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この世界の理不尽に耐えられず、心から願ったら異世界の空に放り出されたのだが???  作者: はるのひ


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第17話 イリスから世界へ

挿絵(By みてみん)


 翌朝アルベルトが高速魔導馬車を用意してくれていた。


高速魔導馬車は、街道を駆け抜けていた。


 普通の馬車なら何日もかかる距離を、魔力を動力にした車体が驚くほどの速度で進んでいく。


 窓の外では、草原が流れていく。


「……速い。」


 コラソンは窓の外を眺めながら呟いた。


「これなら、ガルドア王国までかなり早く着きそうですね。」


「だから高速魔導馬車なのよ。」


「手綱のこの部分に魔石をはめて馬を強化するの」


 御者席からセリナの声が聞こえる。


「もっと速くできるけど、揺れちゃうからな。」


「もっと速くできるんですか!?」


 コラソンが身を乗り出す。


「やってみる?」


「やめたほうがいいと思う。」


 メルが即答した。


「絶対ろくなことにならない。」


「えー?」


 セリナが笑う。


 フローレは座席に身を預けながら本を読んでいた。


「あなたたち、少し静かにできないの?」


「だって暇なんだもん。」


セリナ

「はい。メルちゃんの好きなリバーフィッシュのハンバーガーどうぞー笑」


 メルが答える。


「やった!これ美味しいんだー。」


ピタリとメルがおとなしくなる。


コラソン


(子供…。)


