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この世界の理不尽に耐えられず、心から願ったら異世界の空に放り出されたのだが???  作者: はるのひ


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第22話 誰もいない村

フリルの案内する近道を使い、魔導馬車は夜の道を駆け抜けていた。


 通常の道を進んでいれば、村へ辿り着くまでさらに時間がかかっていたはずだ。


 途中、道端には仲間たちの亡骸があった。


 キングベアに襲われ、命を落とした仲間たち。


 ハウンドは分かってはいたがそれでも現実を受け止めたくなかった。


 簡素ではあるが、皆で弔いを済ませた。


 ハウンドは最後まで、その場から動こうとしなかった。


「……すまない」


 拳を握る。


「俺だけ……生き残っちまった」


 その声には、自責の念が滲んでいた。


「だから……」


 ハウンドは立ち上がる。


「差し違えてでもキングベアだけは、俺が倒す」


 誰にも聞こえないほど小さく呟いた。


「あいつらのところへ……」


 その目には、死を恐れる色がなかった。


 むしろ――死ぬことを望んでいるようだった。


 そして一行は、村へ向かった。


 だが。


「……なんだ、これ」


 コラソンが足を止めた。


 村は――壊滅していた。


 家屋は崩れ、道には爪痕が残り、あちこちに焼け焦げた跡がある。


 キングベアが暴れた。


 そう考えるには十分すぎる光景だった。


 だが――


「……死体がない」


 セリナが呟く。


 誰一人として、人の亡骸が見当たらない。


「いち早く避難したのかもしれない」


 アルファが周囲を見渡す。


「これだけの被害があって、死体が一つもない。そう考える方が自然だ」


「……そうだね」


 コラソンも頷いた。


 その時だった。


 森の奥から、地面を揺らすような唸り声が響いた。


「グルルルル……」


「来るぞ!」


 ハウンドが叫ぶ。


 木々を薙ぎ倒しながら、無数の魔獣が姿を現した。


「キルベア!」


「群れ……!」


 セリナが構える。


「前回、ほとんど倒したはずなのに……?」


 コラソンが驚く。


 だが、考える暇はない。


「行くよ!」


 コラソンが飛び出した。


 アルマが閃く。


 一体。


 二体。


 三体。


 瞬く間にキルベアが地面へ倒れていく。


「速い……!」


 ハウンドが目を見開いた。


 その横をメルが駆け抜ける。


「ウェイト!!」


 重力が歪み、キルベアの動きが鈍る。


 そこへエマの炎。


 フローレの氷。


 アルファの剣。


 セリナの打撃。


 六人のS級冒険者が、それぞれの力を一切無駄なく繋いでいく。


 敵の動きを止める。


 そこへ攻撃を叩き込む。


 誰かが狙われれば、別の誰かが即座に援護する。


 数十体いたキルベアは、見る見るうちに数を減らしていった。


「……俺もS級なんだが」


「なんてパーティだ…。」


 ハウンドが思わず呟く。


「何をボケッとしているんですか!」


 セリナが叫ぶ。


「分かってる!」


 ハウンドが地面を蹴った。


 獣人特有の脚力。


 一気に懐へ入り込み、鋭い爪を振り抜く。


「ガァッ!」


 キルベアの巨体が吹き飛ぶ。


 セリナが隣に並んだ。


 気づけば二人は背中合わせになっていた。


「やりますね」


「……あんたもな」


 二人が同時に駆け出す。


 残ったキルベアが次々と倒れていく。


 そして――


 最後の一匹が地面へ崩れ落ちた。


「……終わった?」


 エマが息を整える。


 その瞬間。


 ズン……。


 地面が揺れた。


「……?」


 全員が顔を上げる。


 森の奥。


 巨大な影がゆっくりと姿を現した。


「……キングベア」


 フリルの顔が強張った。


「やっぱり一緒だ……」


 ハウンドが息を呑んだ。


「……昨日より……でかい」


 胸部に、禍々しい黒い輝きが見える。


 フローレが目を細めた。


「やっぱり……」


 杖を握る。


「また胸の魔石なのね」


