第18話 共喰い
グラトニックウルフの咆哮が、村中に響き渡る。
「来るぞ!」
アルファが叫ぶ。
しかし――
グラトニックウルフは六人へ向かわなかった。
グラトニックウルフは、倒れたグラトンウルフの前で足を止める。
「まさか……」
アルファが呟く。
「倒れた仲間を心配しているのか?」
その瞬間――
ガブッ!!
「なっ!?」
グラトニックウルフが飛びかかる。
ガブッ!!
巨大な顎がグラトンウルフへ食らいついた。
「グルル……」
1匹…2匹…………5匹
肉を食らうたび、身体から黒い魔力が噴き出していく。
「何……あれ…怖い…」
エマが怯えた声を漏らす。
グラトニックウルフの身体が、ゆっくりと膨れ上がっていく。
筋肉が盛り上がり、爪がさらに鋭く伸びる。
「……力が増している」
アルファが呟く。
その瞬間だった。
グラトニックウルフが地面を蹴った。
――ドンッ!!
先ほどとは比べ物にならない速度。
「速い!」
セリナが咄嗟に腕を構える。
ガキィン!!
爪を受け止めた瞬間――
「ぐっ……!」
セリナの身体が大きく後ろへ吹き飛ばされた。
「セリナ!」
「大丈夫よ!」
セリナは地面を削りながら着地する。
「……でもさっきより、明らかに重い」
アルファが目を細める。
「なら、もう一度止める!」
フローレが杖を掲げる。
「――アイス・ランス!」
氷槍が一斉に飛ぶ。
グラトニックウルフは身を低くしてかわす。
「また速くなってる……!」
メルが驚く。
「ウェイト!」
重力がグラトニックウルフを捉える。
「グッ……!」
一瞬、身体が沈む。
しかし――
「……嘘」
グラトニックウルフが、重力を振り切った。
「ウェイトが……効きにくくなってる」
メルの顔が強張る。
アルファが叫ぶ。
「全員、距離を取れ!」
グラトニックウルフが地面を蹴る。
今度は一瞬でアルファの目の前まで迫った。
「――ッ!」
ザシュッ!!
確かに斬った。
だが、グラトニックウルフは止まらない。
そのままアルファへ爪を振り下ろす。
「アルファ!」
セリナが割って入り、拳で爪を弾き飛ばした。
「こいつ……戦いながらどんどん強くなってる!」
その言葉に、全員がグラトニックウルフを見る。
食らった魔獣は5匹。
それだけなのに――
速度。
力。
耐久力。
すべてが先ほどとは違う。
そして胸元では――
黒い魔石が、さらに強く輝いていた。
「……まさか」
コラソンが呟く。
「魔獣を食らうことで、あの魔石が力を与えている……?」
グラトニックウルフが、再び咆哮する。
「グォォォォォッ!!」
その姿は、もはや最初に見た時とは別の魔獣のようだった。だが、グラトニックウルフの動きは速い。
あれだけの巨体でありながら、一瞬で間合いを詰めてくる。
「なら、まず動きを止める!」
フローレが杖を掲げた
「――フロストバインド!」
無数の氷の鎖がグラトニックウルフへ向かって飛んでいく。
「グルァッ!」
グラトニックウルフが横へ跳ぶ。
氷鎖を次々とかわしていく。
「そこ!」
メルが手を伸ばした。
「――ヘヴィバインド!!」
グラトニックウルフの身体に重力がかかる。
「グッ……!」
一瞬、動きが鈍る。
「今だ!」
アルファとセリナが同時に飛び出した。
ザシュッ!!
「おらぁっ!」
ドカン!!
アルファの斬撃とセリナの拳が、ほぼ同時にグラトニックウルフへ叩き込まれる。
「グルァァッ!」
グラトニックウルフが大きくよろめいた。
「エマ!」
「うん!」
エマが手を前へ伸ばす。
「サラ!」
炎が一気に膨れ上がる。
「いっけぇ!」
ゴォォォッ!!
巨大な火球がグラトニックウルフへ飛んでいく。
しかし――
「避けた!」
火球が直撃する寸前、グラトニックウルフが身体を捻った。
火球はそのまま横を通り過ぎていく。
「まだ!」
メルが叫ぶ。
「――ウェイトダウン!!」
メルの重力魔法が、飛んでいく火球へとかかる。
「えっ!?」
エマが驚く。
火球の軌道が変わった。
真っ直ぐ。
グラトニックウルフへ向かって。
「当たって!」
ドゴォォォン!!
