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この世界の理不尽に耐えられず、心から願ったら異世界の空に放り出されたのだが???  作者: はるのひ


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20/24

第20話 ガルドア王国

ソンチョの息子の話を聞き終えた後も、コラソンの胸には重いものが残っていた。


 ――奥歯を噛み締める。


 もっと強くならなければ。


 そう思いながらも、今は立ち止まっている時間はない。


 その日の夜。


 コラソンたちは、村を出るとすぐに高速魔導馬車へ

乗り込んだ。


 目的地は――ガルドア王国。


 イリスのダンジョンで起きた異変。


 そして、世界各地で起こり始めている魔物の異常。


 それを確かめるためだった。


 魔導馬車は、夜の街道を高速で駆け抜けていく。


 窓の外を流れていく景色を眺めながら、

コラソンは静かに座っていた。


 車内は暗く、仲間たちも次々と眠りについている。


「……すぅ……」


 メルの寝息。


 その隣ではエマも眠っている。


 しばらくすると――


「……いや……」


 メルの身体が小さく震えた。


「……やめて……」


「メル?」


 コラソンが振り向く。


 メルは眠ったまま、苦しそうに顔を歪めている。


「……コラソン……」


 その声に、コラソンはそっと手を伸ばした。


「大丈夫だ」


 手を握り頭を優しく撫でる。


 ゆっくり。


 何度も。


「ここにいるから」


 すると、メルの表情から少しずつ力が抜けていった。


「……ん……」


 やがて、穏やかな寝息に戻る。


「……よかった」


 コラソンが小さく息を吐いた、その時。


「……ごめんなさい……」


「…ごめんなさい…。」

 

今度はエマだった。


 エマも悪夢にうなされている。


「エマ」


 コラソンは同じように、エマの頭を優しく撫でる。


「大丈夫だよ」


 エマの身体から震えが消えていく。


「……コラソン……」


「ああ」


「……いる?」


「いるよ」


「……そっか……よかった…。」


 エマは安心したように微笑み、そのまま眠りについた。


 コラソンは二人の寝顔をしばらく見つめていた。


 その横顔は、普段の少年らしい表情とは違っていた。


 静かで。


 穏やかで。


 どこか、大人びている。


 その様子を、少し離れた席からアルファとフローレが

見ていた。


「……時々、ああいう顔をするわね」


 アルファが小さく呟く。


「ええ」


 フローレも頷く。


「普段は年相応なのに……」


 二人はそれ以上、何も言わなかった。


 魔導馬車は夜の闇を駆け抜けていく。


 そして時刻はお昼頃


「……見えてきましたよー!」


 御者台からセリナな声。


 コラソンが窓の外を見る。


 巨大な城壁。


城壁を囲む水のお堀


馬車を検問所に預けて入国手続きへ。


検問所の獣人が驚く


「S級冒険者6人のパーティなんて聞いた事ないな…。」


冒険者、しかもS級冒険者とゆう事もあり検問所はあっさり通過。


 その向こうには、数え切れないほどの建物が並んでいる。


「ここが……」


 コラソンは目を輝かせた。


「ガルドア王国!」


 馬車が街へ入る。


 そこには、今まで見たことのない光景が広がっていた。


「……獣耳!」


「モフモフ!」


「パヤパヤ!」


 コラソンの目が輝く。


 人間の姿をした者たちの中に、獣の耳を持つ者がいる。


 尻尾を揺らして歩く者。


 鋭い爪を持つ者。


 だが、それ以外は人間とほとんど変わらない。


「すげぇ……」


「コラソン、そんなに見ると失礼ですよ」


 セリナに注意される。


「いや、だって獣耳…!」


「コラソン、落ち着いて!」


 メルが呆れたように言う。


(モフモフ、パヤパヤ?)


 コラソンは必死に視線を逸らす。


 だが、気になる。


 犬なのか。


 猫なのか。


 狼なのか。


 耳と尻尾、爪だけでは判断するのは難しい。


「……あの人は何の獣人なんだろう」


「聞けばいいんじゃない?」


 エマが笑う。


「いや、いきなり聞くのは失礼だろ」


 そんなことを話しながら、コラソンたちは冒険者ギルドを探していた。


「……あれ?」


「どうしたの?」


「ギルド、どこだ?」


 コラソンが辺りをキョロキョロと見回す。


 すると――


「旅の人?」


 ふと視線を下に向けると


 そこにいたのは、一人の小さな獣人の少女だった。


 獣耳。


 ふわふわの尻尾。


そしてパヤパヤ。


 そして、明るい笑顔。


「冒険者ギルドを探してるの?」


「そうなんだ」


「じゃあ、ぼくが案内するよ!」


「ぼく?」


 コラソンが首を傾げる。


「うん! ぼく、旅の人に街を案内する仕事をしてるんだ!」


 人懐っこい笑顔。


 コラソンはすぐに警戒を解いた。


「じゃあお願いしようかな?」


「もちろん!」


 少女は元気よく走り出す。


「ぼく、フリル!」


 これが――


 コラソンたちとフリルの初めての出会いだった。


     


