第94話 銀髪弓使いは目立つから
――ミストフォロスになって……盟約をアルーセさんと結んで……依頼を受けて。
――少し会話してアイテムをいただいて……塔で装備とかの買い物をした後に……図書の館に立ち寄って……リーザロッテさんと隠し部屋を探した後に……ここを降りてる。
――それがいまのわたしの状況……。
これまでの自身を起点として織り成したことの把握を終えたセリニが歩んでいるのは依然としてコンクリートの壁で覆われた螺旋階段であったが――その景色が一変すると同時に終わりが見えてきた。
――ここが……街の最深部。
周囲の壁が先に水路を下りた際と同様に透明な硝子に変わると同時に周りの景色がセリニの視界に映り込んだ。
――やっぱり……綺麗。
その景色は清らかな水――そして地下でありながらも上から放たれた光にて明るさが満たされている。
――けど……高さや広さは似てるけど……他は違うね。
既に上層で近い光景は見たが明確な差異があると気づいたその傍らで――セリニは階段を下りきる。
「到着したけど……疲れはないね」
身体を動かしながら自身の体調を気にしたセリニは問題ないと即座に判断する。
――VRの空間だから……だよね……きっと……。
数える気持ちが起きない程の数がある段数を下りる――それだけは把握していたセリニは現実だったら歩き疲れて疲労困憊になっていたのではと思えた。
――昨日も……半日遊び倒したけど……戻った後に疲労感はなかった。
ツインファンタジーワールドの初日を遊び終えて、現実の肉体に戻った月影に残っていたのは充実感や昂揚感だけであった。
「やっぱり……VR神経は……便利」
自身の身体を構成する神経の一つを口にしたセリニ。
「だけど。不思議だね」
前日から感じていたことを再び思い返しと同時にパネルを出現させたセリニはマップを確認する。
「ここにすぐ来られるようになったね」
マップには現在の地点が記されている。そしてファストトラベル可能であることを示唆するマーカーが付けられていた。
――他の場所も。
パネルを操作したセリニの目に映るのは街のマップであり、所々にファストトラベルを可能とするマーカーがあった。
――これからは……楽だね。
街の内であるならば最初こそ自らの足で赴く必要があるがそれ以降は街にいる間ならば無制限のファストトラベルで瞬く間に移動することが可能となる。
今セリニが立つ場所もぎりぎり街の中であると同時にファストトラベル可能な地点であった。
故に今回以降は長い階段を下る必要はなくなった。
「じゃあ早速……」
戦闘の準備は万端であったセリニは街の地下のダンジョンに挑むべく足を進めた。
――あれ?
だが階段を下りている間に疑問と思っていたことへの解答に繋がりそうなものが目に映ると足を止めた。
「階段の空いていた部分……だったよね」
セリニの視線の先には螺旋階段で囲まれた大きな広間があった。
それだけならば注目するに値しないのだが螺旋階段を下りる最中にどうして中央が大きく拡がっていたのか疑問としていた故に気になる場所となっていた。
「何かある?」
そう口にしながらその周囲を見たセリニはその近くに設置している機器に気づくとそれがなんなのか把握する。
「レバースイッチ……だよね」
それが何らかの仕掛けを動かす為の装置であることをゲーム経験から判断したセリニ。
――上では……どうだったかな。
螺旋階段に繋がる地上の出入り口で似た装置があったかどうかセリニは思案するが――
――思い出せない。
――しょうがない……よね。
だがその時の心境は途轍もなく慌てたもので地下に進む――ではなくある理由から地下に逃げて落ち着きたい心持ちであったとセリニは自己分析した。
「……」
その際の周りから感じた感覚を思い出したセリニは顔を赤らめる。
「あの装置は」
気持ちの誤魔化しを兼ねてレーバースイッチの正体を探るべくセリニはそれに近づいた。
「――」
すると中央のエリアに切れ目が見えた。その切れ目を追うと最終的に四角い形で中央の殆どが切れ目の内側であった。
――柱や……ロープも……。
螺旋階段を下りていた時から確認できていた部品もその切れ目の内側にあり、四つの角には柱が設置されていた。
それらの確認したセリニはある予想をする。
「もしかして……リフト?」
特定の操作をすることで上昇――及び下降を可能とする似た形の装置を別のゲームで見た覚えがあったセリニはその名を口にする。
――何に使うのかな?
