第87話 銀髪弓使いの幕間 その20
銀髪の少女がヘイス・ピュルゴスに慌てながらも入った一部始終を見終えると同時にエクストはサングラスに触れながら所感を口にした。
「派手な突入ですね」
独り言を聞いたヴェルフは楽しそうな色合いでそれに応じる。
「良いんじゃねえか――動きのキレが増してたぜ、レベルも上がったみたいだ」
「ええ、それは間違いない。ギルドに誘えなかったのが残念です」
昨日も見た銀髪の少女と同一人物と確信して各々で好き勝手に言う二人にマノンは呆れながら口を挟む。
「その様子だと――あたしと同じであんた達も勧誘したがっていたのは……あの子で間違いないみたいね」
先の銀髪の少女はギルド誘った関係であり、そしてフレンドであった。
当然その名を知っているマノンだが――周囲には未だに不特定多数のプレイヤー達がそれなりにいる状況である故に名を出すことは避ける事とした。
「そのようで――奇遇なことだ」
偶然とはいえ面白いこともあると思ったエクストは周囲に目を向ける。
「流石に人が多すぎですか」
周りに言及するエクストを見ながらヴェルフはその理由を語る。
「ベータテストからの古参だからな、かなりの有名人なんだろうな」
エクストに向けてそう語ったヴェルフであるが彼自身も着目されている。
そして最も注目を集める要因であった銀髪の少女がこの場から移動してもなお人の数が減らない理由をある程度察していた三人はどうするべきかと思ったその刹那――色彩が抜身の刃が実体化したような鋭利さで構築された少女の声が場を満たす。
「みなさんは――見世物じゃないんだけど?」
無から入れ替わるように突如姿を現わすのは白髪の少女――フォスであった。
同時に空気は激しく揺らぎ――その赤い瞳からは触れるだけで切り刻まれそうな威圧感を解き放つ。
「!!」
色々とあった為に物見遊山な気分で見物していたプレイヤー達は突如喉元に刃を突き付けられた心地となって――逃げるように場から移動する。
だが――最上位の強者に位置する場にいた三人に注目していた一部のプレイヤー達は同格のプレイヤーが突如現れて威圧される――そんな事態に屈することもなく。落ち着いた足取りで歩み始める。
その中の一人であり、肩にマントを装着して――豪華な装飾が施された漆黒に深紅と金色を加えた鋭利な鎧で全身を覆い尽くして肌を一切露出していない一際目立つ一人のプレイヤーが若いながらも威圧感と切れ味を含めた声で意味深長な呟きを漏らした。
「まだ名がないマノン――そして二つ名を持つ殲輪のヴェルフに無塵のフォスか――楽しみにしているよ、知将エクスト」
――無塵ですか。
――そして私の名。
――マノンとヴェルフの名も。
フレンドと自身の名が含まれていた事もあり、それを聞き逃さなかったエクストは現れた少女であるフォスに関わることを早速伝えた。
「無塵……貴女の二つ名みたいですよ、フォス」
「初めて聞きました」
「おめでとうフォス!」
祝福の言葉を向けるマノン。
「そうなんだ――ぼくに二つ名」
表情に見せないがフォスの声色には喜びが加えられていた。
「嬉しそうだな」
その変化に気づいたヴェルフの言葉を無視する形となってマノンがフェスに少々怒り気味な声を向ける。
「それはそれとしてフォス、威圧感を出すのは仕方ないけど、やりすぎ!」
周囲のプレイヤーに対して少々嫌な気持ちを感じていたためにフォスの行動に理解を示しながらも周囲を見るマノン。
その先では座り込んでいたプレイヤーの姿があり、立ち上がるとその場を立ち去った。
「だって……みなさんのことを」
「私達は自ら注目が集まるようにしたので、故に貴女が気にする事ではありません――想定以上に集まったのも事実ですが」
底意から落ち込みしょぼくれ顔となったフォスに優しげに話したエクストに続いてヴェルフは真面目な様子で語る。
「ああそうさ、俺はあの子に借りがあるからな、問題ないぜ」
「借りですか」
――あの子?
――どんな子?
