第97話 銀髪弓使いのダンジョン探索 その6
水流の音が満たす空間に異議を唱えるように響くは鈍い打撃音――向けられた対象は鼠型のモンスターである。
――普通の攻撃だと……やっぱり一撃で倒れないね。
弓を振り抜いたセリニがそんな感想を思う最中にマウスは反撃の一撃の加えようと動くがそれよりも先に銀髪の少女が放った矢に貫かれたことで消滅した――その最中に自身以外が鳴らす異音が耳に届くと同時にその音源に目を向ける。
――三体のスケルトン。
現れたのは複数のモンスターであったが――一度遭遇して倒した総数なこともあってセリニは落ち着いて相手の武器を見る。
――全員……普通の武器。
斧と槍。そして剣と近距離の得物であると確認すると淡々と弓矢を構える。
その間に三体のスケルトンは歩み進み、セリニに接近する。
――飛ぶ矢よりも……狙いやすいね。
そう言いながら油断なく弓を構えて矢を三連続で放つと三体のスケルトンの頭部を射貫き――弱点を突かれたスケルトン達はセリニの眼前から消滅する。
「弓矢の利点はこれだね」
多少の距離を離しながらもMPを消費する事もなく弱点の部分をピンポイントで射貫ける。他の武器ではできないことに気づいたセリニは楽しそうに呟きながらも周囲に目を向ける。
「都合よく……現れないね」
そう言いながら歩を進めたセリニが辿り着いたのは数多の通路と繋がる広場の中心点。
ここならばどの場所からモンスターが現れても即座に対処出来ると判断した最中に――パネルが出現する。
――ドロップアイテムの小骨と……新しいスキル。
手に入れたものを把握していたセリニだが今は考え事を優先するとして後回しにした。
――討伐は……出来てるけど。
ミストフォロスの本部にて受けた依頼の一つはNPCからのものであり、それはマウスを15体倒すであった。
――移動したほうが……早くこなせるよね。
一つの場に留まるよりも動き回ったほうがいいと判断したセリニであるが――ある理由からこの場から離れられない。
「蒼球吸壁の感覚の把握もしたいけど」
その理由を言いながらセリニは周囲を警戒しながら先まで発揮した効果のことを考え始める。
――殆どの遠距離攻撃に効果を発揮するスキルで……遠距離攻撃を受けると吸収して無効にする。
――無効にした攻撃力は……スキルを発動した人の次の攻撃に上乗せされる……だからさっきと違って弓での直接攻撃でマウスを一撃で倒せた。
スキルの効果は既に実感できていると把握したセリニだが――同時に問題点があると気づいていた。
「使用可能時間は十秒だけど……その間は動けなくなる……それに直接攻撃だと効果が発揮されないで割れるんだよね」
口にしたその特徴は敵に接近しながら常に動いて戦うのが基本的な自身のプレイスタイルとは相性があまり良くないスキルであるとセリニは感じている。
――遠距離攻撃のダメージを無効にして……それを返せるのは……使えるし……楽しいけど……。
しかしスキルの利点や使い心地はセリニからすると好ましいものであった。
――威力の増加量は……放つ攻撃の二倍が上限値……。
上げられる限度こそあるがそれで十分だとセリニは感じるが別の点に疑問が現れる。
「だけど……どれくらいの量の攻撃を無効に……できるのかな……」
蒼球吸壁で受け止めたダメージは無となるわけではない。HPの代わりにMPで肩代わりを受ける。
その効果故にMPが空っぽになる事でもスキルは解除される。
――自動で元に戻るから……解らないね。
本来ならば単純に減った数値を見れば推測は可能であった。だが自身のMPは装備とスキルによって時間経過で回復する為にそれは難しいとセリニは思った。
「クールタイムは……一分でMPは沢山あるから……余程の攻撃がこない限りは……大丈夫だよね」
蒼球吸壁の為に弄った訳でないが自身のステータスとは相性は悪くないとセリニは思えた
――だけど……あの攻撃を受けたら……一気に……。
しかし不安要素が存在しており、そちらに気が向きそうになったセリニだが――骨の歩行音が総身に響くと同時に戦闘態勢に切り替える。
「二体の……スケルトン」
現れたモンスターの名を口にしながらセリニの視線は相手の武器に向かう。
「剣と盾……杖!」
自身にとって都合が良き武器を持っていると把握したセリニの歓喜な声に反応するのは――剣と盾を得物とするスケルトン。
――杖の個体は……動いてない。
もう片方のスケルトンは自身とは別方向に身体を向けている最中に剣と盾を持つ個体が自身に近づいている。
その状況を把握しながらセリニはその場で止まると同時に弓を構えると矢を手元に出現させたのだが――
――あれ?