プレイヤーが使用する場面は想像できるセリニ。
――だけど……転移で……可能だよね。
だがマップから別の場所に瞬時に移動できる。そのような移動手段があるのを知っているセリニはどうしてリフトがあるのかと疑問を零した。
「世界観? このゲームの人達は……積極的に使う」
自身を含めたプレイヤーにとっては必要なものと思えないが――この世界の住民にとっては必要不可欠。
その可能性を口にするその最中――ゲーム要素が関わるとセリニは思えた。
――わたしと他の皆さんの場合は……イベントとかクエストで……転移不可能になった時の為?
ある期間の間は特定の移動方法が無力化される。そんな目にあった結果ピンチとなったゲームの経験を想起できた為にセリニは心の内側で想像できた。
「とりあえず……あることを覚えておいた方がいいよね」
これからツインファンタジーワールドでどんなイベントが発生するのかセリニにとっては未知数であった。
故にリフトという移動手段があることは脳裏に留めておくことにした。
「進もう」
そう言いながらダンジョンの出入り口に向かおうとしたセリニだが――再び足を止める。
その理由は道中の壁が不透明な硝子であり、それが鏡のように銀髪の少女の姿と肩に乗る自身のペットであるオウルを映していた為であった。
「――」
本来なら自身の姿が確認できただけで足を止める理由にはならない――しかし今のセリニの風体は二日目を始めた当初から大幅に変化しており、見慣れないものとなっていた。
身に纏うの紺青で染め上げられたのふんわりしながらも落ち着いた雰囲気を醸し出したウールコートであった。ウールコートの袖口やズボン。そして巻かれているマフラーの色は二人静。身につけている靴や手袋は黒で染められている。
頭に身につけているのは暗影の髪飾りだけであった。
髪型に変化は無く、髪色は一見変わっていない様に見えるが毛先だけが紺青に染まっていた。
「始めた頃と比べると……豪華……だよね」
それを客観的に見たセリニはそんな呟きを漏らした。
「でも……おしゃれ装備だから……強さは変わらない」
現在セリニが着ている衣服は外見だけ変えるものであり、ステータスに変動はない。
「貰っていいんですよね……アルーセさん」
着ているのは自身が得た衣服ではない。フレンドからの貰い物であった。
――日常的にマイデザインをしていて……自身が着ないものを作りすぎたと……言ってましたけど。
――名前は紺青ウールコートセット……でしたよね。
セリニよりも先にアルーセがヘイス・ピュルゴスを後にしたのだがその際に渡されたのが現在着ている衣服のセットであった。
――目立つかもしれないとも言って。
その言葉は正しく、アルーセが去った後に早速着たセリニが自意識が強いと思いながらも――最初に感じたことであった。
「けど……目立つことに慣れた方がいい……とかも言っていましたね」」
いきなりそんなことを言われたセリニは当然驚くこととなった――のだが続いてアルーセから言われた内容によって納得する。
――メガロスクエストで……高順位を目指す以上は……目立つことは避けられない……ですよね。
アルーセから言われたことは否定の余地がないと思えるほどの事実であるとセリニは断じる。
――順位が高い人とか……グループは……目立ちます。
学校やテレビやネットでも重点的に紹介されたりするのは準優勝や優勝といった好成績を残した者達である。
それらを日常的に俯瞰して捉えていたセリニからすると即座に理解できると同時にゲームの世界でもそうなるとすぐに想像できる。
――メガロスクエストで……わたしの成績が……どうなるのか……全然分かりませんけど。
――だから……この服を着ます。
故にセリニは今来ている服をメインで使う服装の一つとして使用することを決める。
その理由は目立つ為ではない――目立つのは一切の意図が無い副作用であった。
