第14話 悪魔
頭には漆黒の角
人を飲み込むようなドス黒く赤い瞳。
微かに見える口元の牙。
それ以外は普通の人間と大差ないように見える。
魔獣でも、魔物でもない。
見たことがない。
アルファが目を細める。
「……何者だ?」
フローレが息を呑む。
「まさか……。」
「我は魔王軍の幹部、七魔皇が一柱――**嘲笑のマルギス**。」
その名が森に響く。
セリナが眉をひそめる。
「魔族なんて御伽話でしか…?」
「クックック!そうか。三百年も経てば、我らは御伽話になってしまうのか…。」
「魔族?正確にはその呼び方などではない。我は…。」
「悪魔だ!!」
誰も信じられなかった。
マルギスは肩をすくめる。
「クックック…いい機会だ…。教えてやろう…。」
「三百年前、この世界は人間族、エルフ族、獣人族、ドワーフ族、そして我ら悪魔族の五種族が存在していた。」
「我ら悪魔族は世界を支配しようと凄まじい勢いで世界を蹂躙した…。」
「やがて世界の半分ほど掌握した時…。そいつは現れた。」
「一人の聖女だった…。」
一同
(聖女…?)
「人間、エルフ、獣人.ドワーフ……すべての種族を導き、力の大半を使い魔王様は力を封印された。」
「そこのエルフ。世界にダンジョンがいくつあるか知っているか…?」
アルファ
「ダンジョンは7つだが…。」
「クックック!そうだ…。7つだ…。」
「魔王様の力があまりに強大だったゆえに聖女は魔王様の力をこの世界の7つのダンジョンにバラバラに封印したのだ…。」
「我らは力も実態を失い、陰に潜むしかなかった…。」
「欲望…。」
「憎しみ…」
「嫉妬…」
「戦争…。」
「奴隷…。」
「種族同士の軋轢」
「人の心が再び世界を闇で満たす、その時まで…。」
「三百年――。クックック!」
「なんと我らに心地いい世界になった物だ…。」
「人間どもの愚かさが、我らに力を与えこの世界へ呼び戻したのだ。」
「魔王様の封印を解くのは膨大なエネルギーと貴様らの負のエネルギーが必要だ…魔石、世界樹の力とかな…。」
アルファ
「なんだと?」
マルギス
「クックック!さて……。」
「全てを今話す気はない。話しすぎたな。」
「貴様ら程度に、これ以上知る資格はない。」
アルファが一歩前へ出る。
「……お前だったのか…。」
マルギスは肩をすくめる。
「5年前世界樹の力を奪いに行った時貴様もいたのか?」
その一言で、アルファの表情が凍りつく。
「エルフの悪あがきで世界樹は奪えなかったがな…。」
「エルフは言い伝えで代々世界樹を守るように決められていた。あの襲撃のせいで私たちの故郷は滅んだんだぞ!!!」
「クックック!……どの種族がどうなろうと我の知った事ではないわ。」
アルファの魔力が一気に膨れ上がる。
セリナが拳を構える。
「アルファ! 挑発に乗るな!」
フローレも静かに杖を構えた。
「…ギリッ」
フローレも悔しさをのみこむ。
マルギスはゆっくりと両腕を広げる。
「クックック!ならば見せてやろう。」
「我の力を。」
次の瞬間――
ドンッ!!
禍々しい魔力が爆発する。
地面が砕け、木々が大きく揺れた。
「行くぞッ!!」
アルファが真っ先に飛び出す。
銀色の剣閃がマルギスへ迫る。
しかし――
ガキィィン!!
「……なっ!?」
マルギスは片手だけで剣を受け止めていた。
「遅い。」
直後、漆黒の魔力が弾ける。
アルファの体は吹き飛ばされ、木を何本もへし折りながら地面を転がった。
「アルファ!!」
セリナが拳を握り締め、一気に距離を詰める。
「はあぁぁぁッ!!」
セリナの拳が空気を裂く。
一瞬で間合いを詰め、渾身の右拳を叩き込む。
――ドォン!!
衝撃が森中に響いた。
しかし。
「……ほう。」
マルギスは片腕で受け止めていた。
「クックック!素手でここまでとは……悪くない。」
「人間族も少しは進歩したのか?」
セリナは歯を食いしばる。
「だったら……!」
左、右、膝蹴り、回し蹴り。
嵐のような連撃。
だがマルギスは最小限の動きで躱し、受け流す。
「軽い。」
ドンッ!!
腹部へ放たれた掌底。
「ぐっ……!」
セリナの身体が吹き飛ぶ。
その瞬間詠唱を唱えていたフローレ
「凍てつけ──!」
フローレの魔法陣が幾重にも展開された。
無数の氷槍が空を埋め尽くす。
「グレイシャルランス!」
ヒュンッ!!
数十本の氷槍が一斉に降り注ぐ。
マルギスは笑った。
「魔法か。」
黒い魔力が身体を包み込む。
次の瞬間。
ドドドドドッ!!
氷槍はすべて弾かれ、粉々に砕け散った。
「そんな……!」
「見せてやる。」
マルギスが片手を掲げる。
黒い魔法陣が足元に広がる。
空気が重くなる。
「沈め。」
巨大な黒い衝撃波が放たれた。
轟音とともに地面が抉れ、森が一直線に吹き飛ぶ。
「ドームシールド!!」
フローレが咄嗟に結界を展開。
ガギギギギッ!!
結界に亀裂が走る。
「くっ……!」
耐えきれない。
マルギス
「クックック!もう一度行こうか」
「沈め!」
漆黒の魔力が再び膨れ上がる。
その時だった。
「お前が沈め!!」
メルが両手を突き出し、叫ぶ。
「グラビティ!!」
ドォォォォンッ!!
