第89話 銀髪弓使いは同一人物から
ツインファンタジーワールドにログインした直後に確認した塔の内側に入り、その造形に目を通したセリニの第一印象は――只管に白いであった。
――外から見た……ヘイス・ピュルゴスも白いから……そうだよね。
建築物の色の事をあまり気にかけないセリニであったが街から見た塔の色彩は印象に残っていてすぐに気づけた。
――床も天井も……テレビ番組や……ゲーム以外だと……初めて見る……もしかして大理石……かな?
現実では直接見られるのか分からない物が建築の材料として使われていることを察しながらもセリニは意外だと思ったことを口にする。
「外で見たより……広くない」
街から眺めるヘイス・ピュルゴスはとても極大であり、一つの山が引っこ抜かれて街の中心を陣取る――そう例えられる程の横幅であった。
だが現在二人がいるエリアの規模は多く見積もっても体育館ぐらいの広さである。
そんな印象を感じたセリニが零した声にアルーセは応じる。
「ヘイスピュルゴス・マルチだと規模が大きくなるわ」
「あ……そうなんですか」
聞こえた刹那にあるエリアを思い出したセリニはそれを口にする。
「そこもガイアの安らぎと同じなんですね」
一度目はパラメーターを回復するため。そして二度目の際はリーザロッテと話し合いをするために殆ど同じ名を持つエリアに入った経験があったセリニはその際にエリアの大きさが違うことに気づいており、ヘイス・ピュルゴスも同様だと察した。
「そうよ、あとガイアの安らぎもこの世界の法則と異なる場所の一つよ」
「あの場所も……なのですか」
何故ダンジョンにあんな休憩所があるのか? と疑問の言葉を向けられたら『ゲームだから』で済ませられると思っていたセリニは驚いた。
「ええ、それでだけどセリニちゃんはガイアの安らぎ・マルチを見た?」
軽くノリで問うアルーセ。それを聞いたと同時にセリニの頭の中に現れたのは疑問――ではなく数多の人が滞在する広い空間であった。
そこは慌てた故に間違って入った場所で自身にとっては場違いでもあった。
――本当に……びっくりした。
セリニにとって完全に想定外な事態を引き起こした場所なこともあって、刹那に感情が湧き上がりそうになったが――刹那にそれは鎮火する。
――あの時の……間違いがなかったら……きっと……リーザロッテさんに会えなかった。
しかしそれが良き方向に回った結果――リーザロッテとの出会いに繋がった。
そしてパーティーを組んでボスモンスター相手に共闘した後にフレンドを結べた。
その様相は――自身の間違いが無ければ絶対に起きなかった。
そう刹那に思えたセリニは落ち着いた色合いでアルーセに自身も関わったことを告げる。
「見ました……沢山人が……」
そこまで言い切ったセリニだが――自身の口から出た言葉に対して疑問が湧き上がる。
――あの人達……。
あのガイアの安らぎがギガントスライムが潜む洞窟と繋がっているのは間違いと思ったセリニであるが――その洞窟では自身とリーザロッテ以外のプレイヤーを見かけることはなかった――その筈がガイアの安らぎ・マルチには沢山の他のプレイヤーが滞在していた。
――何なんだろ。
ガイアの安らぎで時間潰すにしてはかなりの人数がいたが――ギガントスライムが潜む洞窟は明らかに始めたばかりのプレイヤーが入る場所だと今までのゲームの経験から感じているセリニはあれだけの人数があの場にいたのは不自然だと今更なら感じ取った。
「あの……ガイアの安らぎ・マルチには沢山の人が……いたのですが」
一気に噴出した疑問を思わずセリニは口に出したが――言語とするのは大変だと出した一弾指に気づいて慌てそうになった少女の感情を理解した色合いで「プレイヤーがいっぱいいて驚いたでしょうね」とアルーセが言う。
「は……はい……驚きました」
それははっきりと記憶していて思っていたことでもあり、セリニは正直に話すとアルーセは続きの言葉を紡いだ。
「ガイアの安らぎ・マルチは特殊なエリアなのよ」
「特殊……ですか?」
「そうよ、あなたが見かけたプレイヤー達は別のダンジョンの扉からガイアの安らぎに入った人達」
話を聞いたセリニはどういうことなのかと一瞬困惑するが――少し思案すると理解できた。
「別のダンジョンのガイアの安らぎに繋がる扉も同じ場所に繋がっているんですか?」
Aの洞窟とBの洞窟にある扉が繋がるのはどちらも同じ場所――ガイアの安らぎ・マルチに通じている。そう考える事で状況の把握を終えたセリニ。
「そういうことよ、簡単に言うならば他のダンジョンで遊んでいるプレイヤーと交流できる場所がガイアの安らぎ・マルチの最大の特徴よ、とは言っても交流できるだけで戻る場所は入り口に使った扉限定だけどね」
「ガイアの安らぎは……物理法則を完全に無視してるんですね」
ここは電子世界でゲームの世界の為に無粋なことなのは十分に承知しているセリニであったが――どう繋がっているのか物理的に説明するのは不可能と感じた後に思わず口にする。
「そうね、ここの住民からもそう思われているみたい」
「? どういうことですか?」
「ガイアの安らぎ・マルチには食べ物を発売するNPCがいるんだけどね」
――NPCがいるの……この場所と同じなんですね。
そう心の中で思いながらセリニは周囲を視界に入れる。
その先には光沢感を漂わせる白で塗装された壁があったが――その一部は削られたような横穴があった。
その先には調度品が置かれて整理された空間があり、そこにはカウンターが置いてあってその向こうには人が立っている。
その光景はセリニにとっては馴染み深いゲーム世界でのNPCの店員が立つ光景でもあった。
そんな光景に目が向いた銀髪の少女にアルーセは言葉の続きが届いた。
「全てが同一人物なのよ」
「どういうこと……ですか?」
聞こえた内容の意味が全く解らなかったセリニにアルーセは言葉を続ける。
「まずガイアの安らぎ・マルチは一つじゃなくて複数存在するのよ」
「……そうなんですね」
そう唐突に言われたセリニであるが瞬時に納得する。
ツインファンタジーワールドを遊ぶプレイヤーがどれだけいるのか詳しく知らないが――今日見たプレイヤーの数だけでも膨大であり、その数と比べるとガイアの安らぎ・マルチにいたプレイヤーの数は少なすぎると感じており――同一の名を持つエリアが複数あるのは当然なことだと思えた。
――もしかして……。
そしてそこからある予想が脳裏に過ったセリニはアルーセに問う。
「ガイアの安らぎ・マルチにいる店員……全員が同一人物なのですか?」
ゲームのモブキャラなら同じ顔が複数人いるのは当然と思うセリニだがこのゲームは違うのかと想像してアルーセに問う。
「みたいよ、最初の街にいるガイアの安らぎで働いているNPCがそう言っているわ」
そう言われたセリニであるが――この世界には魔法があり、スキルがあることは既に知って自身を増やすのは難しくないのでは? そう思えた。
――わたしも……数を増やせます。
何せセリニも自身の分身を一時的に創造するスキル【暗影変異・黒之分体】を使うことが可能である。
――だから……別に……普通では?
