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この世界の理不尽に耐えられず、心から願ったら異世界の空に放り出されたのだが???  作者: はるのひ


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第15話 世界の禁忌

挿絵(By みてみん)――マルギスとの戦いから数日後


イリスの街には、魔獣の暴走によって破壊された城壁の補修も進み、少しずつ日常が戻り始めていた。


悪魔という存在を目の当たりにした一部の人々の不安は消えていなかったが、コラソン達はいつものように冒険者ギルドへ向かう。


依頼を確認していると、セリナが声をかける。


「おはよう。みんな。」


「少し時間ある?」


「イリス国王様が、あなた達を城へ呼んでいるわ」


コラソン達は驚く。


「国王様が……俺達を?」


エマも不安そうにする。


「何か悪いことした……?」


メルが慌てて否定する。


「エマ、何もしてないよ」


セリナは微笑む。


「心配しなくて大丈夫」


「たぶん……あなた達に聞きたいことがあるのだと思う」


「私もギルド長のゼノスも呼ばれているのよ。」


以前、城の敷地内にある魔法師団の建物へ訪れたことはあった。


フローレ達と出会った場所。


しかし――


国王様がいる本城へ招かれるのは初めてだった。


イリス城へ向かう一行。


巨大な門を抜ける。


同じ城の敷地内でも、魔法師団の建物とは雰囲気が違った。


長い歴史を感じさせる石造りの塔。


王国の記録や古い書物が眠る場所。


案内された先には、広い謁見の間。


そこにはアルファ、フローレの姿もあった。


そして、一人の男性が立っていた。


「紹介しよう」


「このイリスの国を治めるお方――」


「アルベルト・イリス・フォン・レイヴェル・アストリア・ヴァルディオス・エルグランディア」


長い名を聞き、コラソン達は一瞬固まる。


(……長っ!!)