大地が轟音とともに陥没した。
マルギスの立っていた地面が周囲ごと押し潰され、巨大なクレーターが生まれる。
「……ッ!!」
「…グラヴィティと言ったのか?」
(魔王様しか使えなかった技のはず…。)
マルギスの体が地中へと沈んでいく。
初めて、その表情から笑みが消えた。
「……なんだ、この力は?」
マルギスは重力魔法を振り払い、地面を砕いて飛び上がる。
「フンッ!!」
轟音とともに地面が爆ぜる。
「この程度で我を止められると――」
その時。
「今だよ、エマ!」
メルの声が響く。
「燃えろ……!」
「フレイムランス!!」
ゴォォォォッ!!
灼熱の炎槍が一直線にマルギスへ突き刺さる。
マルギスは鼻で笑った。
「愚か者め。」
「魔族である我に火炎魔法など――」
ドォォォンッ!!
炎が炸裂した。
「……なっ!?」
マルギスの表情が変わる。
燃え上がる炎が身体を包み込む。
「ぐっ……!」
「熱い……!」
「なぜだ!? なぜ我に炎が効く!?」
初めて余裕が消えた。
その隙を――コラソンは見逃さない。
「心刀流!!彼方斬り(かなたぎり)」
鞘から抜き放たれた一閃。
マルギスの瞳が大きく見開かれる。
(……この剣はまずい!!)
本能が感じた。
マルギスは咄嗟に身を捻った。
ヒュンッ!!
銀色の斬撃が頬を掠める。
一筋の黒い血が宙を舞った。
「……!」
マルギスは数歩後退し、頬に触れる。
指先についた血を見て、表情が険しくなった。
「このガキども……。」
「一体、何者だ……。」
マルギスは頬を伝う黒い血を拭う。
指先についた血を見つめ、小さく笑った。
「クックック……。」
「面白い。」
コラソンたち三人を順番に見回す。
「重力魔法……。」
「意思を宿した炎……。」
「そして、その光か。」
ゆっくりとコラソンを見据える。
「…魔王様を封印した聖女を思い出す。」
マルギスは鼻で笑う。
「いや……男だったな。」
「ならば別人か。」
「だが、その力……実に気味が悪い。」
黒い魔力が身体を包み込む。
「今日は退こう。」
「七つの封印はいずれ解かれる。」
「その時こそ、人間どもは絶望を知る。」
黒い霧が立ち込める。
「待て!」
アルファが飛び出す。
しかし、霧が晴れた時にはマルギスの姿は消えていた。
森は静寂に包まれる。
しばらく誰も言葉を発せない。
⸻
コラソンは深く息を吐いた。
「みんな、怪我を見せて。」
とアルファ、セリナ、フローレの手を両手で握る。
3人
「コラソン?」
するとまるで朝日が森へ差し込むような、温かな光。
「ヒールフィールド。」
光は森全体へ広がっていく。
傷ついたセリナの腕。
フローレの火傷。
アルファの裂傷。
そして戦っていた冒険者や騎士たちの傷まで、次々と塞がっていく。
「なっ……。」
セリナは自分の腕を見つめた。
「傷が……消えてる。」
フローレは驚きを隠せない。
「こんな広範囲回復魔法……見た事ないのね。」
アルファがふと気付く。
「……ところで、コラソン。」
「なぜ私達の手を……?」
コラソンは3人の手を握ったまま首を傾げる。
「え?」
アルファは少し困ったような表情になる。
「いや……回復魔法に手を握る必要があったのか?」
「握られたままだと少し恥ずかしいのだが…。」
コラソンは少し考える。
「……いや。」
「特には。」
「ただ……」
少し照れながら。
「握りたかったから。」
一瞬の沈黙。
セリナ、アルファ、フローレ。
「…………。」
「手握りたかっただけかーい!!」
3人の声が森に響いた。
顔を赤くする3人。
コラソンは慌てる。
「いや!違うんです!」
「そういう意味じゃなくて!」
「じゃあどういう意味なのね?」
フローレが少し笑う。
コラソンは困ったように笑った。
そして、少し真剣な表情になる。
「……5年前。」
その言葉で、3人の表情が変わった。
「世界樹のこと。」
アルファの瞳が揺れる。
「俺、詳しいことはまだ全部知らない。」
「でも……あの時、みんながどれだけ苦しかったのかは分かるつもりです。」
コラソンは3人の手を優しく握る。
「大切なものを失う辛さ。」
「守れなかったと思う苦しさ。」
「ずっと心の中で抱えてきたんだと思う。」
誰も言葉を挟まない。
森には風の音だけが響く。
「だから……。」
コラソンは微笑む。
「傷だけじゃなくて。」
「心の方も少しでも楽になればいいなって思った。」
「もし俺の力が、誰かの痛みを少しでも消せるなら……。」
「それって、すごく嬉しいことだから。」
アルファは目を伏せる。
はるか昔から続く使命。
エルフの故郷守れなかった後悔。
ずっと背負っていたもの。
それが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。
セリナは涙を浮かべながら笑う。
「……本当に不思議な子ね。」
フローレも優しく笑う。
「普通なら、これだけ戦った後にそんなことを考えないのね。」
アルファはコラソンを見る。
そして小さく微笑んだ。
「……コラソンは、本当に優しいな。」
3人は顔を見合わせる。
そして――
「ありがとう。」
3人の声が重なった。
コラソンは少し驚いた後、いつもの笑顔になる。
「……うん。」
アルファ
「コラソンのおかげで死者、負傷者はいないようだ。」
「長い1日もようやく終わりだ…。」
「街に帰ろう!!」