故にそれに類似した現象を起こせるのでは? と推測可能であったが――アルーセが語るのは全く別の事であった。
「けど本人は一つの場所で働いているつもりみたい」
「そうなんですか……分身する魔法とかスキルを習得してたりとかしてないんですか?」
自身の予想を口にするが――刹那にアルーセから否定の言が届いた。
「そんなことは一口も言っていないわね、ガイアの安らぎから出ると複数の記憶が一度に身体に入ってくるみたいと困惑していたわ」
――複数の……記憶。
――暗影への序開のスキルを……一気に習得した時の頭に響いた感覚に近いかな。
自身の経験からそのような想像をしたセリニと同時にヘイス・ピュルゴスにも似た要素があるのではと思いそれをアルーセに明かした。
「もしかしてですけど……ここにいるNPCも……他の塔のエリアにいるのも含めて全員同一人物なのですか?」
「ええ、ヘイス・ピュルゴスの『シングル』『マルチ』『パーティー』の全部にNPCがいるけど、全員が同一人物――後で見比べると面白いかもね」
――今度……シングル使うときに見てみようかな。
マルチはともかくとして一人用のエリアは今後も使うことになるだろうと思い。その時に確認しようと思ったセリニに思い出したような口調でアルーセは話す。
「けどミストフォロスのイピレティスは全員別人よ」
アルーセが口にしたのはヘイス・ピュルゴスに赴いた理由そのものであった――しかしその途中から聞いたことがない単語が加わる事となった。
「イピレティス……何のことですか?」
疑問の声が建物に響いた――するとアルーセは待ってましたとばかりな色合いで応じる。
「使用人よ」
アルーセの声と共にセリニの脳裏に届くのはカタカナのルビが振られた漢字であった。
――ゲームみたい……ですね。
その表現はセリニにとっては見慣れたものであり――直に聞こえる事に楽しさを感じる。
――わたしも……昨日……言ったよね。
リーザロッテに対してアルーセがしたような表現を口にしたと覚えているセリニ。
――リーザロッテさんに……伝わったかな。
それを思い返したことで不安を感じたセリニであるが今は目の前の人物との会話を優先する事とするために聞こえたアルーセの言葉に反応した。
「使用人……ミストフォロスになると使用人を雇えるのですね」
「ええ、創作機関でも雇えるわ」
そう言うと同時にアルーセは歩み始めながら喋り出した。
「とりあえず一見は百聞にしかずだから行きましょう」
アルーセが進んだ先にあるのはヘイス・ピュルゴスの壁に複数設置されている扉の一つである。
――あの先に……ミストフォロスの……本部?
昨日言われたことから推測したセリニは後を追うことにした。
――あれ?
その最中にセリニはヘイス・ピュルゴスの中心を通ったが一部分が他とは異なることに気づいた。
――盛り上がってる?
台があり、それを中心として四つの柱に囲まれて、四方に階段が設置された意味深長な一つの地点をセリニは見つけた。
――何か……あるよね。
ゲーム経験からの即時に推測したセリニだが――通り過ぎても何も起きなかった。
「楽しみ」
後に起こりそうなイベントを想起しながら歩を進めたセリニ。
――そういえば。
ゲームを開始早々に色々とあったために意識を向けていなかった自身のペットのことを思い出したセリニはパネルを操作するとペットを出現させる。
――今回は自力では登場しないね。
ガイアの安らぎでは勝手に現れた為に疑問を感じたセリニの前に小さな梟であるオウルが姿を見せた途端に――姿を見せなかった理由を察する。
――寝てるね。
現れた場所はセリニの肩、そこでオウルはすやすやと睡眠状態であった。
――駄目だったかな。
自身のペットの状態を確認する最中にアルーセが扉に到着するとそのまま開いて入り口に入っていた。
「この先……ですね」
それをセリニが追って入った途端に扉が独りでにゆっくりと動いてそのまま閉ざされた。
その音色は広大な空間に響き渡ると――白で包まれた空間は静寂の中に沈んだ。