矢の出現速度がいつもよりも多少だが速くなったと感じとったセリニは違和感を感じる。
それと同時に指が動いた結果――矢は意図しないタイミングで放たれてしまう。
「!」
驚いたセリニであるが矢の軌道はスケルトンに向かっていることに気づくととりあえず安心したのも束の間――更なる驚きで塗り替えられた。
――防がれた。
矢は確かにスケルトンに届いた。だがその手に携えた鉄の盾によって弾かれてしまった。
――そういえば……盾を持つ敵と戦うのは……初めて……だね。
鎧を着た個体はいたが攻撃を防ぐ物を装備したゴブリンとは相対していないと記憶していたセリニ。
――杖のスケルトン……。
それはそれとしてもう一体のモンスターにセリニは視線を向ける。
――こっちに向いていない。
剣と盾を持つスケルトンと違い杖を持つスケルトンは呆けた様子で立ち尽くしていた。
それを確認したセリニは周囲も見る。
――他のモンスターも……いない。
――なら。
自身に向かってくるのは一体のスケルトンだけだと汲み取ったセリニは――矢を出現させる。
――やっぱり少し速い。
矢が出る速度が上がっていると確信したセリニはそれがどうしてなのか思案するのは後回しにすると決めながらスキルを使用する。
「【弓術・強撃】」
白く輝くと同時に放たれた矢の標的はスケルトンが持つ盾だ。
防ぐ障壁もない故に瞬く間に衝突した刹那に白い輝きは解けながら消失し矢は消え去る――だが同時に盾も砕け散った。
「鎧と同じ」
ゴブリンが着ていた防具と同様に敵モンスターが持つ盾は一定以上のダメージを与えると砕けて消失することを目にしたセリニは一瞬でスケルトンに近づくと頭部に蹴りを入れてダメージを与えると目の前から消滅する。
「気づくよね」
その際に発生した音によって杖を持つスケルトンはセリニが立つ方向に僅かな光を宿す形無き目を向けた途端――空っぽな声を上げる。
「――――――」
それは中身を持たないが確かに力を抱かせるものと手を出さずに傍観に徹していたセリニが感じとる最中に地に光が奔ると瞬く間に魔法陣が描かれる。
「見たこと……ない」
形成された魔法陣が今まで見たものと全く違う模様だと気づいたセリニ――その傍らで描かれた魔方陣が効果を発揮する。
「え!」
ツインファンタジーワールドを遊んで二日目なこともあって魔法にも見慣れてきた筈のセリニであったが驚愕の声を上げていた。
――岩の……魔法……。
スケルトンがゆっくりと現出させるのは一つの岩――ゲームとして見れば普通な属性だが今遊んでいるゲームは違った。
「無でも爆発でも火でも水でも氷でも結晶でも風でも雷でも光でも闇でも龍ない」
脳裏に開示されたツインファンタジーワールドの属性一覧を焦りながら口早に表に出したセリニだが――戦闘の最中であることもあって冷静に考えられた。
その答えはシンプルなものと思えた。
――敵専用の魔法!
プレイヤーが使用できない魔法を相手側が使う。遊んだことがあるゲームではありふれた展開とセリニが判断していた間に宙に浮く岩は形を成していた。
「くるよね」
それを見ると次の展開に備えて蒼い弓を前に出したその刹那――岩は弾丸の如き勢いで銀髪の少女に向かって放たれた――その瞬間にセリニの口から紡ぐのはスキル。
「【蒼球吸壁】」
粘着性がある液体で構成された蒼き球体が出現したと同時に衝突するのは放たれた岩――だがその勢いを失うと溶けて粒子となった途端にその中心に立っていたセリニは身体に負担を感じ――揺らめき――目を見開きながら声を上げる。
「――!!」
その傍らで粒子は一気に増殖して分散を開始。
それが瞬く間に蒼球を埋め尽すと同時に発光したその刹那に蒼球は崩壊の飛沫を奏でながら蒼き粒子となって霧散――その場には汗を流して息を上げるセリニが取り残された。
――そ……想像以上……。
――ショック状態よりは……楽だけど。
発動した蒼球吸壁の消滅。
それはスキル使用者であるセリニにとっては想定の範囲内な出来事――だが身体に降りかかった衝撃は想定を遙かに上回るもので身体が脱力感で呑まれて視界にさえ影響を及ぼしていた。
――蒼球吸壁は魔法を吸収すると……攻撃力に変換されないで消滅する……使用者に怯みが発生。
スキルの説明を見て、そのデメリットが余裕があるときに受けてみようとセリニは思案――そして実行したのが今の結果であった。
――終焉の切り札を使った後に……近い……かな。
近い感覚は昨日も体験していたと自覚するセリニ。
感覚が近い理由の見当の心当たりはあった。
――終焉の切り札と同じで……MPが全部無くなるから……だよね。
蒼球吸壁で魔法を受けると使用プレイヤーのMPが強制的に消費されて0となる。
それもデメリットの一つであり、セリニは承知していた。
――スケルトンを……。
時間経過で元の状態に戻っていることを身体を通して把握したセリニは前を見ると瞬迅で移動しようと考えたが――場を見てその必要が無いと判断した。
――歩いてこっちに。
スケルトンは健在で杖を携えている。しかし魔法を詠唱せずにセリニの元に向かっていた。
――どうして?