 フリルに案内され、冒険者ギルドへ到着する。


「ここだよ!」


「助かった」


 中へ入る。


「おお……」


 ギルドは賑わっていた。


 人間だけではない。


 獣人の冒険者も数多くいる。


 そして受付には――


「いらっしゃいませニャ!」


 猫耳の少女が笑顔で迎えてくれた。


 コラソンは固まる。


「……」


「どうしましたニャ?」


「いや……」


 獣耳。


 尻尾。


 そして――


「ニャ」


 コラソンは確信した。


絶対猫の獣人だ…。


(でもなんでバニーガールの様な格好なんだ?猫なのに…。)


「セリナ、これを」


 セリナが一通の手紙を取り出した。


「ゼノス様から預かってきました」


「お預かりしますニャ」


 受付嬢ルナが手紙を受け取る。


 しばらくすると、奥から大柄な男が姿を現した。


 頭には獅子の耳。


 鋭い目。


 鍛え抜かれた身体。


「俺がギルド長のファングだ」


 獅子の獣人。


 ファングは手紙を受け取り、内容を確認する。


 そして――


「……やはりイリスでも異変があったのか」


 表情が険しくなる。


「はい」


 セリナが頷く。


「こちらでも、すでに異変を確認している」


 ファングは続けた。


「魔物の出現場所、数がおかしい。強さも、動きも以前とは違う」


「やっぱり……」


「S級冒険者を含むパーティも何組か動いている」


 その言葉に、コラソンが反応する。


「S級が何組も?」


「ああ。何組かは近くの村へ調査に出ている」


 ファングが尋ねる。


「イリスから来たんだろ? 途中に村はなかったか?」


「ありました」


 コラソンは答える。


「そこでグラトンウルフの群れに遭遇しました」


「……グラトンウルフ?」


「そして、凶暴化グラトニックウルフがいました」


 ファングの表情が変わる。


「グラトニックウルフ……」


 低く呟く。


「ただ事じゃないな」


 しばらく考えた後、ファングは言った。


「まずははるばる異変を知らせに来た事。」


「礼を言う…。」


「しかもS級冒険者6人とは頼もしい限りだ。」


「まずは調査に出ている連中が戻るのを待つ」


「他のパーティとも情報を共有して、連携を取った方がいいですね」


「ああ。作戦を立てるのは、それからだ」


 こうしてコラソンたちは、一旦ギルドを後にした。


 ギルドの外に出る。


「……あれ?」


 そこにはフリルが待っていた。


「待っててくれたの?」


「うん!」


 フリルは笑う。


「まだ街を全部案内してないから!」


 そのままフリルの案内で、コラソンたちはガルドア王国を歩き始めた。


 大きなガルドア城。


 活気のある市場。


 様々な種族が暮らす街並み。


 そして――


「これは?」


 コラソンが足を止めた。


 広場に、大きな石像が立っていた。


 女性の姿をした石像。


「救世の像だよ」


「救世?」


「うん!」



 フリルが頷く。


「昔、世界を守ってくれた人なんだって」


 詳しいことは誰も知らない。


 ただ、人々はその像を見てこう思っている。


 ――世界を守ってくれた人物の像。


 それだけだった。



 市場では、様々な料理が売られていた。


獣人の国。肉料理が豊富。食材が新鮮なこともあり生肉料理 が豊富だった。


「ガルドア王国牧場育ち サカマツ牛のユッケ、霜降りロースの タタキ、ハツの刺身はどうだい?」


「ここでしか食べられないよー!」


この世界に牛がいるなんて知らなかった。


動物は全て魔物だと思っていたが違う様だ。


「死ぬほどうまい!!!」


「生肉最高〜!」(個人の感想です笑)


「これも美味い!」


「こっちも食べてみよう!」


 フリルも一緒になって食べ歩く。


 その途中。


 コラソンは、ずっと気になっていたことを口にした。


「ねえ、フリルって……何の獣人なの?」


「ぼく?」


「うん」


 フリルは自分の耳を触る。


「…………犬だよ!」


「犬……」


 コラソンの目が輝く。


「かわいーなぁ……」


「……?」


 コラソンは完全にデレデレになっていた。


「コラソン……」


 メルが呆れる。


「顔が緩みすぎ」


「だって犬だぞ?」


「意味分からない」


(確かにかわいいけど…。)