「このデザイン……好きですから」
アルーセは『合わなかったのなら着なくてもいいわ』とも言っていた。
そう渡した本人から語られた事もあってこれからも着たいと思わなかった場合は初日から使用している服装を再び着るつもりのセリニだが――一目見て気に入っていた。
それ故に髪の先端も服装の主体となる色合いに合わせることにした。
――また……視線を……向けられましたけど。
服を新調してヘイス・ピュルゴスから出たセリニの視界に映るのは街の光景と数多の人々であった。
しかしながらも銀髪の少女が着ている衣服と同じように目立つ衣服を纏っている他のプレイヤーも多数いることもあって木を隠すなら森の中で済まされると願っていたが――そうはならずに周囲から見られている状況は継続していると感じる羽目となった。
「増えた気も……します」
更にその視線の数は増加しているとセリニは感じ取ったと同時に――即座に図書の館に向けて移動して事を済ませた後に目的地である地下水路に繋がる出入り口に早足で突入していた。
「けど……慣れるしかないよね」
とはいえメガロスクエストで順調に順位を上げて目立つ立場となった結果、周囲からの目を向けられて緊張してしまい。その結果動きを止めたり、攻撃をミスしてその隙を突かれて攻撃されて倒される。
そして順位を一気に落として賞品を逃す――それはセリニとしては決して望めないもので考える限りでは最悪な結果とさえ思えた。
故に目立つかもしれないが今後も紺青ウールコートセットを着ると決めた。
「それに……わたしは……もう手遅れらしいです」
そんなことを諦めた色彩で言ったセリニ。
『――はっきり言うけど目立たないで街を出歩くのはセリニちゃんにはもう厳しいわ、鎧とか仮面付きロープで全身を隠さない限りは手遅れ』
それはアルーセが言っていたことであり――視られる理由こそ幾ら反芻しても全く判らないがその事実から背き続けていただけで街を出歩く度に数多の視線を感知する状況が継続していることを二日を始めた当初から身に沁みていることもあってセリニも薄々そう思っていた。
――姿を隠すのは……それはそれで……楽しそうだけど……。
唐突に現れる正体不明のキャラクター――それに対する憧れの感情はあったセリニ。
――今は……望みません。
しかし鎧や仮面で姿を覆うのは――何らかの理由で正体を隠して動く必然性が生じればするが、そこまで自身をひた隠したいとはセリニは思っていないために断った。
――目立ったない……あの時の考えたけど……もう駄目だね……。
暗影のゴブリンを倒した後に思案した願いは既に叶わないと察したセリニ。
――慣れるまで……大変かもしれないけど。
――だけど……ツインファンタジーワールドは……楽しい。
――それにこの服で戦えるのは……良いことだよね。
しかしそれ以上に面白い事態となっていることもあって大事ではなく些事ぐらいの感覚で気にはならないセリニは手元を光らせる。
蒼色の輝きが現れると瞬く間に弓の形となって実体となると硝子に映り込む。
それは内側が澄んだ青色で満たされた――一目で特殊な出自と判別可能な武器であった。
「蒼球の弓と似合う衣服を貰えたから」
先まで着ていた衣服とは合わないと思って外見を始まりの弓に変更していたが紺青ウールコートセットとは見た目の相性も最高と感じて本来の外見に戻していたセリニは楽しそうに語る。
「向かわないと……駄目だよね」
自身の今の姿を通して色々と思案していたが――ここに来たのは別の目的であったことを弓を見たことで思い出したセリニはフィールドの出入り口に向かって歩み続ける。
「蒼球の弓のスキルを発動できる敵……いるかな」
そんな独り言を零しながら――装いを新たにしたセリニは地下水路に足を踏み入れた。
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明日も更新予定です。