「なら……!」


 ハウンドが飛び出した。


「待って!」


 コラソンの声が届くより早く、ハウンドはキングベアへ突っ込んでいた。


「仲間の仇だ!」


 拳。


 爪。


 蹴り。


 全てを叩き込む。


 だが――


 キングベアは微動だにしない。


「ぐっ……!」


 逆に腕を振られ、ハウンドの身体が吹き飛ぶ。


「ハウンド!」


 セリナが叫ぶ。


 ハウンドは立ち上がった。


 口元から血が流れている。


「まだだ……!」


 再び突っ込む。


 明らかにおかしい。


 防御を捨てている。


 避けることすらしない。


「死ぬ気でしょ?」


 コラソンが静かに言った。


「……」


「そんな戦い方したら死にますよ!」


「……お前に何が分かる!」


 ハウンドが怒鳴った。


「俺の仲間は……俺を守って死んだ!」


 拳を握る。


「俺だけ生き残ったんだ!」


 声が震える。


「だったら……せめて俺が……」


「仲間に寂しい思いはさせたくないんだ!」


 ハウンドの言葉に、コラソンは何も言わなかった。


 ただ、悲しそうに微笑んだ。


 それは十五歳の少年とは思えないほど、静かで温かい表情だった。


「……」


 ハウンドの動きが止まる。


 その顔を見て――


 何かに気づいた。


「……そうか」


 ハウンドは拳を下ろした。


 コラソンを見る。


「……僕が倒します」


 コラソンがアルマを構えた。


 次の瞬間。


 姿が消えた。


「なっ――」


 キングベアの懐へ入り込む。


 アルマが閃いた。


 胸部の魔石だけを正確に斬り落とす。


 ガキンッ!


 魔石が地面へ落ちた。


「グオオオオオオッ!」


 キングベアが苦しみ始める。


「成功した!」


 だが――


「……戻らない?」


 巨大化した身体は元に戻らなかった。


 キングベアは苦しみながら地面を叩き続ける。


「なぜ……?」


 フローレが魔石を見る。


「魔石の力を……受けすぎたのかも」


 漆黒の魔石。


 その力に触れすぎたことで、肉体そのものが闇に侵食されている。


「もう……元には戻せない」


 コラソンはキングベアを見る。


 そしてアルマを握り直した。


「……倒そう。」


 全員が頷いた。


 戦いは長く続かなかった。


 キングベアは、静かに地面へ倒れた。


 その直後――


「……なんだ?」


 森の向こうから声がした。


「村が壊滅しているのにどうゆう事だ?」


 マルギスだった。


 周囲を見渡し、眉をひそめる。


「だが……死人がいない?」


 そして笑った。


「なるほど」


 視線を巡らせる。


「おい、アリス」


 返事はない。


「いるんだろう?」


 マルギスが声を張る。


「早く出てこい」


 その瞬間。


 アルファたちの表情が変わった。


「……やはり」


 アルファがアリスを見る。


「あの娘……悪魔だったのか」


 マルギスが口元を歪めた。


「顔見知りか?」


「こいつはヨルムンガンド――」


 マルギスが告げる。


「七魔皇、第七位」


「千里眼のアリス」


 アリスの胸が締めつけられた。


(まさか……こんなに早く来るなんて……)


「そして俺が七魔皇、第6位嘲笑のマル」


 アルファが遮りアリスに問う


「お前、悪魔だったのか?」


 そしてフリルを見る。


「あの子をどうするつもりだ?」


「……なんの話?」


 アリスは知らないふりをした。


「……あの子とは?」


 アルファが一歩踏み出す。


 アリスは焦った。


(やめて……)


(お願い……それ以上言わないで)


(マルギスに知られてしまう……)


 だから――


「――っ!」


 アリスはアルファの言葉を遮るように攻撃を放った。


「アリス姉ちゃん?」


 フリルが驚く。


「どうして……?」


 アリスは答えられない。


 そこへマルギスが目を見開いた。


「見つけたぞ!アリスが見つけられなかったガキを…。」


 視線の先にはフリル。


 マルギスが一気に迫る。


 アリスは動けなかった。


 ここで庇えば、全てがバレる。


 だが――


 ガキィン!


