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第90話 銀髪弓使いは不死から

「私がミストフォロス総指揮官――アルキ・ティゴスである」


 空間に轟は重厚な男性の声――その主は声から想定できる大柄で筋肉質な壮年の男性であった。

 身に纏うのは黒に染まり金色が添えられた軍服。

 スキンヘッドで左目に眼帯を付けた威圧感がある顔立ちであり、肉体には歴戦の戦士の証である傷跡が残されている。

 そんな彼が睨んだ先に立つのは銀髪に紫の衣服を纏った少女のセリニであった。


「――」


 顔を伏せたセリニは何も言わない。そんな少女にティゴスは言葉を続ける。


「ミストフォロスの本部に来られたのならば貴様は憑き人か」


 そう言うとティゴスはセリニの見定める視線を向けると腕を組んだ。


「成る程、ここに来ただけあってそれなりの修羅場は潜ってきたようだ」


 そこまで言った刹那――笑みを浮かべながら豪快な笑い声を上げたティゴスは結果を口にする。


「――よかろう! 貴様は合格だ!」


「良かった」


 それが届くとセリニは小声で安心した気持ちを口にする。


「だが貴様はまだ未熟よ、憑き人であるが為に不死であるが――尽きぬ生命が本当にあるのかなど誰にも解らぬ!」


「不死」


 耳に届いた単語に驚いたセリニであるがそれはティゴスの声によって掻き消される。


「それゆえに常に身体魔力しんたいまりょくを磨き上げよ! 私からは以上だ! 覚悟が済んだらカウンターの前に立つといい、貴様専用のイピレティスを派出はしゅうしよう」


 言い終えると同時にティゴスはその場から移動してカウンターの奥にある扉の中に姿を消す。


「――」


 それを見届けたセリニは――深い息を吐き出した後に感想を口にした


「びっくり……した」


 この場に転移して少し経つと現れたのが先程の人物であった。

 予想もしていない。予告も皆無な状況で現れた故に驚きの声を上げそうになったが――頭の上にアイコンがあったことからNPCであると察せて最終的には軽い驚きで済まされた。

 心境は落ち着いていて次に向けてすんなりと思考をシフトできたセリニは周囲に視線を向ける。

 

「ここが……本部」


 その広さは小規模な飲食店ぐらいなものであり、食事や会話の時に使えそうなテーブルと椅子が並んでいて程よい量の調度品が置かれている。

 全体的にシックな雰囲気であり、置かれている物はアンティークなものばかりであった。

 カウンターも同じ雰囲気であったが――提示版が置いてあり、そこだけは異質だとセリニは思えた。


 ――落ち着ける……場所だね。

 自身にとっても好みな雰囲気だと思えたセリニの視界に入るのはテーブルに座って紅茶を飲んでいたアルーセであり、見られたことに気づくと同時にコップを小皿の上に置いて立ち上がった途端に――コップと小皿が跡形もなく消え去った。


 ――ゲームだと片付け……楽ですね。

 そんな所感をセリニが抱く最中にアルーセは声を出した。


「あんな大柄な人が現れて驚いたわね」


 そう口にした白いコートを着た女性は肩をすくめる。


「アルーセさんも……知らなかったのですね」


 その様子から同じ心境と判断したセリニにアルーセは自身が明かせる情報を開示する。


「ええ、初めて見たし聞いたこともない――似たようなことは経験済みだけどね」


「似たような?」


 聞こえたからには気になったセリニの声にアルーセは返答する。


「ここと違って――アトリエ……工房な雰囲気の創作機関の本部に初めて入った時に機関所長きかんしょちょうと会ったのよ」


「……どんな人だったんですか」


 伝わったと同時にアルキ・ティゴスのようなインパクトがある人物がもう一人いるのかと考えるセリニ。


 ――もしかして……豪快な……女性の人。

 ――それとも……ミストフォロスと同じで男性で……?

 それから派生して色々と想像していたセリニに向かってアルーセは答えた。


「優しそうなお婆ちゃんよ」


「そ……そうですか」


 自身が全く想像していなかった人物像を言われたセリニは軽く驚いた。


「けど、最後に見せた眼孔の鋭さはさっきのNPCを圧倒していたわ」


 印象に残った点を語ったアルーセ。

 それを受け止めたセリニはその場面を想像した。


 ――ゲームで……鋭い目の……お婆ちゃん。

 するとある所感を感じたセリニはそれを口にした。


「実は高い戦闘能力……ありそうですね」


 老齢の登場人物が本当の姿は真の実力者――そういった展開をゲームで見たことがあったセリニの言葉にアルーセは笑みを浮かべる。


「そうかもしれないわね、あの時感じた威圧感はわたしが戦ったどのボスモンスターよりも鋭かった――ミストフォロスの総指揮官も戦ったらきっと強いわ」


 先までこの場で喋り通して存在感を解き放っていた存在に関する話題を出したアルーセ。

 それを聞いたセリニは立場相応の実力があると思っていた事もあって同意する。

 そして同時にそのNPCが言っていたことで特に気になった話を述べた。


「ところで……その……あの人……憑き人は不死と言ってましたけど……本当なのですか?」


 ゲーム内だけの設定と指摘されたらそれまでであるが面を向かって初耳の情報を言われたこともあってとても気になっていたセリニ――その流れは唐突でもあったがアルーセは気にせずに応じる。


「いきなりで驚くわよね」


 特に感情を入れずにそう話したアルーセ。


 ――アルーセさんは……どっちなんだろう。

 目の前のプレイヤーが不死を知っているのか知らないのか――その判断できないセリニであるが当の本人があっさりと明かした。


「わたしは本を読んで知っていたけど、NPCが直接言う場所を目撃したのは初めてよ」


「そうですか……わたしは……今が初めてです」


 不死に関わることを知ったタイミングを明かしたセリニに「そうみたいね」とアルーセは反応する。


「だけどセリニちゃんはプレイヤー(憑き人)が不死なことはわたしと会った時に知っている筈よ」


「アルーセさんと……会った時?」


 前触れなくそう告げられたセリニが感じるのは当惑であった。


 ――不死なら……死亡したのに……死んでいない状況。

 ――アルーセさんが……その状態と……関わったとき……ですよね?

 だが状況の推測を開始すると落ちつけたセリニは冷静に昨日のことを思い出した途端に――アルーセが言いたいことを理解する。


「わたしの前でゴブリンの魔法でHPが尽きましたけど……少し経った後に……領域転移で戻ってきたことですか?」


 死亡したら終わりであるならば倒されたら決して戻ってこれない。

 そう推測したセリニにアルーセは頷いた。

 

「そういうことよ」


「ゲームだから復活できる……それだけかと思ってました」


 外から介する事が可能な立場――そんなメタ的な理由だけで死亡しても問題無いと判断していたセリニは素直に驚いた。


「不死だから……何度でも蘇ることができるのですね」


 そして総括する心持ちで言葉を紡いだセリニであったが――それを聞いたアルーセは何かを言いたげな目で銀髪の少女を見ていた。

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