「グルァァァァッ!!」
今度こそ直撃。
炎がグラトニックウルフの巨体を包み込む。
「効いてる!」
エマが声を上げる。
煙が晴れる。
グラトニックウルフの身体には、いくつもの傷が刻まれていた。
だが――
倒れない。
「……まだ立つのか」
セリナが息を呑む。
グラトニックウルフが唸る。
「グルルル……」
そして次の瞬間。
「グォォォォォッ!!」
炎に包まれたグラトニックウルフ。
全身は傷だらけだった。
それでも――倒れない。
「グル……ァ……」
焼け焦げた身体を引きずりながら、再びこちらへ向かってくる。
「まだ来るの……?」
エマが息を呑む。
グラトニックウルフが大きく地面を蹴った。
その瞬間――
「……もういい」
コラソンが呟いた。
一歩。
次の瞬間には、グラトニックウルフの懐へ入り込んでいた。
「――そこ」
視線の先にあるのは、胸に埋め込まれた黒い魔石。
アルマが静かに閃く。
――スッ。
「……!」
誰も声を出せなかった。
斬ったのは――
グラトニックウルフの身体ではない。
胸に埋め込まれた、黒い魔石だけ。
カラン……。
黒い魔石だけが、綺麗に斬り落とされた。
「…………」
グラトニックウルフの動きが止まる。
胸から黒い魔力が消えていく。
そして――
グラトニックウルフの巨体が、ゆっくりと縮み始めた。
「……どうなってるの?」
メルが呟く。
やがてそこに立っていたのは、先ほどまでの巨大な魔獣ではなかった。
ただのグラトンウルフほどの大きさになっている。
グラトニックウルフは戸惑うように仲間の死骸と自分の身体を見つめた。
そして――
コラソンたちを一度だけ振り返る。
「グァ…ァルガ…オウ?」
コラソン
「…!?」
「えっ?」
その目に、先ほどまでの狂気はなかった。
グラトニックウルフは何もせず、ゆっくりと森の奥へ歩いていく。
誰も追わなかった。
ただ、その背中を見送る。
「……戻っていった」
エマが小さく呟く。
アルファは斬り落とされた黒い魔石を見つめていた。
「やはり……」
フローレも静かに頷く。
「魔石が、あの子を暴走させていたのね」
コラソンは森の奥へ消えていくグラトニックウルフを見つめる。
「ねぇみんな、今あの魔獣最後…」
「ありがとうって言ったよね?」
一同
「プッ!ハハハハハッ!魔獣が喋るわけないじゃないか!笑」
「いやでもはっきりじゃなかったけど……」
「グァルガトウみたいな。」
一同再び爆笑。
「まぁコラソンが言うならそうゆう事にしておこうか笑」
(なんか恥かいた気分…)
(聞こえたんだけどな…汗)
「……あの」
「ワーー!!」
突然、背後から声をかけられ、コラソンは思わず飛び上がった。
「び、びっくりした……!」
慌てて振り返る。
そこには、村人たちが立っていた。
どうやら、魔獣がいなくなった事を確認しこちらへ近づいてきていたらしい。
先頭にいた村長が、申し訳なさそうに笑う。
「驚かせてしまいましたかな?」
「い、いえ……ちょっと考え事をしていて……」
コラソンは照れくさそうに頭を掻いた。
村長が、深く頭を下げた。
「わたくし、このトッチュンの村の村長ソンチョと申します。」
一同(トッチュンの村の船長ソンチョ…笑)
(面白い響きだが笑ってはいけない)
「皆様本当に……ありがとうございました」
「皆さんが来てくれなければ、この村はどうなっていたことか……」
その後ろから、次々と村人たちが頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「助かりました!」
「本当にありがとう!」
コラソンは少し照れながら笑った。
「いえ、無事でよかったです」
ふと、コラソンの目に傷ついた村人が映った。
「……怪我してますね」
「これくらい、大丈夫です」
「でも、痛いでしょう?」
コラソンが手をかざす。
「――ヒーレストレーション!」
淡い光が村人を包み込む。
傷がみるみる消えていく。
「……!」
村人が驚いて自分の身体を見る。
「傷が……ない」
「よかった」
コラソンが笑った。
だが――
「……あれ?」
メルが後ろを振り返る。
「コラソン、あれ……」
コラソンも振り返る。
すると、先ほどの戦闘で壊れていたはずの家が――
ミシミシ……。
壊れた柱が元の位置へ戻り、割れた壁が繋がっていく。
「…………」
完全に元通りになった。
「え?」
コラソンが固まる。
セリナが呆然と呟く。
「……それ、もう魔法ですか?」
フローレも目を丸くする。
「治癒魔法って……建物まで治せるものだったかしら?」
(何より怖いのがこれだけの魔法を使って魔力量が全く減ってないのね…)
アルファまで苦笑する。
「やっぱりコラソンだな笑」
「えっと……」
コラソンは、村の中を見渡した。
壊れていた建物は、元通りになった。
傷ついた村人たちも、癒すことができた。
「……なら」
コラソンの視線が、一人の村人へ向く。
戦いの中で命を落とした者。
「もしかしたら……」
コラソンは駆け寄った。
その身体に手を添える。
「……もしかしたら、できるかもしれない」
淡い光が、コラソンの手から溢れ出す。
「……お願いだ」
もっと強く。
もっと――。
光が村人の身体を包み込む。
けれど。
「…………」
何も起こらない。
傷は塞がっている。
身体も綺麗になっている。
それでも――
その人が目を開けることはなかった。
コラソンは自分の手を見る。
「……なんで」
コラソンの手から、力が抜ける。
「建物だって治せたのに……」
拳を強く握りしめる。
「どうして……命は戻せないんだよ……」
悔しさで声が震える。
その時――
アルファが、静かにコラソンの肩へ手を置いた。
「コラソン……」
「……」
「失った命は、どんな力を持っていても戻せない」
アルファの言葉に、コラソンは俯いたまま耳を傾ける。
「残念だが……それがこの世界の理だ」
反対側から、フローレもそっと肩に手を添える。
「あなたが悪いわけじゃないのね。」
セリナもコラソンの肩に手を置いた。
「そうよ。救えなかったんじゃない」
「今、生きている人たちを救ったんだ」
その言葉に、コラソンの目が僅かに揺れる。
すると――
メルがコラソンの両手を、ぎゅっと握った。
「コラソン……」
エマも反対側から、その手を包み込む。
「……大丈夫だよ」
小さな手の温もりが伝わってくる。
アルファが続ける。
「だからこそ、生きている今を必死に生きるんだ」
「だから命は尊い物なんだよ」
「…………」
コラソンは涙しながらゆっくりと顔を上げた。
仲間たちが、自分を囲んでいる。
誰一人として責めていない。
ただ、そばにいてくれている。
「……うん」
コラソンは目元を拭い、少しだけ笑った。
「……みんな、ありがとう」




