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第88話 銀髪弓使いは謝罪から

 鳴るのは確かな歩行の音――そして微かな羽ばたく音。

 音の主での一人であるセリニはふっと足を止める。

 すると周囲を飛んでいたもう一匹の音の主であるペットのオウルが肩に下りる。

 それを感じながら銀髪の少女は周囲に目を向けながら感想を呟いた。


「螺旋階段……初めて見る」


 セリニが現在進んでいる場所は舗装されたコンクリートで作られた階段でその形状は螺旋状で下に続いている。

 周囲はコンクリートの壁と天井で閉ざされているが壁に設置されている水晶の輝きによって程よい明るさを維持しており、踏み外す心配はない。


 ――変わった構造。

 現在セリニが進んでいる螺旋階段は中央に大きな穴――余剰なスペースがあり、四方にとても長い縦に長い柱があり、その中心には複数の長いロープが伸びている。

 そして壁側に階段が設置されている。そんな造りであった。


 ――落ちた方が楽に進めそうだね。

 現実では絶対にしては駄目な方法であるがここはゲームである故にセリニはそんなショートカットの方法が脳裏に過る。


 ――似た場所で……逃げないと駄目なボスが相手の時……試そうかな。

 他のゲームで経験したことがあるそんなシチュエーションを想像したセリニ。

 基本的に落下ダメージが無いゲームである為に方法の一つとして頭の隅に置いておいてもいいと思いながらも――今に目を向ける。


 ――地下水路には……もう少し掛かるかな。

 目的地のことを考えながら再び階段を下り始めたセリニはこの場所に到着するまでに起きた出来事を思い返した。


   ※     ※    ※    ※


「わたしの所為です……ごめんなさい!」


 空間に響くのは悲壮感でまみれた謝罪の声――言い放ったのは頭を下げるセリニであった。

 その言葉を受け止めたアルーセはさして気にしていない様子であった。


「わたしが不意を突かれただけよ、だから転倒しそうになっただけだから」


 その声を受け止めながらセリニの脳裏に精密に映るのはアルーセが転びそうになった光景――そうなってしまった理由は自身のステータスの疾走力にあった。


「ですけど……わたしのステータスが原因で……」


 ――わたしが……極端だから……。

 自身の疾走力のステータスポイントの合計は104であった。対してアルーセは技巧力に全てのステータスポイントを振っていることを知っていることもあって正確な数値は解らないがそこまで高くないとセリニは想像している。


 しかし本来なら他のプレイヤーのステータスはどう振ろうとも自身のステータスには全く関係ないことであるのだが――パーティーを組んだ途端に関わる事となる。

 疾走力はプレイヤーの歩行速度に直結しており、数位が均等でない限り、パーティーメンバーの速度に差が出てしまう。

 それを解消するためにパーティーを組んだときは非戦闘時限定であるが疾走力が一番高いパーティーメンバーの数値が他のメンバーの疾走力となって歩行速度が均等となる。


 そういった仕様がツインファンタジーワールドにはあり、詰まるところ――現在のアルーセの疾走力はセリニと同じ104である。


 ――それが……あなたを……。

 しかし元の数値との差がありすぎる為なのか、身体を動かしたアルーセは転びそうとなって先の騒動を起こしてしまった――昨日リーザロッテとパーティー組んで歩行速度が目に見える形で上がる場面を直視していた故に転倒しそうになったのは自身の速度が原因だとセリニは見た一瞬で気づいて罪悪感を抱いた――それが一心不乱に謝罪をする理由であった。