メルが小声で呟く。


「覚えられるかな……」


すると国王は微笑む。


「正式な名は長くてな」


「アルベルトで構わない。」



アルベルトは表情を変える。


「君達は先日、魔族、いや悪魔と遭遇したそうだな」


マルギス。


確認された魔族の存在。


世界中で、魔族はただの御伽話だと思われていた。


しかし、それは違った。


「彼は言ったそうだな」


「人間の憎しみや醜さが、我ら魔族の力になると」


コラソンは黙って頷く。



アルベルトは一冊の古い絵本を取り出す。


表紙には


『聖女と黒き魔族』


という文字。


メルが反応する。


「これ……知ってる」


「子供の頃、読んでもらった事がある」


絵本にはこう書かれていた。


昔、世界には人々を苦しめる悪い魔族がいた。


魔族は世界を闇に染めようとしていた。


そこへ一人の聖女が現れた。


聖女は仲間と共に戦い、魔族の王を封印した。


世界には平和が戻った。


そして――


悪いことをした魔族は封印され、世界は救われました。


めでたし、めでたし。


とゆう絵本。


しかし。


アルベルトは静かに言う。


「この物語には……続きがあるそうだ」


空気が変わる。


「だが、その続きを知ることは許されていない」


「これは世界の禁忌だからだ」


⸻


城の奥。


誰も近づくことを許されない場所。


古い扉の前に立つ。


扉には刻まれていた。


『この扉の先、封印の記録庫。王家の許しなき者、立ち入ることを禁ず。』


扉の先にあったもの。


暗い部屋の小さい机にその本はあった。


表紙には「聖女と黒き悪魔」

と書かれていた。

メルは「題名が少し違う…」と言った。


そこには絵本ではなく、聖女が仲間と共に魔王を討ち、悪魔を封印した物語が文字で綴られていた。


世界の破滅、魔力の暴走を狙い世界樹を狙った魔王軍。

全ての種族を率いて聖女は魔王を討った。


しかし魔王の力は消滅しなかった。


あまりにも強大だったため、七つに分けて封印するしかなかった。


その力は七つの漆黒の魔石へ封じられ、世界各地の洞窟最深部へ眠ることになる。


滅びゆく魔王は最後の力を振り絞る。


完全消滅を避けるため、七体の魔竜を生み出し魔石を守らせた。


ほどなくして洞窟に魔獣が出現し始める。


洞窟最深部では、漆黒の魔石が今も禍々しい魔力を放ち続けている。


その魔力は絶えることなく魔物を生み出し、


眷属は世代を重ねながら増殖していく。


そして魔獣が人を襲う。


人は恐怖する。


憎しみが生まれる。


悲しみが生まれる。


命が失われる。


その負の感情は再び漆黒の魔石へと吸い寄せられ、


封印された魔王の力を少しずつ蘇らせていく。


歴代の王はこの事実を禁書として封印した。


そして七つの洞窟の近くに街を築き、


冒険者ギルドを設立した。


そしてその洞窟をダンジョンとし冒険者育成に努めた。


表向きは魔物討伐。


だが真の目的は、


魔物の数を減らし、


魔石へ集まる負のエネルギーを抑え、


魔竜の動向を監視することだった。


長きにわたる戦いは終わり、世界に平和が訪れる。


人々は聖女を救世主と称え、英雄として讃えた。


聖女もまた、心から信じていた。


「これで、もう誰も悲しまなくて済む。」


しかし、その願いは叶わなかった。


時が経つにつれ、聖女は再び人々の争いを目にする。


権力を求める者。


弱者を虐げる者。


欲のために命を奪う者。


悪魔がいなくなっても、人の心から憎しみは消えなかった。


人の心は、何一つ変わっていなかった。


聖女は世界を嘆き、悲しみ。


静かに世界樹へ向かった。


その後、聖女は世界樹の頂から身を投げた。


それ以降聖女の消息は分からなくなった。


さらに王たちは、新たな問題に直面する。


聖女不在の今封印された悪魔の存在を知れば、必ずその力を欲する者が現れる。


封印を解き、悪魔の力を利用しようとする者。


それを止めようとする者。


被害を受けるのは民だ。


その争いは再び世界を混乱へ導き、悪魔復活の火種となる。


王たちは決断した。


悪魔の存在そのものを歴史から消す。


真実を封印し、子どもたちには


「悪い魔族は封印され、世界は救われました。」


という御伽話だけを戒めとして語り継ぐことにした。


長い年月を経て、悪魔と聖女は御伽話の中の存在となった。


そして禁書は封印された。


アルベルトは禁書を閉じる。


「私は王家の血を継ぐ国王だ。」


「……だが、この内容は今まで知らなかった。」


コラソン達は驚く。


「え……?」


「歴代の王が、この秘密を知っていたわけではない。」


「王位を継いでも、禁書を読むことは許されない。」


アルベルトは禁書の表紙に刻まれた紋章へ視線を落とす。


「この禁書が開かれるのは、ただ一つ。」


「世界に再び黒き影が現れた時。」


「そう、黒き影がトリガーだったんだ…。」


「それが三百年前から受け継がれてきた掟だ。」


マルギスの姿が脳裏をよぎる。


「私は魔族が現れたとの報告を受け、この禁書を開くことを決めた。」


部屋には、重い沈黙が残っていた。


誰も言葉を発することができなかった。


聞かされたのは、ただの昔話ではない。


三百年前、この世界を救った英雄の最後。


世界から消された真実。


そして今も続く、終わっていない戦い。



メルは俯いたまま、手を強く握る。


「……そんなの……」


小さな声が漏れる。


「聖女様は……世界のために頑張ったのに……」


「誰よりも世界を救いたかったはずなのに……」


その先の言葉が続かない。


⸻


エマも悲しそうに絵本を見る。


そこに描かれた聖女は、笑顔だった。


優しく。


希望に満ちた表情。


でも本当の聖女は、その裏で誰にも言えない孤独を抱えていたなんて。


「……かわいそう。」


エマが呟く。


「最後ずっと……一人で苦しんでたんだね。」


「どんな気持だったんだろう。」


フローレは目を閉じる。


「私達は……何も知らずに生きていたのね…」


「魔族はただの御伽話だと思っていた。」


「この世に魔力がある以上否定出来ない事なのに…」


「考えもしなかったのね…。」

⸻


アルファも珍しく言葉を失っていた。


長い時を生きるエルフでさえ知らなかった真実。


(いや、先代達は知っていても話せなかったんだろう……)


「300年前も世界樹を狙ったなんて事が…。」


世界の歴史から消された悲劇。


「……世界とは」


アルファが静かに呟く。


「これほどまでに、理不尽に作られている物なのか?」


⸻


セリナは拳を握る。


「聖女様は……救えなかったと思ったのかもしれない」


「でも……」


言葉を止める。


「少なくとも、今こうして平和に暮らせている人達がいる」


「それは、聖女様が戦った証なのに……」


ゼノス


「ギルド長の俺でも知らなかったなんて事が…。」


アルベルト

「それはどの国のギルド長も知り得ない事だ。」


誰もが思った。


もし自分が聖女の立場だったら。


同じように世界を救った後、自分の信じたものが崩れていく姿を見たら。


耐えられるだろうか。


⸻


コラソンは黙っていた。


頭の中に浮かぶのは、前世の記憶。


理不尽に傷つけられた日々。


誰にも理解されなかった孤独。


だからこそ分かる。


聖女が感じた悲しみの一部が。


コラソンは禁書の隣に置かれた古い絵本へ視線を向ける。


そこに描かれていた聖女。


白い髪。


優しい瞳。


誰かを包み込むような微笑み。


その瞬間。


胸の奥が締め付けられる。


「……あれ?」


頭の中に、一瞬だけ別の光景が浮かぶ。


この世界へ来る前。


最後に出会った女神。


優しく微笑んでいた彼女。


けれど、その表情の奥には


寂しげで深い悲しみがあった。


(似ている……)


(いや……)


(同じ……?)


しかし、その考えに辿り着く前に記憶は消える。


コラソンは戸惑いながら絵本を見る。


「……聖女様は」


静かに口を開く。


「世界を救えなかったんじゃないと思います」


全員がコラソンを見る。


「きっと……」


「誰よりも世界を救いたかったんだと思います」


アルベルトは黙って聞いている。


「でも、救えなかったものがあった」


コラソンは聖女の絵を見る。


「人の心……」


「救ったと思ってた世界が壊れていくのを見てられたなかったんだと思います…。」


「それが一番悔しかったんだと思います…。」


そして小さく呟く。


「……だから、あんな顔をしていたのかもしれない」


「え?」


メルが聞き返す。


「いや……」


この世界へ来る前。


最後に出会った、あの女神。


優しく微笑んでいたはずなのに――


その瞳は、どこか悲しそうだった。


「……女神様。」


なぜ今、あの表情を思い出したのか。


その理由を知る者は、まだ誰もいなかった。


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