ヴェルフが呼ぶ誰かに対してどんなことをしたのかと思ったフォスだがいつもと違って真剣な様子であるのは即座に察せた為にこの場で起きたことの追求はせずにこの後どうするか聞いた。
「みなさんはこれからどうします? ぼくはスキルを求めて狩りに」
「あたしはフレンドと食事」
「俺は手伝い」
「私はコロシアムを」
各々見事に千差万別――それを把握したエクストは総括の言葉を向ける。
「では解散としましょう――フィールドボスが来たらすぐに連絡をします――先程のコルノ・コニリアは瞬く間に倒される事態となった故に」
言葉が過ぎると三人の返事が聞こえると一人を除いた者達はパネルを操作して同時に粒子となってその場から姿を消した。
そしてその場に取り残されたマノンにゆったりと歩み始める。
「今日はどの店を食べよう――他に空いてる子いないかな」
――せっかくだから、セリニも誘いたかったけど。
――あの子は他の子といるから駄目か。
食事とフレンドのことを考えながら人波に紛れたマノンは瞬く間にその人の波に沈みゆく。
数分前の出来事は過去の彼方となって、今し方の塔を求める人々で満たされ始めた――そんなこの世界では当たり前な光景をヘイス・ピュルゴスから最も近い建物の上から見下ろす者達がいた。
「行ったか――結局あの銀髪のプレイヤーとはどんな関係だったんだ?」
一人は数分前にエクスト達の間近に立っていた装飾が施された黒い鎧で全身を覆い尽くす少年であった。
それに対してぼそぼそとしながらもかわいらしい少女の声が向けられる。
「ここで見ていて良かったんですか? 挨拶するチャンスでしたよ」
その声に応じて鎧の男は視線を下に向ける。
屋上の端に足を出して座り込む少女がそこにいた。
その身の外を包むのは魔女を想起させるローブ。内側の下はフリル付きのロングスカートであり、上はフリル付きの高貴な者を想起させる服装であった。被るのはとんがり帽子――全体の色彩は白縹に紺を加えたものであった。
髪色は薄水色で髪の長い、目の色は青であった。
顔立ちは特徴らしい特徴が無いが――美人と評される不思議な雰囲気があった。
そんな少女は鎧の男にねっとりした口調を向ける。
「魔王オスクロ様?」
「――」
オスクロ――そして魔王と呼ばれた少年は一呼吸置いた後にその言葉に呆れ交えな色合いで返答する。
「魔王か――そしてその言い方、わざとかアーデルハイト?」
それを受けたオスクロは少女の名を口にする。
「いいえ違いますよ、拙は貴方の部下であり事実を言ったまでです」
淡々としながらもはっきりとした色合いで語ったアーデルハイト――それは本気で言っていると察したオスクロ。
「俺はギルドに誘っただけで部下にした記憶はないんだがな」
オスクロが語ったその内容に「そうですけどね」とアーデルハイトは軽い笑みを浮かべながら肯定する。
「でも……魔王の二つ名を持つ貴方には部下の方が相応しいじゃないですか? もしかして、魔王の名を嫌っていたり?」
魔法は自称ではなく他称であることを知っているアーデルハイトの問いにオスクロは答えた。
「魔王の名は気に入っている――原初赫闇を使っているだけでそう呼ばれるのは想定していないがな」
「あのエクストラスキルを発動させた光景も理由になるかと――その衣装を着ているのも?」
アーデルハイトの指摘にオスクロは「それもあるかもな」と応じる。
「だが気に入ったから着ていただけだ」
――その言い回し、まるで。
そう語ったオスクロに対して勘づいたことがあったアーデルハイトは迷わずに指摘した。
「ならその見た目装備は誰かから貰ったもの?」
現在のアーデルハイトが着ている衣服はフレンドが作成したオリジナルデザインのおしゃれ装備であった。
故にその発想に即座に浮かんだ少女にオスクロは応じる。
「レオナとかいうよく分からないプレイヤーから送られた」
見た目こそ気に入った様子であるがそれ以外に関しては関心が一切ない様子を見せたオスクロ。
それを見てアーデルハイトはこれ以上は野暮だと思い、自身が気になっていた別の事を尋ねた。
「オスクロ様がこっちに来る寸前にコロシアムで時折感じる威圧感? みたいなの感じましたけど――放ったのはオスクロ様ですか?」
アーデルハイトが数分前に感じたものに言及する。
――オスクロ様でも流石に。
しかし曖昧な表現しか出来なかった為にまともな返答は正直期待していなかったアーデルハイトだが――既に解答用紙に記されているかの勢いでオスクロからの答えが届いた。
「放ったのはフォスであれは威圧感だ」
「威圧感?」
自身が言った内容がそのまま返ってくるとは予想外であり、首を傾げるアーデルハイトにオスクロは説明する。
「スキルを使用すると全身から力が漲る感覚があるだろう?」
「ありますね」
現実で例えるならば身体を動かそうとする直前に身体の内側で感じる流れ――それがスキルを使う直前に流動的に伝わってくる。
それはアーデルハイトにも理解できる。
「その感覚をスキルなしで起こして意図的に周囲に発散するのが威圧感の正体だ――VR前のゲームで例えるなら、隠しコマンドみたいなものだ」
「難しそうですね」
言いたいことは感覚ではなく直感的に呑み込めるアーデルハイト。しかし即座に可能かと問われたら否と答える。