 セリナとハウンドがマルギスの攻撃を受け止めた。


「子供に手を出すなんて……!」


「させるか!」


 マルギスが笑う。


「お前ら、こいつがただのガキだと思っているのか?」


「……?」


「こいつは――フェンリルの子供だ」


「「「フェンリル……?」」」


 全員が驚愕する。


「伝説の生き物だぞ……?」


 フリルは俯いた。


コラソン

「犬の獣人って……言ったよね」


「……ごめんなさい」


 だが顔を上げる。


「で、でも嘘じゃないよ…。多分」


 マルギスが笑う。


「そいつの力を利用すれば、もっと強力な魔獣を作れる」


「そんなこと……」


 コラソンが前へ出る。


「させない」


「なるほど」


 マルギスが笑う。


「邪魔をするな!」


 魔法陣が展開される。


「行け! キングベア!」


 召喚された魔獣が三体。


「一体は私とハウンド!」


 セリナが叫ぶ。


「もう一体はフローレとエマ!」


「分かった!」


 アルファがメルと並ぶ。


「私たちは三体目を!」


 そしてコラソンを見る。


「フリルを頼む!」


「分かりました!」


 マルギスの視線がコラソンへ向く。


「お前はガキを捕まえろ」


 アリスへ命じる。


「……」


 アリスは動けない。


「早くしろ!」


 マルギスが苛立つ。


 コラソンが斬り込む。


「させない!」


 マルギスは攻撃をかわした。


「邪魔だ!」


 そのまま一気にフリルへ向かう。


「しまった!」


 コラソンが振り返る。


 間に合わない。


 マルギスの攻撃がフリルへ迫った。


「――っ!」


 アリスが動いた。


 フリルの前へ。


「ぐっ……!」


 攻撃を受け止める。


 身体が吹き飛ぶ。


「おい……」


 マルギスの顔から笑みが消えた。


「やはりな」


 アリスを睨む。


「おかしいと思っていたんだ」


「……」


「貴様の千里眼の能力を持って、見つけられない訳がない」


 マルギスの声が低くなる。


「イリスでは街のすぐ横にヴァルタウロスを召喚したはずなのに、なぜかダンジョンの入口」


「そしてこの村では、お前が指定した地点から数十キロも離れていた」


「貴様が仕組んだと考えれば……合点がいく」


 アリスは目を閉じる。


「裏切ったな?」


「……」


「貴様、リリスがどうなってもいいということだな?」


「……あの子は関係ない」


 アリスが立ち上がる。


「だから……代わりに私が七魔皇として任務を――」


「黙れ!」


 マルギスが怒鳴る。


「任務もこなさない!」


「挙句の果てには、ガキを庇って我らを裏切る!」


 魔力が膨れ上がる。


「死に値する」


「死ね」


 魔法がアリスを直撃した。


「きゃあっ!」


 アリスの身体が吹き飛ぶ。


「アリスお姉ちゃん――!」


 フリルの叫び声が響く。


 その声を聞きながら、アリスの意識が遠のいていく。


(私は……甘いな)


 目を閉じる。


(でも……)


(どうしても、あなたの笑顔を奪うことができなかった)


 そして――


 アリスの意識は、三百年前の記憶へ沈んでいった。


     ◇


 暗闇。


 そこから、一人の少女が世界を覗いていた。


 まだ幼かったアリス。


 人間など、敵だと思っていた。


 憎むべき存在。


 滅ぼすべき存在。


 そう教えられてきた。


 だから――


 ある女性の心を覗いた。


 その女性は、悲しんでいた。


 嘆いていた。


 それでも――


 誰かを思っていた。


 傷ついた人を心配し、誰かのために涙を流していた。


 優しかった。


 アリスには、その心が理解できなかった。


(……どうして?)


(どうしてそんな顔をするの?)


 けれど。


 嫌ではなかった。


 むしろ――


(……不思議)


(なんだか……心地いい)


 それが、始まりだった。


 いつからだろう。


 魔王軍は本当に正しいのか。


 魔王様は本当に正しいのか。


 そんな疑問が、少しずつ心の中に生まれていった。


(私たちは……正しいの?)


アリスの心へ温かい光が吸い込まれていく。


 そしてアリスは、もともと大切にしていた妹――リリスを思った。


 妹の笑顔。


 妹の泣き顔。


 妹を守りたいという気持ち。


 それは、人間の子供たちを見た時にも同じように感じるようになっていた。


(傷つけたくない)


(傷つけられたくない)


 いつしか――


 アリスの目に、世界の遠くまで見通す力が宿っていた。


 千里眼。


 その能力は魔王軍に知られた。


 魔王軍への加入を拒絶したアリス。


 だが――


『リリスの安全を保証してほしいか?』


 その言葉に、抗うことができなかった。


 妹の命を盾にされ――


 アリスは魔王軍へ入った。


 そして与えられた任務。


 フェンリルの子――フリルを拉致すること。


『フリルを連れてくれば、お前にもリリスにも手は出さない』


 そう言われた。


 以前のアリスなら、簡単にこなせた任務だった。


 でも――


 できなかった。


 フリルの笑顔を見た。


 一緒にいる子供たちを見た。


 そして気づいた。


 自分はもう、昔の自分ではない。


(……どうして)


(どうして私は……)


 胸が痛い。


(いっそ……)


(死んでしまった方が楽なのかな)


(リリス……)


(フリル……)


(ごめんなさい……)


     ◇


「……っ!」


 アリスが目を開けた。


 目の前には、コラソンがいた。


「……死なせない」


「……え?」


 コラソンはマルギスを睨んでいた。


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