第86話 銀髪弓使いは転倒から
「入り口も……大きい」
天に届く程の長大な塔――ヘイス・ピュルゴスと最も近い地点に到達したセリニは呟きを漏らしながら見上げている。
その視線の先には鉄の扉があった、
建物が巨大であるならばその出入り口もまた大型であった。
「だけど……開いていない」
――近づけば……開くのかな?
だが扉は開放されていない。閉まっている状態を維持しており、その点は現実と同じであって馴染み深くと感じたセリニに隣に立ったアルーセが声を向ける。
「開くことはないわ」
「え……そうなんですか」
扉なら開閉するかと考えていたセリニは軽く驚いた。
「では……どうやって……」
ならば塔に入る方法があるのかと思ったセリニにアルーセは反応する。
「あれ」
そう口にしたアルーセの視線を追う。
すると扉の前に赤銅色の服を着た男性と紺色の服を着た女性が立ち止まっていたが――粒子となって消え去った。
「ああいう風に入るのよ」
「そういう……事ですか」
それはゲーム的な入り方であり、見た途端にセリニは納得した。
「世界的には一定の地位となった人だけが入れる」
「え……」
――わたしは……まだ何も……。
そのことを聞いたセリニはこの世界に来てからは戦いに明け暮れていて――何らかの貢献をした覚えがない。
――入れないとか……ないよね……。
それを知ったと同時にセリニは寒気を感じる。
――アルーセさんに……迷惑を……。
そうなっては初めてのフレンドに負荷となることを恐れた故であったが――それは見当違いだと届いた言葉で察せられる事となる。
「憑き人は無条件で入れるからわたし達は普通に入れるけど」
「え……」
さして感情を込めずにアルーセが口にしたのは自身がNPCの老人を通じて呼ばれた名であった。
――選択肢に憑き人も……あった。
そしてログインしてから少し経って出会った三人のNPCと遭遇した時に現れたパネルにも書かれていたとセリニは気づいた。
――なら……大丈夫ですね。
それらの情報から自身がアルーセの迷惑にならない。そこから安心感を得たセリニは声として表に出した。
「良かった」
「?」
唐突なことを聞いたと思ったアルーセは少しばかり当惑するが声色が明るいこともあり、触れる必要はないと思うと――セリニは更なる独り言を口にする。
「ボスが潜んでそう」
建物の雰囲気が荘厳でここはゲームの世界であることもあってそんな所感を感じていたセリニ。
「的外れではないわ」
それを横から突くような言い方をアルーセはする。
「え……」
それが届いたセリニは刹那に浮かんだ予想を口にする。
「も……もしかして……塔に入った途端に……ボス戦とかですか……」
試練として戦闘が発生する。そんな場面の想像は容易かったセリニにアルーセは言葉を向ける。
「そういった展開ではないわ」
否定されたセリニであったがあくまで想像しただけなこともあって気にしないがならばアルーセが話したそれはどのような意味があるのかと思う最中に声が届いた。
「とりあえず塔の中に入りましょう、中は落ち着いた雰囲気よ」
そう言ってゆっくりと歩を進めるアルーセ。
――そうですね。
――ここは……落ち着けないです……。
未だに周囲からの視線を感じているために別の角度からその言葉に同意したセリニは歩むが――扉の前で「そういえば」とアルーセは言いながら足を止める。
「?」
いきなりであり、何なのかと感じたセリニにアルーセは声を向ける。。
「パーティーを組んだほうがいいわ」
「パーティー……ですか?」
ここがオンラインゲームであるために言いたいことは解るセリニであったがタイミングが唐突すぎると感じた。
それはアルーセも理解しているのか、続けてパーティーのことを話した理由を語った。
「パーティーを組めば、パーティー専用のエリアに行けるのよ、セリニちゃんはヘイス・ピュルゴスに入るの初めてでしょ? ならそうしたほうがいいとわたしは思ったけど」
内容を聞いた矢先にセリニはアルーセが話した詳細を理解する。
「あの……もしかして……ガイアの安らぎ……と同じですか」
セリニの脳裏に過ぎたのはダンジョンの中間地点で休憩所と言えるエリア。その言葉が届いたアルーセは「立ち寄ったみたいね」と呟きを口にする。
「ええ、その場所と同じでマルチ、シングルにフレンドと三種類のモードを選べる場所よ」
そこまで聞き終えると同時にアルーセがパーティーが組みたいと話した理由にセリニは領解を得た。
「解りました……パーティーに誘います」
ならば早速実行に移したいと思ったセリニはパネルを操作したが――その傍らで――
――あ……わたしが誘われる……べきでした……。
しかし出過ぎた真似をしてしまったと感じたセリニは――自身がした行動と言動をどうするべきかと考え始めた。
「解ったわ」
そんなセリニの心境とは裏腹にアルーセはパーティーを組むことを了承する。
――考えすぎた……かな……。
それを受け止めたセリニはマイナスに思考を向けたことを反省しながら前を見た。
すると視界にアルーセが映り込むが風で飛ばされるビニール袋のような挙動であり、それを見たセリニは面を食らう。
「あ……アルーセさん!」
見るからに不安定な動きであり、つられてセリニが声を大きく上げながら動いた途端に被っていた帽子が外れたと自身の感覚が告げる。
しかし転びそうになっているアルーセに意識を向け――土壇場で体勢を立て直して踏み留まる場面を目撃する。
「転倒するところだったわ」
「そうならないで……良かった……です」
駆けつけながら安心したセリニ――そして同時に抱くのは罪悪感であった。
――わたしの……所為……です。
アルーセが転倒しそうになった原因は自身の中で既に推測していたセリニは罪悪感を伴いながらそのことを言おうとしたが――周囲からかなりの視線を感じた事で喉から声を出せなくなった。
――お……大きい声を……出したから……ですね。
突如な事態であり、驚いて思わず声量を上げていたことを自覚していた故にセリニはその原因を把握する。
彼女は気づいていないがそれ以外にも帽子が取れたことで整った素顔を表に出したことも理由の一つであったが――とにかく心境はピンチであった。
――と……とり……あえず……。
予想外な事訳であり、何をすればいいのか思案しようとした矢先――セリニは視線が途切れたと気づいた。
「え……」
それと同時に知っている女性の声が届いた――それはアルーセとは別人だった。
「帽子が落ちていたよ」
自身の帽子を持ちながら姿を見せたのはセリニにとっての二人目のフレンドであるマノンであった。
「え!」
帽子を受け取り、被りながらも知り合いの登場に驚きの声を上げるセリニ――それと同時に二人の男性の声が耳に届いた。
「――あなた方には関係ないですよ」
「そういう事さ――さっさと散りな」
――ど……どんな状況……なのですか。
意味が分からない為に当惑の感情が全身に満たされたセリニにマノンは平常運転な様子で声を向ける。
「ここにいるってことはヘイス・ピュルゴスに用事ってことでしょ? 行きなさい」
と、言われたセリニはどう返答するべきか迷うが――変わりにマノンが応えた。
「そうさせてもらうわ、行きましょう」
言うや否やマノンは既に歩を進めて扉に触れており、パネルの選択肢を触れると同時に姿を消した。
「は……はい!」
ワンテンポ遅れたセリニは緊急事態と思った故に戦いの最中にいる心境となり――その場を跳躍すると扉の前で優雅に着地すると手早く操作する。
「す……すみません!」
状況は一切把握できていないが反射的に一言謝ったセリニの姿はヘイス・ピュルゴスの中に消えていった。