 フリルは楽しそうに笑っていた。


 街を歩いていると、フリルが一軒の宿を指差した。


「ガルドアは地熱が豊富だから、温泉宿がいっぱいあるんだよ!」


「お、お、温泉……?」


 コラソンの目が輝く。


 転生してからというもの。


 この世界には、湯船に浸かってゆっくり身体を温める文化がほとんどなかった。


「温泉……!」


 胸が躍る。


 湯船。


 温かいお湯。


 そして――


 仲間たちが温泉に入っている姿を想像してしまう。


「……」


「コラソン?」


「……最高じゃないか」


「何が?」


「いや、何でもない!」


 コラソンは一人で興奮していた。



「じゃあ、ぼくはそろそろ行かないと」


 宿の前でフリルが言う。


「今日はありがとう」


 セリナが小さな袋を渡した。


「これ、お礼です」


「えっ!こんなに?」


 フリルの顔が明るくなる。


「ありがとう!」


「こちらこそ、案内してくれて助かりました」


「うん!」


 フリルは嬉しそうに笑う。


「またね!」


 そう言って走っていった。


「いらっしゃい」


 宿の女将は、狸の獣人だった。


「シアンです」


 コラソンたちは二部屋を借りた。


 コラソン、メル、エマ。


 アルファ、フローレ、セリナ。


 二部屋に分かれて荷物を置く。


「とりあえず酒場へご飯でも食べに行こうか」


 アルファの提案で、一行は宿の酒場へ向かった。


「いらっしゃいませ!」


「……ん?」


 料理を運んできた少女を見て、一同が固まる。


「フリル!?」


「あ……」


 フリルも少し驚いた顔をする。


「ここで働いてたのか?」


「うん……」


 少し照れながら、フリルは料理を置く。


「ごゆっくりどうぞ」


 そのまま仕事へ戻っていった。


「昼間も働いて、夜もか……」


 コラソンが呟く。


 しばらく歓談していると――


「フリルちゃん、そろそろ上がりな」


 酒場の店主、ミオが声をかけた。


「はい!」


 ミオは袋を一つ渡す。


「それと、これ持っていきな」


「ありがとうございます!」


 フリルは袋を抱える。


「急がなくちゃ」


 そしてコラソンたちとミオに頭を下げる。


「お疲れ様でした!」


 フリルは店を出ていった。


 酒場から宿へ戻る途中。


「……あれ?」


 路地裏に、フリルの姿があった。


 その周りには、何人もの孤児たち。


「これ、食べて」


「ありがとう!」


 フリルは、さっきミオからもらった食糧を子供たちに分けていた。


「……優しいな」


 コラソンが呟いた。


 その時だった。


「おい、嬢ちゃん」


 一人の酔った獣人が絡んできた。


「そんなガキどもに飯やってどうするんだ?」


「……やめてください」


「いいじゃねぇか。俺と遊ぼうぜ?」


「嫌です」


「いいから――」


 しつこく迫る。


 コラソンが一歩踏み出そうとした。


「待て」


 アルファが止める。


「誰か来た」


 路地の奥から、一人の少女が歩いてくる。


 黒から紫へと変わる長い髪。


 紫色の瞳。


 その少女は、酔っ払いの前で足を止めた。


「……今すぐ消えなさい」


「なんだ、このガキ」


 酔っ払いが笑う。


「お前が俺と遊んでくれるのか?」


 その瞬間。


 少女の瞳が細くなった。


「……」


 空気が変わる。


 まるで、空間そのものが凍りついたようだった。


 少女から放たれた圧に、酔っ払いの顔が引きつる。


「……っ」


 息ができない。


 身体が動かない。


 目の前の少女が――


 とてつもなく恐ろしい存在に見えた。


「……ひっ!」


 酔っ払いは耐えきれず、逃げ出した。


 静寂が戻る。


「アリス姉ちゃん!」


 フリルが嬉しそうに駆け寄った。


「ありがとう!」


「……うん」


 アリスは小さく笑った。


 孤児たちもアリスに駆け寄る。


「アリス!」


「アリス姉ちゃん!」


 まるで姉のように慕っている。


 その姿を、コラソンは黙って見ていた。


 先ほどまでの凍るような瞳。


 けれど、その奥にあったもの。


 コラソンには――


 優しさに見えた。


「……あの子」


 コラソンは、アリスを見つめる。


「どこかで……」


 胸の奥に、微かな引っ掛かりが残った。


 初めて会ったはずなのに。


 なぜか――


 知っているような気がした。


 そしてアリスもまた。


 頭の中を葛藤が行き交う。


ヨルムンガンドからの指令はフリルの拉致


 ――私は悪魔なのに。この子達の笑顔を奪う事なんて出来ない。


私はなんで悪魔なんかに生まれたんだろう…。

 

 夜のガルドア王国。


 コラソンたちはまだ知らない。


 目の前にいる少女が、かつてメルの前に現れた少女だということを。


 そして――


 彼女が魔王軍の幹部。


 七魔皇、第七位――アリスであることを。

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