「まだ出発してそんなに経ってないでしょう。」


 アルファが苦笑する。


 その隣ではエマが窓の外を眺めていた。


「……。」


「エマ?」


 コラソンが声をかける。


「どうしたの?」


「……広い。」


 エマは外を見たまま呟いた。


「森も……空も。」


「そうだね。」


 コラソンも窓の外を見る。


「こんな経験初めてだ…。」


「仲間との先の見えない旅…。」


「でもなんだか嬉しいな…。」


「みんなとなら…。」


 イリスを離れてから、景色は少しずつ変わっていた。


 広い草原。


 遠くに見える山々。


 その向こうには、まだ見たことのない土地が広がっている。


「旅って……こんな感じなんですね。」


 コラソンが笑う。


 メルが隣で頷く。


「私もこういう旅、好きかも。」


「私も。」


 エマが小さく笑った。


 六人になってから初めての旅。


 まだ少しだけ不思議な感覚だった。


 しばらく進んだところで、セリナが馬車を止めた。


「そろそろ休憩しよう。」


 六人は馬車を降りる。


 近くには小さな川が流れていた。


「わぁ……!」


 メルが川へ駆け寄る。


「綺麗!」


 エマもその隣へ。


 コラソンは川辺に座り、手を水につける。


「冷たい。」


「気持ちいいね。」


 三人がそんな時間を過ごしている間、アルファは周囲を見渡していた。


「……。」


 フローレもその視線に気づく。


「どうしたの?」


「少し気になることがある。」


「何かいるの?」


 セリナが聞く。


「いえ。」


 アルファは首を横に振る。


「逆よ。」


「逆?」


「……鳥の声がしない。」


 その言葉に、全員が周囲を見る。


 確かに。


 川のせせらぎは聞こえる。


 風が木々を揺らす音も聞こえる。


 だが――


 森の中から聞こえてくるはずの生き物の声が、ほとんどなかった。


「……静かですね。」


 コラソンが立ち上がる。


 その時。


「誰かいるのか!?」


 遠くから声が聞こえた。


 六人が振り向く。


 街道の先から、一台の荷馬車がこちらへ向かってくる。


 御者席には、一人の男。


 その顔には疲労が浮かんでいた。


「どうしたんですか?」


 コラソンが近づく。


「いや……助かった。」


 男は馬車を止めた。


「この先に村があるんだが……最近、どうも様子がおかしくてな。」


「おかしい?」


 アルファが尋ねる。


「ああ。」


 男は周囲を気にするように声を落とした。


「森から魔物が出てくるようになったんだ。」


「魔物が?」


 メルが聞き返す。


「この辺りじゃ、昔から魔物はいる。でもな……」


 男は首を振る。


「今まで森の奥にいた奴らまで、街道の近くまで出てくるようになった。」


 フローレの表情が変わった。


「それは、いつから?」


「……ここ数週間だ。」


「数週間……。」


 アルファが考え込む。


「何か変わったことは?」


「それが……。」


 男は少し迷ってから答える。


「夜になると、森の奥から妙な音が聞こえるんだ。」


「音?」


「ああ。」


 男は震えるように言った。


「地面の奥から……何かが唸ってるみたいな音だ。」


 コラソンは黙って森を見る。


 何かが起きている。


 そんな気がした。


「村へ行けば、詳しい話が聞けるかもしれません。」


 コラソンが言う。


「そうね。」


 アルファも頷く。


「もしか冒険者の方達ならどうか力をお貸しください。」


「村人たちも怖がっている…。」


 それを知って、見て見ぬふりをすることはできなかった。


コラソン

「行こう。」




 アルファが呼ぶ。


「大丈夫です。」


アルファ


「分かったわ。異変が起きているなら何か分かるかもしれない…。」


 六人は再び馬車へ乗り込んだ。


 目的地は変わらない。


 ガルドア王国へ向かう。


 ただ、その途中にある小さな村へ立ち寄ることになった。


 魔導馬車が再び走り出す。


 森が近づいてくる。


 その時だった。


「……あれ?」


 エマが窓の外を指差した。


「何?」


「あそこ……。」


 木々の間。


 ほんの一瞬だけ――


 黒い影が動いた。


 コラソンが目を凝らす。


「……何もいない。」


「気のせいかな。」


 メルが言う。


 だが、アルファは違った。


「いいえ。」


 アルファの目が鋭くなる。


「何かいる。」


 フローレも窓の外を見る。


「かなり遠いわね。」


 セリナが御者席から振り返る。


「止める?」


「まだいい。」


 アルファが答えた。


「村へ急ぎましょう。」


 魔導馬車は森へ向かって走り続ける。


 誰も気づいていなかった。


 木々の奥。


 誰かが六人の乗る馬車を、じっと見つめていることに。


 そして――


 その影は、ゆっくりと姿を消した。


魔導馬車は、森の中を進んでいた。


 道幅が狭くなり、木々が両側から迫ってくる。


「……この先ね。」


 アルファが呟く。


 先ほど出会った商人の話では、この森を抜ければ小さな村がある。


 だが――


「止めて!」


 突然、アルファが叫んだ。


