・・」

「ってことに、なってしまうわけや。

困った困った、コマンタレヴー。」

「どうしてフランス語―!」


<次回予告!>

設定を変更すると、

ひかりは、

ひかりひかりになるのか!

それともやっぱり、

ひかりはひかりのままのか!?

そしてなぜシンカンセンは、

ヒカリよりノゾミのほうが、早いのか!?

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