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この世界の理不尽に耐えられず、心から願ったら異世界の空に放り出されたのだが???  作者: はるのひ


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第9話 表裏一体

挿絵(By みてみん)


木漏れ日の宿


その日の夕暮れ。


木漏れ日の宿には、美味しそうな料理の匂いと冒険者たちの笑い声が響いていた。


皆でテーブルを囲む。


アルファ達とヨルムンガンドについて話している。


メルだけは料理にほとんど手をつけず、俯いていた。


(私だけ……何もできなかった。)


昨日の戦い。


怖くて足が動かなかった。


コラソンの力にも、エマの勇気にも、自分は何一つ届かなかった。


コラソンはそっと手を握ってくれた…。


(嬉しかったけどそれじゃダメだ…。)


その姿を、アルファは静かに見つめていた。


食事が終わる頃。


アルファはそっとメルの隣へ座る。


「少し、外を歩かない?」


メルは驚いた顔をしたが、小さく頷いた。



宿の外。


夜風が優しく吹き抜ける。


虫の鳴き声だけが聞こえる静かな時間。


アルファが口を開いた。


「あなた、自分を責めてるでしょう?」


メルは黙ったまま頷く。


「……怖かった。」


「……盗賊を見ると昔を思い出して体が震えて……。」


「コラソンを助けたかったのに……何もできなかった。」


涙が一滴落ちた。


アルファは優しく微笑む。


「昔辛い事があったのね…。」


「でも大事なのは今の自分…。」


「今を生きなきゃ…。」


「それと戦う方法は剣だけじゃないわ。」


「……え?」


「もしよかったら、魔法を習ってみない?」


メルは目を丸くする。


「私が……魔法?」


「私はエルフ。」


「剣だけじゃなく、魔法も得意なの。」


「とは言っても私は剣の方が得意なんだけどね」


そう言うとアルファは少し離れた場所へ歩く。


右手を静かに前へ。


「見てて。」


詠唱

「…風よ…風の精霊よ…我が魔力と引き換えに風の刃と化せ…。」


風が止まる。


空気が震えた。


「──ウィンドカッター!!」


ヒュンッ!!


圧縮された風が一直線に飛び、小さな岩を真っ二つに切り裂いた。


続いて左手を掲げる。


詠唱

「…水よ…水の精霊よ…我が魔力と引き換えに水の打撃となれ…。」


水が宙に集まり、美しい球体になる。


「…ウォーターボール!!」


ドンッ!


先ほど真っ二つになった岩、今度は水の打撃を受けてバラバラになる」


「魔法は自分の魔力を詠唱し精霊の力を借りて形にする。」


「炎、水、風、土、光……才能は人それぞれ。」


「私が今放った魔法は初級魔法。」


「使う魔法がさらに高度になれば、魔力の消費も詠唱も長くなるんだ……。」


メルは目を輝かせた。


「……私にもできますか?」


アルファは優しく笑う。


「やってみましょう。」


⸻


メルは深呼吸する。


アルファの言葉を思い出す。


(魔力を感じて……。)


胸の奥に温かな何かがある。


それを両手へ集めるように意識する。


すると――


ふわっ……


手のひらから黒い光が漏れ始めた。


アルファの表情が変わる。


(えっ……。詠唱は?)


光はどんどん強くなる。


普通なら初めてでは火花が散る程度。


それなのに。


ゴォォォ……


空気が震えるほどの魔力が渦を巻いた。


アルファは思わず一歩後ろへ下がる。


(この魔力量……嘘でしょう。)


「メル! 一旦止めて!」


「え!? どうやって止めるの!?」


慌てて上げた手のひらから空に向かってエネルギーが吸い込まれて行った。


光は静かに消えた。


しばらく沈黙。


アルファは信じられないものを見るようにメルを見つめる。


「……初めてなのよね?」


「う、うん……。」


アルファは小さく息を呑んだ。


「こんな事って……」


「メルちゃんあなた……とんでもない魔力量を持ってる。」


「で、あなた詠唱は?」


メルはぽかんとする。


「え?」


アルファは真剣な表情で続けた。


「普通は詠唱を初めてやっと魔力が発動するの」


「無詠唱なんて聞いた事ない。しかも初めてで…」


「あなた努力すれば、きっと一流の魔法使いになれる。」


「明日、城の魔法師団のフローレに会いに行ってみよう」


メルは初めて少しだけ笑顔を見せた。


「……私にも、できることがあるんだ。これが魔法。」


その笑顔を見て、アルファも優しく微笑んだ。


(この子の魔力……ただ多いだけじゃない。)


(何か惹きつけられる物を感じた……。)


(コラソンといいメルといい、一体どうなってるんだ……。)


次の日

アルファに案内されたコラソンたちは、イリス城の魔法師団を訪れた。


そこにいたのは、魔法師団隊長――フローレ。


アルファとはまた違う


透き通る様な水色の髪、吸い込まれそうな瞳、知的な雰囲気を纏う小柄な女性だった。


コラソンまたドキドキ。


耳を見て気づく。


やっぱりエルフだ。


「吾輩はフローレ、このイリスて魔法師団の団長を任されてるのね…。どうぞよろしくなのね…。」


コラソン

(ね、をつける人だ…。笑)