予想していない事であり、当惑したセリニだが――ある予想が脳裏に浮かんだ。
――わたしと同じで……MPが無い?
敵にもMPが設定されており、それを切らせることを前提の敵が出るゲームを遊んだことがあった故にセリニはその予想に辿り着いた。
「――なら」
その状況はセリニにとってはプラスである――しかし時間経過で周囲に別のモンスターが現れている可能性を考慮したセリニは周囲を見る。
――目の前の敵以外はいない。
状況の判断を終えたセリニの目前まで迫っていたスケルトンは杖を振り上げると鈍器として振る。
「――」
それが迫ると同時にセリニは弓を振り、杖と衝突させる。
――どうなるかな。
自身のステータスを成長させた状態で鍔迫り合いを発生させたらどうなるのか興味あった故に今の状況を引き起こしたセリニ。
しかしそれは無為に終わる。
「腕と一緒に……」
鍔迫り合いは発生せずに杖は弓に一方的に弾き飛ばされる――その結末にはスケルトンの両腕も付き添っていた。
「スケルトンだとこうなる」
セリニが淡々と言いながら再度弓が振るとスケルトンの頭部を砕き――身体共々消滅する。
「倒せたけど」
――入り口に戻ってMPを……。
街に戻ると自身のステータスは治る。その仕様を知っていたセリニは蒼球吸壁のデメリット効果でMPが尽きた時に即座に全回復できるようにこの場所に留まる選択をしていた。
それ故に定められた流れに添う様に動こうとした銀髪の少女であったが――他者から視線を感じとると急速な動きでその方向に身体を向ける。
「いない」
だが目の先に広がるのは地下水路の通路だけで動きを見せる者は存在しない。
――オンラインゲーム……だから別の人がいるのは……当たり前だね。
他のプレイヤーがいることは自然な事だと思ったセリニは入り口に意識が向いたその時――他の通路から現れたマウスが銀髪の少女を見つけると襲うべく跳びかかった瞬間に聞こえるのはスキルを示す冷えた声。
「【暗影変異・偽り黒羽】」
セリニの肩より数多の影が現出――集束するとその形は漆黒の羽となる。
目に見えない推進力を得たように激しき動きを見せた漆黒の羽はマウスの元に突き進み――その身を消し飛ばした。
「倒せた……よね」
背後を見たセリニの視線に映るのは消滅した漆黒の羽の残滓である黒い粒子だけであった。
――MPが少ない状況でも……戦えるね。
自身のスキルと装備によって回復するMPが視界に映っていることを確認しながらもセリニはそう思えた。
「咄嗟に思いついてしたけど……モンスターを見ないで……倒すの……とても緊張する」
そして数秒前に行った事に対してそんな感想を零していた。
「ちゃんと……MPを全部回復しよう」
「それに……習得したスキルも気になる」
とはいえ未知のダンジョンを探索するならば事前準備はちゃんとするべきと思案したセリニは足早に地下水路の出入り口に引き返した。
「戻っちゃった」
紺青のウールコートを着た銀髪の少女がダンジョンから一時的に去る姿を目撃していたのは通路から姿を現わした純白の鎧を着込んだ女性、ランケアであった。
――隠れないほうがよかった?
通路を曲がった矢先に銀髪の少女の姿を確認したランケアであったが急に視線を向けられたことで反射的に身を隠してしまい、結果的にその後に起きた流れを目とする。
――羽を生やすスキル……面白いものね。
戦闘――とは言えない一方的にマウスを蹂躙する姿を見たランケアはそんな感想を感じた。
「銀髪の弓使い……シャールが言ってた子と同一人物?」
知り合いが話していたプレイヤーが先の少女なのかと考え始めたランケア。
「聞いた服装とはだいぶ違うけど」
しかし遠目からでも解る差異があると感じたランケアだが――自身なりの答えを導き出した。
「色々な服を着たいからそうしたってところ」
そう言いながらパネルを出したランケアであるが次に漏らすのは残念そうな声。
「今はいない」
ランケアが連絡しようとしたシャールはツインファンタジーワールドにログインしていないことを確かめた為であった。
「なら仕方ない……後で言おう」
そう言うと自身の目的の為に動こうとしたが――その前に現れるのは三体のスケルトン。
それを見ると同時に瞬きの暇すら与えずにランケアはスケルトンの前に瞬時に移動――それと同時に手元から現出するは宝石で装飾された白銀の長槍。
「――」
片手で槍を薙ぐと三体のスケルトンの頭部は消失――続いて身体も消え去った。
「ツバサを呼ぶ必要はないか」
それを見ながら思ったことを口にしたランケアはそのまま歩いて広場から立ち去った。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
明日も投稿予定です。