「俺はやれる」
自身は可能だと語るオスクロ――だが続くのは使用者のみに解る感覚から連なる否定の言の葉。
「放っている間はスキルも使えず身体も殆ど動けずダメージも発生しない、可能なのは平常心のプレイヤーとモンスターの動きを止める程度――普通に攻撃したほうがいいだろう」
戦闘での観点からすると駄目駄目だと言い切った魔王と第三者から表された少年にアーデルハイトは自身が想ったことを告げる。
「ですけど、魔王らしくていいと思いますよ、格好いいですよね、オスクロ様」
「それは――否定しきれないな」
照れくさそうに言うオスクロ。
――ちょっと恥ずかしい。
直接的に言い過ぎたと思ったアーデルハイトは別に聞きたい事もあった為に話題逸らしも兼ねてそのことを言った。
「ところで、エクストだっけ、彼に何か言いたくて様子見てたはずなのに既に移動してますけど、それでいいのですか?」
オスクロが建物の上で陣取っていた理由を口にしたアーデルハイト。
――拙は付き添いだけど。
自身がいる理由を内側で吐いたアーデルハイトにオスクロは落ち着いている理由を話した。
「実はもう既に彼に言うことは言っている」
「? ならどうしてまた言おうと?」
アーデルハイトが状況が矛盾していると指摘するとオスクロは若干恥ずかしさを込めた声で語る。
「言ったんだが――相手に届いているか解らない」
「あーそういうことですか」
――自身の声が届いているか不安になる。
――拙も経験があります。
オスクロが言いたいことを理解したアーデルハイト。
「とは言え――メガロスクエストに向けてエクスト側の戦力を確認できたことは大きい」
「『殲輪』『無塵』『知将』……まさか拙達以外にも三人の名前付きのメンバーを揃える人達がいるとは思いませんでした」
素直な所感を口にしたアーデルハイト――そんな彼女にオスクロは警告するような色合いで語り出した。
「名前付きが最優先なのは当然だが、それ以外にも注意するべきプレイヤーはいる」
「それも解っています、マノンも侮れません」
エクストの仲間の名を口にするアーデルハイトにオスクロは自身の見解を明かした。
「一番注意するべきはコロシアムに出ていないプレイヤーかもしれないがな」
それに対してアーデルハイトは呆気にとられる。
「――それを言ってしまうと戦えるツインファンタジーワールドを遊ぶ全ての人を注意しないと駄目になりますよ」
それはそうだと思ったオスクロは頷いたが自身が言いたいことを紡ぎ出した。
「確かにだが――先にコルノ・コニリアが現れた時、俺はギルドメンバーの候補がいないかと傍観していたんだが――その時に討伐したプレイヤー達がトップクラスの実力者ばかりだった。そして一人を除けばコロシアムで見かけない顔だったからな」
「その一人とは?」
その話が気になったアーデルハイトにオスクロは「龍槍のヒムガル」と伝えた。
「拙達と同じ原初スキル持ちの」
その名を知っているアーデルハイトは驚いた。
「俺と同じ始まりの七人の一人である烈槍のビレイグと他プレイヤーを全員巻き添いにしながらも槍で互角の戦いをしたヒムガルが共に行動するプレイヤー達だ、おそらくコロシアムに出ていれば名前付きなっていただろう、名前付きだけ危険視するのも危険ってことさ」
オスクロが見たのは希な例――正直そう思案するアーデルハイトであるが知らないプレイヤーだからと油断するのは駄目だとは思った。
「肝に銘じます、オスクロ様」
それを丁寧な口調で言ったアーデルハイトに「またか」と零したオスクロだが悦が入った声に塗り替えながら「それと四人だ」と言った。
「四人?」
「俺達側の名前付きの人数さ」
そう言われたアーデルハイトは味方側の二つ名を口に出した。
「魔王オスクロ様に切尽のゼンくんに」
この場にいない共通の知り合いを含めたアーデルハイトに続いてオスクロが言った。
「氷姫――アーデルハイト、昨日までは計三人だった」
「氷姫……誰が付けたか解らないけど恥ずかしいです」
言動通り恥ずかしがっている様子のアーデルハイトに呆れた色合いでオスクロは語る。
「魔王がいるなら姫が登場するのは自然だろう」
「確かに――物語の基本ですね」
言われたことを嬉しく思いながらもアーデルハイトは『四人目』に関して聞こうとしたが――現れたパネルによって遮られる。
「俺にもか」
それから程なくしてオスクロにもパネルが出現する。
「イベントが起きたから手伝ってか」
オスクロが口にした内容はアーデルハイトにも当てはまるものであった。
「拙も同じです」
「なら向かうか」
「はい!」
オスクロの言葉に二つ返事で応じたアーデルハイトは場所を確認しながら立ち上がると同時に――揺らりと浮遊を開始する。
「近いから飛んでいきます」
そう言うとアーデルハイトは空中を突き進み瞬く間に街の端に到着するとそのままフィールドにその身を躍らせる。
「俺は皆と合流してから行くとしよう」
一方その光景を見ずにパネルを操作して、それを終えたオスクロは天井から姿を消し去った。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!
次の更新は金曜日を予定しています。