 セリナが魔導馬車を急停止させる。


「どうしたの?」


「前。」


 アルファが指差す。


 街道の先。


 何かが倒れている。


 コラソンたちが馬車を降りる。


「……人?」


 そこには、一人の男が倒れていた。


 近づくと、男はかすかに動いた。


「た……助け……。」


「大丈夫ですか!?」


 コラソンが駆け寄る。


「村が……。」


 男は震える手で森の奥を指差した。


「魔獣が……村に……。」


 その瞬間。


 森の奥から――


 低い唸り声が響いた。


「グルルル……。」


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 やがて、木々の間から無数の赤い瞳が現れる。


「……囲まれた。」


 メルが呟く。


 木々の隙間から姿を現したのは――


 巨大な狼だった。


 普通の狼より遥かに大きい。


 鋭い牙。


 黒い毛。


 そして、異常なほど発達した前脚。


「グラトンウルフ……。」


 フローレが呟く。


「知ってるんですか?」


「ええ。」


森の奥から、次々と魔獣が姿を現した。


「グラトンウルフ……!」


その数は、十や二十ではない。


木々の隙間から、さらにその奥から。


まるで森そのものから湧き出してくるかのように、グラトンウルフの群れが押し寄せてくる。


「多すぎる……!」


コラソンがアルマへ手を伸ばす。


だが――


「コラソン」


アルファが前へ出た。


「ここは私たちに任せてくれ」


「え?」


「これくらいなら問題ない」


フローレが隣に並ぶ。


「あなたたちは下がっていて」


セリナは拳を握り、ニッと笑った。


「先輩としていいとこ見せないとね!」


次の瞬間。


グラトンウルフの群れが、一斉に飛びかかった。


アルファが手を振る。


ズバァッ!!


風の刃が一直線に走り、迫り来るグラトンウルフをまとめて吹き飛ばす。


「アイス・ランス」


フローレが杖を掲げる。


無数の氷槍が空中に現れ――


「穿て」


ドドドドドッ!!


地面から突き出した氷、空中から迫る氷柱グラトンウルフは逃げ場がなく氷柱に刺さる。


「よしっ!」


セリナが駆け出す。


「どいてどいて!」


ドゴォン!!


拳が一匹の腹部に叩き込まれる。


その衝撃だけで、後ろにいた数匹までまとめて吹き飛んだ。


「……すごい」


メルが呟く。


エマも目を丸くしている。


「三人だけで……」


コラソンは倒れていくグラトンウルフを見ながら、思わず笑った。


「やっぱり強いな……」


アルファ、フローレ、セリナ。


この三人がいるだけで、あれほどの群れがまるで相手になっていない。


「頼もしいな」


そう呟いた――その時だった。


アルファがふと足を止めた。


「……いや」


その表情から笑みが消える。


「何かがおかしい」


「おかしい?」


コラソンが聞き返す。


アルファは周囲を見渡した。


「数が多すぎる」


フローレも頷く。


「それに……統制が取れていないわ」


セリナが倒れたグラトンウルフを見る。


「確かに。普通なら群れで獲物を追い込むはずなのに……」


グラトンウルフたちは、互いにぶつかり合いながら、それぞれ勝手に動いている。


獲物を奪い合い。


仲間を押し退け。


ただひたすらに目の前のものへ食らいつこうとしている。


「まるで……」


アルファが呟く。


「一匹一匹が、欲望のまま動いているようだ」


 アルファが森の奥を見る。


「まだ終わっていないわ。」


「え?」


 コラソンが振り返る。


「グラトンウルフが、ここまで群れで出てくること自体がおかしい。」


 その時。


「た、助けてくれ!」


 遠くから声が聞こえた。


 森の奥。


「村だ!」


 倒れていた男が叫ぶ。


「村が襲われてる!」


 コラソンたちは顔を見合わせた。


「急ぎましょう!」


 六人は一斉に走り出した。


 森を抜ける。


 その先に――


 小さな村が見えた。


 村人たちが逃げ惑っている。


 家の一つから煙が上がっている。


「魔獣だ!」


「逃げろ!」


「誰か助けてくれ!」


 恐怖に包まれる村。


 その光景を見たコラソンが足を止めた。


「なんて数だ……。」


 そして――


「行きましょう。」


 アルファが頷く。


「ええ。」


 六人は村へ駆け込んだ。


 すると、一匹のグラトンウルフが村人へ飛びかかった。


村へ入り込んだグラトンウルフの群れが、逃げ惑う村人たちへと襲いかかる。


「危ない!」


コラソンが叫ぶ。


だが、その瞬間――


「そこから動かないで!」


フローレが前へ出た。


杖を地面へ向ける。


「――フリーズ」


一瞬だった。


村の地面を白い冷気が走り、グラトンウルフの足元を包み込む。


「グルッ……!?」


足から身体へ。


瞬く間に氷が全身を覆っていく。


十数匹のグラトンウルフが、まるで彫像のように凍りついた。


「すごい……!」


村人たちから驚きの声が上がる。


フローレは振り返る。


「メル!」


「うん!」


メルが両手を前へ伸ばす。


凍りついたグラトンウルフの周囲の空間が、歪んだ。


「――ウェイト!!」


ズンッ!!