「もう慣れたから」


 そう明るく語ったアルーセは自身の歩みを見せる。

 それは外を出れば見かける人の動きそのもので自然な挙動であった。


「だからセリニちゃんが気にする必要はないわ――わたしの油断が理由よ」


 はっきりとした口調で言い切ったアルーセ。

 それを正面から受け止めたセリニは相手の気持ちに添おうと考え始めた。


 ――アルーセさんが……言うのでしたら……わたしも……。

 相手が意に介さないと語ったのならばこれ以上の言及はしない方がいいと思ったセリニは顔を前に向けた。


「解り……ました」


 そして諾了する言葉を口にする。

 その声が空間に響き渡るが――別の部分で気になる点があり、矢継ぎ早にセリニは控えめな色合いで口にする。


「その……アルーセさんもマノンさんと知り合いですか?」


 慌てながらも二人が迅速に会話していたのを覚えていたセリニはその可能性が過る。


「違うわ、さっきのが初対面で初めての会話よ」


「え……そうだったんですか」


 しかしその推測は否定されてセリニは驚いた。


「ええ、そうよ。けどマノンは信頼できる。そう感じられたのよ」


 ――マノンさんは……卵の孵化を手伝ってくれましたから……解ります。

 そう言ったアルーセに理由こそ直接明かさないがセリニは内心で同意する。


「なら……一緒に現れた二人が誰か……解らないですよね」


 アルーセがマノンと知り合いで無いのならば、同時に登場した二人の男性プレイヤーの見当がつかないと判断したセリニに「そうね」と同意の言葉が届いた。


「タイミング的にマノンの知り合いなのは間違いなさそうだけど」

 

「そうですよね……マノンさんのフレンド……もしかしてギルド……」


 マノンがギルドと関わることを口にしたセリニ。

 対して悩む動作を見せたアルーセだが数秒でその動作を解いた。


「考えても仕方ないわ」

 

「――はい」


 情報源は先の一瞬だけ――そこから推測できることは殆どいことからもその言葉に同意したセリニ。

 しかしその一方――


 ――何処かで……聞いたような……。

 届いた声の片方側が聞き覚えがあると思えたが――確証がない為に心の内側に留めておくこととした。

 それと平行して塔の前での出来事が脳裏で再生されたセリニはある部分が疑問となって声として零れた。


「帽子が落ちたのは……どうして?」


 二日連続であるために気になっていたセリニ、とは言っても現実でも起こりえる現象で些細な事と思っていたが――アルーセが反応する。


「戦闘できないエリアだからよ」


「それと……どのような関係が?」


 言った要素がどう結合したらそうなるのか解らないセリニにアルーセは答える。


「街とかだと身につけた帽子が落ちることもあるわ、けど戦闘可能なエリアだと帽子が落ちることは決してない」


「決して……」


 強い語調でそう言い切ったこともあって印象が残ったセリニ――それと同時に昨日街に出て、フィールドに赴いてからの出来事を思い出す。

 するとアルーセが言っていることが正しいと気づけた。


「あれだけ動いたのに……帽子が一度も落ちた覚えがないです」


 暗影の髪飾りを入手するまでは帽子を装備して縦横無尽にフィールドを駆け巡って、巨樹から落下――川を泳ぎ――弓矢での戦闘――暗影のゴブリンと激戦。

 そんな出来事を連続して経験していたセリニだが――その際には動作によって帽子を落とした経験は一度もなく、落ちそうとすら考えた場面は一度もなかった。


「そういう仕様よ、理由は――言わなくても解るでしょ?」


 そうアルーセから問われたセリニは言われずとも真相に気づいた。


「戦闘で落ちたら……駄目だからですか?」


 戦いの時にある動作の拍子で帽子が外れてしまい、それが原因で動きを止めて負けてしまう――自分自身が一度のミスで大ピンチに繋がるステータスの構成をしていることを強く自覚している故にセリニはその可能性に瞬く間に辿り着いた。


「ええ、だから戦闘が可能な場所では装備した帽子は外れない――あるタイミングを除いたらだけど」


「あるタイミング?」


 含みある言い方をしたアルーセにセリニは尋ねると答えが明かされる。


「HPが0になった時に帽子が外れるようになるわ」


「HPが無くなったら……確かに……帽子が落ちても大丈夫ですよね」


 アルーセの説明に納得できたセリニ――それと同時にそれは自身にとっての利点になることに気づいた。


「でしたら……帽子が外れるのは――倒せた合図。倒れているのに防止が外れなかったら……生きている判断材料にもなるんですね」


「そうよ、だから死んだふりをするプレイヤーを見分けるのに活用できるかもしれないわ」


 メガロスクエストに向けて良いことを聞いたと思えたセリニを尻目に突如歩を進めたアルーセは地域を宣伝するpvに登場する人物を想起させる声色でセリニに語りかける。


「ところでセリニちゃん、初めてのヘイス・ピュルゴスはどう?」


 ――そういえば。

 この場所に到着した早々にアルーセに謝罪をしていたセリニは場を把握できる心境ではなかった。


 ――ちゃんと……見てなかったです

 故に落ち着いた今こそ初めて見る心持ちで――アルーセに提案されるままにセリニは周囲に目を向けることにした。

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