「あなたたちがアルファの紹介なのね?。」


アルファ


「そうなんだ魔法の適正を見てやっと欲しくて。」


「きっと驚くぞ。」


フローレは三人を見渡す。


「では、一人ずつ見て行くのね。」


机の上には、透明な水晶球が置かれていた。


「ギルドにもあったやつですか?」


「あれは違うわね。その時の力を簡易的に図るだけの水晶なのね。」


「この水晶球はマジのやつなのね」


「手を置くだけでいいのね」


最初はメル


メルが恐る恐る水晶へ手を置く。


その瞬間――


水晶は漆黒に染まり、その奥に紫色の光が渦を巻いた。


部屋の空気が一瞬だけ重くなる。


フローレは目を細める。


「……これは闇属性なのね。」


「しかも、重力系統の適性が極めて高いわね。」


アルファも驚きを隠せない。


「やっぱり……。」


しかしメルは俯いてしまう。


「闇……。」


「私……そんな怖い属性なの……?」


「ネガティブな事ばっかり考えてたからなの……?」


次はコラソン


コラソンが手を置く。


眩い光が部屋いっぱいに広がる。


まるで朝日が昇るような虹色の優しい光だった。


「虹色なのね…。」


(は、初めて見たけど私は魔法師団団長なのね)


(どど動揺なんてしないのね…。)


フローレは一瞬動揺したが切り返し微笑む。


「フッ」


「光属性なのね。」


「こんなに穏やかで温かい光ははじ…久しぶりに見たわね。」


コラソンは照れくさそうに頭をかく。


「光属性…。」



最後はエマ


エマが勢いよく手を置く。


(私だって…コラソンの役に立ちたい…)


フローレは赤く輝く水晶を見つめながら言った。


「あなたは火属性なのね。」


(この子も魔力強いなのね……)


エマは驚いて首を傾げる。


「えっ? でも私、水魔法しか使ったことないです。」


フローレは少し不思議そうな表情を浮かべる。


「……誰に魔法を習ったのね?」


エマ


「だ、誰にも習ってません。独学です。」


「最初に見た魔導書が水魔法のだったので」


「すみませんっ……。」


フレーレはエマの頭に手を撫でる様に置き


「謝らなくていいのね……。」


「独学で魔法の発動が出来てるだけでもすごいのね…。」


「普通は師匠につき基礎から勉強するのね。それでも初級魔法の壁を越えるのは容易な事では無いのね…。」


「よほどの思いがあったのね…。」


「独学なら無理もないわね。」


すると、水晶は真っ赤に輝き、炎のような揺らめきを見せた。


「水魔法が使えるのは、魔力量が多い証拠。でも、エマの本当の適性は火属性なのね。」


「だから、水魔法は使えても、どこか扱いにくさを感じていたんじゃないのね?」


エマはハッとして目を見開く。


「……はい!」


「思ったより威力が出なかったり、魔力の消費が激しかったりしてました。」


フローレは優しく微笑む。


「それは才能がないからじゃないのね。」


「自分に合わない属性を必死に使っていたからなのね。」


「あなたが火属性を学べば、その才能は今より何倍も花開くはずなのね。」


エマの顔に、自然と笑顔が戻った。


「私……火属性、頑張ってみます!」



しかし、その横でメルだけは俯いたままだった。


「闇なんて……嫌だ。」


部屋に静かな空気が流れる。


その時、フローレが優しく微笑んだ。


「どうしてそんな顔をするのね?」


「闇属性だからです……。」


「闇って……怖い人が持つ力なんですよね?」


フローレは首を横に振る。


「違うのね。」


「その考えは、大きな誤解。」


メルは顔を上げる。


フローレは水晶に映る光と闇を見つめながら話し始めた。


「この世界には光と闇が存在するのね。」


「昼があれば夜がある。」


「太陽があれば月がある。」


「どちらか片方だけでは世界は成り立たない。」


「光と闇は、表裏一体なのね。」


部屋は静まり返る。


「光だけでは、強すぎる光に命は焼かれてしまう。」


「闇だけでは、何も見えなくなる。」


「だから互いを支え合い、均衡を保っているのね。」


フローレはコラソンを見る。


「あなたは光属性。」


そしてメルへ視線を移す。


「あなたは闇属性。」


「決して反対の存在ではないのね。」


「互いを補い合う存在。」


「だから闇属性であることを恥じる必要なんて、少しもないのね。」


メルは驚いたように目を見開く。


フローレはさらに続ける。


「しかも、あなたの闇属性は重力系統。」


「破壊のためではなく、敵を止め、仲間を守る力としても使える。」


「力に善悪はない。」


「あるのは、それを使う者の心だけなのね。」


メルの瞳に涙が浮かぶ。


その言葉を聞いたコラソンは、にっこり笑う。


「ほら、言っただろ。」


(何も言ってないけど)


「メルの力は、きっと誰かを守る力になる。」


メルも少し照れくさそうに笑い返した。


「……うん。」


メルは胸に手を当て、小さく頷いた。


「……うん。」


その表情には、先ほどまでの迷いは少しずつ消え始めていた。


その帰りコラソンはご機嫌のメル、エマに両腕を組まれてまんざらでも無いがタジタジ。


でも2人の嬉しそうな笑顔がコラソンも笑顔にした。


(俺は、メル、エマのこの笑顔を見ていたい)


(2人とも可愛すぎるって…照)


その日見た夕日は3人の心に深く刻まれた。


挿絵(By みてみん)

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