凍った魔獣たちが一斉に地面へ押し付けられる。


さらに――


「もっと……!」


重力が一気に強まった。


バキッ。


氷に亀裂が走る。


そして――


バリンッ!!


凍ったグラトンウルフが、氷ごと粉々に砕け散った。


「……!」


村人たちは言葉を失う。


フローレが小さく笑った。


「いい連携なのね、メル」


(この力私凍らせる意味あるのかな?笑)


「えへへ……フローレさんのおかげ」


その光景を見ていたセリナが笑う。


「やるじゃん、メル!」


アルファも頷いた。


「魔法の相性がいいな」


コラソンは砕け散った魔獣を見ながら、思わず感心する。


「凍らせて……重力で砕く」


「うん!」


メルが嬉しそうに頷く。


「これなら、みんなを傷つけずに倒せるから」


その言葉に、コラソンは微笑んだ。


「エマ!」


「うん!」


 エマが手を掲げる。


「サラッ!!いけー!!」


 炎が走る。


 魔獣たちの周囲だけを包み込み、逃げ道を塞ぐ。


「コラソン!」


「はい!」


 最後にコラソンが駆け抜けた。


 アルマが閃く。


 ――一閃。


 全ての魔獣が倒れた。


 静寂。


 村人たちは、誰一人として声を出せなかった。


「……終わった?」


 一人の村人が呟く。


 コラソンが刀を収める。


「はい。」


「……。」


「もう大丈夫です。」


 その言葉を聞いた瞬間。


 村人たちから歓声が上がった。


「助かった!」


「ありがとう!」


「魔獣を全部倒したぞ!」


「一体、何者なんだ!?」


 村人たちが六人を取り囲む。


「まさか……。」


 一人の老人が震える声で言った。


「S級冒険者……?」


 コラソンたちは顔を見合わせる。


 そして――


 六枚の冒険者証。


 そこに刻まれた文字。


 Sランク。


 それを見た村人たちの表情が変わった。


「S級が……六人……?」


 誰かが呟いた。


「そんな……。」


 村人たちは驚きながら、六人を見つめる。


 しかし――


 アルファだけは笑っていなかった。


 彼女は森の奥を見つめていた。


ズン……。


地面が揺れた。


「……何?」


もう一度。


ズン……。


今度は、はっきりと地面が震える。


森の奥から、何かが近づいてくる。


そして――


木々をなぎ倒しながら、巨大な魔獣が姿を現した。


「……でかい」


メルが息を呑む。


通常のグラトンウルフとは、明らかに違う。


一回りどころではない。


巨大な身体。


鋭く伸びた牙。


そして、全身から溢れ出す異常な魔力。


アルファが目を細める。


「……グラトニックウルフ」


「ボス……ってこと?」


コラソンがアルマを握る。


グラトニックウルフが低く唸る。


「グルルル……」


その胸元。


毛の隙間から――


黒い光が漏れていた。


「……あれは」


アルファの目が見開かれる。


「魔石……?」


胸の奥に埋め込まれた、禍々しい黒い魔石。


コラソンの脳裏に、あの光景が蘇る。


ヴァルタウロス。


あの魔獣の胸にも、同じものがあった。


「……まさか」


フローレが息を呑む。


「ヴァルタウロスと……同じ?」


セリナの表情から笑みが消える。


「また魔石を埋め込まれてるってこと……?」


アルファは答えない。


ただ、グラトニックウルフを睨みつける。


そして――


「……やはり」


静かに呟いた。


「こいつも、暴走させられているのかもしれない」


グラトニックウルフが空へ向かって咆哮する。


「グォォォォォォッ!!」


森全体が震えた。


「来るぞ!!」

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